第2話見違えたオトナの女性
河合先生、河合先生……そんなむず痒い呼ばれ方に、私は
教師を続けている
歳下から、先生先生と呼ばれる
教職に就いて、自身の情けなさに呆れる日々で挫けてばかりだ。
教師のやりがいも見失うことなんてザラだ。
未熟な教師である私に教わった彼ら彼女らが、先なんて見据えられない将来を全うに生きられるのだろうか、そんな心配ばかりが脳内に留まり続ける。
「どうしたんですか、河合先生?そんな睨みつけないでください。怖いです」
「ああぁ、ううん。睨んでるつもりはないから……安心して。その、えっと……」
彼女を睨んでいたつもりはない。普段から周囲の人間に散々言われることだ……怒ってますか、と似たことを。
生まれつきなんだから、仕方ないじゃないか……キリッとした目付きは。
「ああ……ラブレターを渡したんですけど、返事くれなかったくらいですもんね。覚えられてなくて当然か……」
ラブレター、その単語に身に覚えがあった。ラブレターで、朧げで霧に包まれ輪郭を捉えられなかったある記憶が思い出せた。
「ら……ラブレター?ラブレター、ラブレター……ってことは、清水さん、なの?アナタ……」
「はい。河合先生にラブレターを渡して、返事すらもらえなかった憐れな清水紗奈江です」
「清水さん、だったのね……あのときは、悪戯かと思って。ごめんなさい、清水さん……」
「いたずら……かぁ。脈なしって分かってたけど……そんな程度にしか見られてなかったかぁ」
「ごめんなさい、清水さん。ほんとっごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい——」
清水の表情と声が、私の身体を鋭利な刃物でメッタ刺しにされたかのような感覚にさせる。
ごめんなさいごめんなさい、と謝罪するしか選択肢はないように思えて、謝り続けた私。
あの頃のあどけなさが残る笑みは微かにおもかげに溶けていた。
その顔に浮かぶ表情は瞳を背けたくなるほど、歪んでいたから。
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