悟の仕込みを、蝉は完璧な無表情でスタートさせた。

 「一番細いやつから入れていくな。」

そう言って、下半身だけ裸の状態でうつ伏せになった悟に腰を上げさせる。

 一番細い張り子でも、体内に挿入された時の圧迫感はこれまでに経験したことがないものだった。

 四肢を硬直させて呻く悟の髪を、蝉が乱雑に撫で上げた。

 「慣れろ。ここではいくら泣いてもいいけど、客の前では感じたふりくらいできるようにならなきゃ店には出せない。」

 「……はい。」

 声は嗚咽でひしゃげていた。そこは物を入れる場所ではないと、体中が危険信号を出しているようだった。

 悟は咄嗟に蝉に手を伸ばした。悟の腰のあたりに胡坐をかいていた蝉は、僅かばかりの躊躇もなくその手を握り返してくれた。

 「痛いか?」

 「……いいえ。」

嘘ではなかった、違和感や圧迫感はひどかったが、痛みがあるかと問われれば、ないとしか答えようがない。体内が傷ついているような感覚は全くなかった。

 「ちょっと待ってな。気持ちいいとこに当ててやるから。」

 「え?」

 「動かすぞ。」

 「ちょっと、待って、」

 悟の制止に構わず、蝉は体内に挿入された張り型をぐるりと体内で一周させた。

 「あ!?」

 そのどこか、腹のあたりになにか感触が違うところがある。

 狼狽した声を上げ、無意識に体を逃がそうとした悟の肩を抑え込みながら、蝉はその一点に張り型の先端を押し付けた。

 「あ、あ、」

短い悟の声には、嗚咽と嬌声が半々くらいに入り混じっている。

 「いいな、その声。そそる。」

 蝉は笑って張り型を固定している。

 悟はその快楽と違和感に身体が対処しきれず、もがきたいのに蝉に抑え込まれてもがけない身体を、びくびくと痙攣させていた。

 「あんた、才能あるよ。今日はこれを入れっぱなしで過ごせよ。明後日か明々後日には次の太さのを入れてやる。案外すぐに店に出られるんじゃないか。」

 蝉の満足そうな声は、悟の快楽をなおさら煽った。喘ぎ、痙攣する少年を抑え込みながら、蝉は薄い唇でにやにやと笑っていた。

 ひどい。

 本当はそう言いたかった。

 ひどいもなにも、はじめからこれは悟を店に出すための仕込みであって、誰か他の男にこの身体を投げ出させるための準備だと分かっていても。

 それでも、ひどい。

 「きもちよく、しないで。」

 潰れた声が出た。

 蝉は悟の汗にまみれた小さな顔に目をやると、にやにや笑いを崩さぬまま、ぽんと言葉を放り投げるように、気持ちいい方がいいじゃない、と言った。

 悟はただ、絶望するしかなかった。


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