第66話年をへて 消えぬ思ひは ありながら

題知らず

紀友則


年をへて 消えぬ思ひは ありながら 夜のたもとは なほこおりけり


あなたを思って長い年月を過ごしたけれど、消せない思いの熱い火があるのです。

ただ、その思いを、あなたは受け入れてはくれない。

だから、夜になると、衣の袖が涙で濡れ、そのうえ、あなたの冷たさゆえ、凍りついてしまうのです。


「涙で濡れた衣の袖が凍ってしまう」は、単に冬だけを意味してはいない。

相手の、自分を無視する寒々とした心でも、凍ってしまうと、解した。


思ひの「熱い火」と、対称をなす、「寒い、冷たい氷」の意も、歌に込められていると考えた。

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