死んだVTuberに殺されました

ライリーライリー作曲家

死んだVTuberに殺されました

-プロローグ-

テーブル上でスマホが鳴る

『日本における若年層の自殺者数が過去最悪水準:政府より』

充希(みつき)はホーム画面に表示される見出しを一目見てポケットにしまった

「誰かから連絡?」

昼下がりのカフェ、対面の席に座る栞(しおり)が不思議そうな表情で尋ねる

「いや、ただのニュースだよ。俺ら世代の自殺が増えたとかそんな内容」

「ふぅん、なんか嫌な世の中になったよね…昨日も誹謗中傷が原因でミアちゃんも...あ...ごめん...」

「ううん、大丈夫だよ。それより久々に二人で遊んでるんだしさ...暗い話はやめよう」

充希と栞は都内の大学内で知り合い半年前に交際にいたる

最近は大学三年生になり就職活動も近づきお互い忙しい日々を送っている

一年前

「あの...」

「はい...?」

「授業中なのにごめんなさい...充電器持ってたりします...?スマホの電池切れて講義の出席を押せなくて...」

「あぁ...それだったら全然いいですよ!」

「ありがとうございます!あれ?ごめんなさいちょっと見えちゃって...。今観てるのってもしかしてミアちゃんですか?」

「う...うん、そうだけど...」

「ミアちゃん...私もよく見てるんだよね...!」

そんなひょんな事から出会いが始まった

二人を運命的に繋いだ凛月ミア

企業等には所属せず全ての運営を自身で行う、俗に言う個人勢VTuberだ

デビュー直後から人気が急上昇していた一人だったが先週、何も報告が無いまま活動が止まった

突然の失踪にファンやゴシップ好きが様々な憶測を立てていた

というのも当時SNS等ではミアに対する誹謗中傷が目立っていた

時々ミア自身も心を傷めている旨を投稿していた等の理由から

ミアが自殺したのではないか?という説が濃厚とされていた

視聴者の一人森重充希

彼は過去の苦しみや怒りを抑えきれず

ファンを装いミアに誹謗中傷を行う内の一人だった

そしてこの7日後…

森重充希はVTuber凛月ミアによって殺されるのであった


-1-

「あいつ...もしかして...」

大学の大教室の1番後ろの席に座る森重充希を見て

智大(ともひろ)はふと思い出す


「なぁ」

智大は一番目をつけられたくない奴らにまた見つかった

「お前さ、いつも何考えてるかわからないし女みたいになよなよしててキモイんだよ!」

「何か言ってみろよ!おい!」

"何とでも言ってくれ"そう何度も唱えながらも、心が哀しみに侵食される

騒ぎが大きくなると自然と

「岩田くんにちょっかい出したのは誰ですか?言わなくても先生はわかってます!いいですか?いじめは絶対にしてはいけません!」

教師が介入する

これが教師という職業が通過儀礼として行う気持ちのこもっていないただの作業だということを子供ながらに感じていた

それだけでなく

「この人はいじめを受けているかわいそうなやつ」というレッテルをクラス全体もしくは学校全体に貼られる最悪の儀式だ

確かに一時的にいじめはストップする

しかし心無い教師の言葉など純粋無垢な子供たちに届くはずもなく、また智大へのいじめは自然発生する


森重充希...


彼は同じ中学で智大をいじめる一味の一人だった

しかし直接手は掛けずいつも奴らの近くで智大を嗤っていた

結局三年間大人達が見て見ぬふりの下いじめは断続的に続いたのである

そして奴らから逃れるため

また痛みを忘れる為に遠くの高校を受験した

--------

「まさか自分がいじめに遭うとは思わなかった」

田舎の中学で伸び伸び暮らし成績も良く、部活動でも部長を務めた充希は推薦で都内の進学校へと進んだ

進学校と聞くと最初こそ

真面目な、いわゆる好青年が多くいる学校を想像するが

悪ふざけ等が多く年相応の悪態を教師に取る、しかし学業や打ち込むスポーツでは非常に高い成績を残す

こんなタイプが多いのが実情だ

そして私生活でも賢く動く、表立ったいじめ等は行われず、教師の絶対に見えない所

つまりインターネット上の狭いコミュニティでひっそりと行われる

充希は進学し中学時代の華々しいカーストに縋りながらも、力不足を何とか補おうと色んな行動を起こした

しかしそれが全て空回りとなり

周りからはいわゆる『痛いヤツ』として認識されネット上でのいじめの格好の獲物となったのだ

ネット上に晒された自分への攻撃は、全学年の目に止まる

すると校内にいる全ての人間が自分を哀れな目で見ていると錯覚を起こす

そんな日々に耐えられなくなりやがて充希は学校に行かなくなった

その後何とか受験資格を得て大学へと進学したものの、傷つきたくない一心で心を閉ざし極力目立たないように生きる事に専念した

大学に行き教室の後ろでスマホを弄り、授業が終わればバイトをし、家に帰って寝る

ただそれだけの生活を送っていた

寝る前に何となく動画サイトを漁っていた

そこでは有名な配信者がリスナーにちやほやされて、笑っている映像があった

「コイツらと俺で何が違うんだよ...」

ふつふつと怒りの感情が沸いてくる

それが理不尽な感情である事は理解できた

でも本能が許さなかった

森重充希は沸き上がる嫉妬から配信者への誹謗中傷を始めたのであった

--------

森重充希...あいつ同じ大学だったのか

突然目の前に現れた最悪の思い出に智大は眩暈を覚えた

その直後

授業を終えるチャイムが鳴った

落ち着きを取り戻した智大は立ち上がり

充希の下へ向かった

「ねぇ」

「え...」

「森重くんだよね...?」

「あぁ...え、もしかして智大?」

「そうだよ!久しぶり!」

「マジで!?同じ大学だったんだ!元気にしてた?」

「元気だったよ!!びっくりだね!」

(元気な訳ないだろお前らのせいでがどれだけ苦しんだと思ってるんだ。いじめをした奴らは自分の罪を忘れるもんなんだな…)

「次この授業さ...一緒に受けない?」

智大は咄嗟に言った

「お!いいよ!俺も受ける友達とかいないからさ嬉しいよ!」

「ありがとう!じゃあまた次の授業で!」

「おう!」


-2-

森重充希と授業を一緒に受けるようになり数週間が経った

特別過去の話をぶり返す事も無く他愛もない会話を繰り返しながら奴の事を探っていたが

何も目新しい物は見つからなかった

「今日のプリント前に取りに来てくれ」

教授が生徒を教卓と前に呼び出した

「あ、俺が取りに行ってくるよ」

そう言って充希は教室の後ろから前へと進んでいった

その時机の上に充希のスマホが置かれていることに僕は気づいた

そして自然と付いたままの画面に目をやった

「あい、これ!プリント!」

「あ...ありがとう...」

「あれ?俺のスマホ見てどうしたの?」

「え?いや...ごめん目に入ってつい見ちゃった...」

「いいよ、全然隠してないしさ!」

「この人が推しなの?」

「そう...だね...。へへ、なんか恥ずかしいな...」

「いや、そんな事ないよ人気じゃん今」

「そうだよね、どうしてこんなに人気なんだろうね…」

「推しなのに...わからないの?」

「あ...あぁ、なんか気づいたら見てたってパターンかな?」

(違うだろ、お前はそんな目的で見ていない、お前はファンの皮を被ったアンチを楽しんでる昔から変わらずの屑だ)

「僕も名前だけはよく聞くけど、まだしっかり見てないからちょっと見てみようかな?」

「マジ?あんま沼ると抜け出せないから気をつけた方がいいぞ」

「大丈夫、その辺は心配いらないよ」

「そっか、じゃあ感想楽しみにしてるわ」

「うん」


--------

その日の夜

充希のスマホにメッセージが届く

「配信見たよ。めっちゃ面白かった!」

充希は少しイラッとした

どいつもこいつも一辺倒に面白いとか可愛いとか...マジつまんねぇ...

「でしょ?流石だよね」

「面白い人を教えてくれてありがとう!あのさ僕からも1人オススメしたいんだけど、いい?」

(何言ってるんだこいつ…?お前のオススメなんて興味ねえよ)

「お、是非教えて!」

「あのね、VTuberなんだけど充希見たりする?」

「VTuberは、あんま見てないけどなんて人?」

「凛月ミアってVTuber」

凛月ミア...?聞いた事ある名前だ

最近デビューをして飛ぶ鳥を落とす勢いと言われてた気がする。結局ミーハーなだけかよ

「OK!明日見てみるね!」

「ありがとう!感想楽しみにしてる!」

次の日智大は学校を休んだ

どうやら風邪をひいたらしい

とりあえず感想を送るために授業中講義室の1番後ろで凛月ミアの配信を眺める

想像通り大して面白くもないのにリスナーにチヤホヤされてるタイプの配信者だ

見ていて腹が立つ

「あの...」

「はい...?」

「授業中なのにごめんなさい...充電器持ってたりします...?スマホの電池切れて講義の出席を押せなくて...」

「あぁ...それだったら全然いいですよ!」

「ありがとうございます!あれ?ごめんなさいちょっと見えちゃって...。今観てるのってもしかしてミアちゃんですか?」

「う...うん、そうだけど...」

「ミアちゃん...私もよく見てるんだよね...!」

とても小柄で凛とした屈託のない笑顔の女性に充希は一目惚れをした

--------

栞と付き合い始めてから

とても幸せな日々が続いた

包容力も有り可愛げも有って何よりも一緒にいて落ち着く事が出来る人だ

休みが合う時には色んな箇所に旅行をし、二人だけの思い出を沢山作った

普段も互いに一人暮らしという事もあり

栞が充希の家に遊びに来る事も多かった

ただおなじ空間にいるというだけで、互いに自分の事をやる。そんな日々が続いた

充希は変わらず凛月ミアの配信を見ていた

栞と付き合うようになってから誹謗中傷の一切を辞め彼女と二人純粋に凛月ミアの応援を始めた

「ねぇ、ミアちゃんさぁ…最近アンチ増えたよね...流石にエスカレートし過ぎっていうか...」

「......」

充希は何も言い返せなかった

「充希?どうしたの?」

「あ、いや...なんでも...」

(アンチの流れに加担した自分の罪は重い、しかしもう俺は変わったんだ。隣に一番大切な存在がいる。ただ、それだけでいいんだ)

そしてその日の配信をもって

凛月ミアの活動は終了した


-3-

深夜、充希のスマホが鳴る

『死ね』

そう通知欄に表示された

「は?」

ピコンピコン

『殺す』『お前はゴミ』

『何だよこれ...』

ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン

通知は止まずあっという間に、全ての表示を追い切れない程に溜まっていった...

その時充希のスマホに旧友からの連絡が入った

「もしもし充希お前大丈夫か?」

「え?何がだよ」

「お前…晒されてるぞ」

「は?なんで...」

「お前凛月ミアの事...」

「まさか...」

そう言い充希は一方的に電話を切り

検索をかけようとするがそんな必要は無いほど簡単に出てきた

『森重充希が凛月ミアを殺害』

『森重充希が誹謗中傷の根源』

『過去のいじめが原因か?誹謗中傷男性特定される』

『凛月ミアのアンチ特定したったw』

ネット上が充希に関する記事で溢れかえっていた

それは個人のブログやまとめサイトだけでなく、大手週刊誌のデジタル記事等でも大きく取り上げられていた

一体何が起きているのか?混乱を極めた眩暈を覚えた充希は深呼吸をした

しかしその間も通知が止まらないスマホは充希の心拍数をどんどん上げていくのだった

急いで通知をOFFにした充希は何も考えられず眠りにつこうとした

しかし眠れるはずもなく目が冴えたまま朝を迎えた

その時着信が来た

「充希くん大丈夫...?...じゃないよね」

電話主は栞だった

「うん...ごめんねびっくりさせちゃって」

「ううん...でも、あれは本当なの...?充希くんが誹謗中傷してたって事...」

「それに関しては...あとで...ゆっくり説明させて欲しいな...」

「わかった...でも...ごめんちょっとここ数日はテストもあるから...充希くんの家に行く余裕は無いかも...」

その時思い出したのだった

今日から大学ではテスト期間が始まるため大学へと通学しなければならないのだった

こんな世間で騒がれてる状態で学内を歩けるのか...?

そもそも大学側も聞き取りや処分とか...最悪退学も有り得るのだろうか...?

芋づる式に最悪の想像が引っ張りだされてくる...

「充希くん...大丈夫...?」

「あ...いや...うん...。大丈夫...また連絡するよ」

「信じてるからね...充希くん...。もし何があっても充希くんの味方だからね...!」

「あ...ありがとう」

少しだけ...ほんの少しだけだけど心が落ち着いた

「じゃあまた連絡するね!」

そういって電話は切れた

さて、どうするか...まずはどこに行けばいいのか...

ピンポーン

インターホンが鳴った

恐る恐るインターホン越しのカメラを確認する

「宅急便でーすー!お荷物お届けに参りました!」

そこには会社の制服を着た配達員が笑顔で立っていた

今日頼んだ荷物の配達日だという事を思い出した

充希は冷や汗や脂汗でびっしょり濡れた顔や体を拭いてから玄関に向かった

「お荷物になります!こちらに印鑑かサインをお願いします!」

サインをし配達員にペンを返す

「ありがとうございます!失礼いたします!」

そういい配達員はその場を去った

充希は荷物を片手に玄関を締める

その瞬間

「???」

玄関を締めようとする、充希の手首が何者かに掴まれている事に気づく

その手の主に目をやると

そこには見知らぬ男性が殺気立った目でこちらを見つめていた

「許さない」

「え...?」

「許さない...許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない、お前がミアちゃんを...!お前を...殺してやる...!!!」

「......!」

充希は声を上げることもできず思わず荷物を落としてしまった

同時に命の危機を感じた充希は必死に手を振り解こうとしたが、あまりに強い力で掴まれ振り解く事ができない

「い...いやぁ!やめろ...!」

「殺してやる...!!!」

充希は改めて相手の目を見やる

するとその男の背後に複数人いる事に気づく

ここはマンションの為一般の人が入れる訳がない

つまりここいる人間は全員目的をもってここに侵入してる事になる

信じ難い光景に恐怖を覚えた

充希は思わず玄関を締めようする

「ぎゃあああああ!」

男の手が玄関のドアに強く挟まれたのであった

どれだけ振り解こうにも離れなかった手が離れた

それに気づいた後ろの輩たちが一斉に玄関へ駆け寄ってきた

あまりにおぞましい光景を見ながらも決死の思いで充希は玄関を締め、鍵をかけた

「はぁ...はぁはぁはぁ...」

荒ぶった呼吸を整え、どう考えてもおかしいこの状況を思い返す

「警察に相談するべきだ」

順当にその考えに至った

しかし警察に相談する場合

ミアに対する誹謗中傷の件も罪に問われるのでは無いだろうか

いや、見ず知らずの他人に命を奪われるよりマシだ

罪ならこれから長い時間を掛けて背負っていこう


--------

「なるほど...その男性に見覚えや心当たりは?」

「見覚えは...特に無いです...ただ...」

充希は通報をし自宅に来た警察官に事の全てを話した

「なるほど...君の罪に関しては被害者側の遺族からの開示請求を基に手続きを進めるけど、まずは今回の事件、住居侵入等も含め捜査させてもらうのでまた何か不審な事があればすぐ連絡してね」

「はい...よろしくお願いいたします...」

そういって警察官は立ち去った

その間も充希のスマホには多くの誹謗中傷

さらには住所の他にも電話番号も特定されてしまったため電源を切り過ごす事を余儀なくされた

とにかく身の安全を保つために、しばらくは家に籠ることにした

幸い食糧等は事前に買い込んでいた為急ぎで外に出たり玄関を開ける必要は無さそうだった

きっと両親も心配をして電話を掛けてきてるんだろうなぁ...と思いながらスマホに手を伸ばす溜まりに溜まった通知を目の端に追いやりながら、母親の電話番号に発信した

プルルルルル、プルルルルル

反応が無い...また後で掛ければいいか...

「......」

これからどうすればいいんだろうか...

自分が蒔いた種で痛い目に遭っているのだから、どうするもこうするも無い

全てが終わってしまったんだ

これから生きていく上で自分と巡り会う人は皆この事を思い出してしまうのだろうか

そんな状態で俺をちゃんと見てくれる人なんているのだろうか...

自棄になった充希はボーッと天井を眺めた

「うん」

そう言って充希は立ち上がりクローゼットへ向かった

竿にタオルを括り付け、輪っかを作り強く結んだ

死んだ目をしながらそそくさと準備を進める

空中にぶら下がった輪っかを眺めながら充希は深く息を吐いた

充希はゆっくりと輪っかに手を掛けた

ピンポーン

インターホンが鳴った

「またあいつらが来たのか...」

そう思いながら輪っかに首を通し始める

ピンポーンピンポーン

「うるさいなぁ...もうどうでもいいんだよ...」

ガチャ

「え...?」

鍵が開いたのである

「充希くん!!」

その声は栞だった

「充希くん大丈夫!?」

「栞?」

思わず手を止め玄関に向かう充希


そこには

顔中傷だらけ、服も所々破けてる栞が立っていた

「充希くん...」

栞は充希を見つけると泣きじゃくった顔をしたまま充希の胸に飛び込んだ

「あのね...私、光希くんが心配になって、電話したんだけど出なくて...。それで家に向かってたらマンションの目の前で何人か...男の人が立ってて...それで...」

「ごめん...」

「ううん...大丈夫...でも良かった...充希くんが無事で...」

充希はなんて自分がバカな事を考えてしまってたんだろう

自分をこんなにも思ってくれている人が近くにいる事を忘れてしまっていた事を強く恥じた

「栞...ありがとう...ごめん...俺がこんな事を起こしちゃって...」

「本当だよ」

突然の冷たい声はその声は栞の後ろから聴こえた

声の主は智大だった

「智大...」

「充希くんさぁ、僕がせっかく面白いと思って凛月ミアを紹介したのに何してるの?」

「智大...ごめん...」

「もう...まぁいいよ...ねぇ充希くんは中学の頃を覚えてる…」

「中学...うん...」

「あの時から君は変わってないよね」

「変わってない...?」

「中学では強い奴らの腰巾着になって守らながら僕の悪口を言っててさ...今は何?配信で誹謗中傷...?ガキかよ...」

「......」

「そりゃ言い返せないよね...自分でもわかってたんでしょ...?」

そう言いながら智大は部屋の奥に入り込んだ

「お...おい...勝手に入るんじゃねぇよ!」

充希の言葉を耳にも入れず智大は部屋の奥に歩みを進めクローゼットに目をつけた

「なんだ...もう何もしなくても自分で死のうとしてたのか…ならちょうどよかった」

「ちょうどいい...?」

「さっきさ...充希くん親に電話したでしょ...?」

「な...なんで知ってるんだよ...」

「そこにいたからだよ。だからこっちに来るのが遅くなったんだ」

「どういう事だよ、なんで俺の親のとこにいたんだよ...!」

「これを見てよ」

そう言って智大はスマホの画像を見せた

「......!!」

そこに写っていたのは充希の両親の写真

しかし首から下が無く周りは酷く赤く染まっていた

一瞬偽物と信じようとしたがどう見ても両親の首だった

「どう?そりゃあ電話繋がらないよね。死んでるんだもん」

充希はえも言われぬ吐き気に襲われ蹲った

「今の気持ちはどう?悲しい?怒ってる?あ、でも充希くん死のうとしてたんだよね?じゃあどうでもいい事だったかな?」

「嘘だろ…嘘だろ!!嘘に決まってる!」

そう言って充希は両親へ再び電話をかけた

その時智大のポケットから着信音が漏れてきた

「ごめん充希くんのお母さんのスマホ持ってきちゃった」

そう言って手に持ったスマホには血が付着していた

「なんで…どうして…」

「僕は君を怨んでた。ずっとずっと殺したかったよ。でもね、ただ殺すだけじゃ僕は満足できないよ。君が1番辛く悲しく絶望を感じた状態で殺してやるって決めたんだ。それくらい君が今まで犯してきた罪は大きいんだよ?」

「......」

「ほら、なんか言い返してみなよ。ずっとその言葉で闘ってきたんでしょ?」

「......」

「黙っちゃったか...じゃあ、もう終わりにしよう...」

「終わり...?う...!」

その言葉と共に背中に生温かい感触を覚える

「...??」

充希は声も出せず困惑しながら後から来る強い痛みに崩れ落ちた

「はぁ...はぁ...はぁ」

息をするのがやっとな中、後ろを振り向くと血まみれのナイフを握る栞が立っていた

「し...おり...?」

やっとの事で声を振り絞り問いかける…

しかし栞は答えるつもりは無さそうだ

充希はひたすら痛みに悶えながら床に横たわる

「充希くん...」


「充希くんって本当自分の事ばっかだよね、気づかなかったの?声まで一緒なのに」

「声...?」

「私...あなたが殺した凛月ミアだよ」


「凛...月ミア...?」

段々と遠のく意識の中最後に見たのは、愛する女性の冷めた笑顔だった

--------

「本日未明東京都吉王子市の住宅マンションにて火災がありました。現場では身元不明の男性と見られる遺体が発見されています。警察は身元特定に向け捜査を進めるとの事です」


「あの...」

「はい...?」

「授業中なのにごめんなさい...充電器持ってたりします...?スマホの電池切れて講義の出席を押せなくて...」

「あぁ...それだったら全然いいですよ!」

「ありがとうございます!あれ?ごめんなさいちょっと見えちゃって...。今観てるのってもしかしてカナちゃんですか?」

「う...うん、そうだけど...」

「カナちゃん...私もよく見てるんだよね...!」

「そうなんだ!俺すごい好きなんだよね!」


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