無人島サバイバル七日目(後半)
ジリジリと身を焦がす陽の光、じわりと本性を表した太陽が空を昇りつつある。あれからどれ位の時間が経っただろうか、小高い岩場で、葉っぱの日傘をさしての日光浴と洒落込んでいるところだ。
ここからならば海岸が見えると、頑張って登って陣取ったのだが、待てど暮らせど津波が押し寄せて来ている様子は無い。それは良いことなんだが。
問題は日差しだ。
とにかく日中は日差しが強いので、日焼けしないように努力している。長袖に長ズボン、余計なトラブルを背負い込まない為のそれだ。
日傘をさしてまで日焼けを気にするなんて、と思うかも知れないが、考えて欲しい。シャワーすら浴びられないんだ、海水を染み込ませて陽の光に当たるなんて、天日干しを作る気か。そもそも日焼けなんていうのは火傷であって……いや、昨日海パンの集団も居たし、日焼けの悪口はやめておこう。
俺が知らないだけで、何かの役に立つのかも知れないしな。
ゴツゴツした岩に背中を預けて、三角座りでじっと遠くを眺める。それはもう手持ち無沙汰でやる事がない、自然に考え事をするようになる。
皆は無事だろうか。
家族たちは同じような状況に巻き込まれて居ないか、楓くんは田中さんは。
……あぁ、またコーヒーが飲みたいな、雪解け水で作った彼女のコーヒーが。真っ黒に濃くて砂糖がたっぷりのあれは、飲むと最高の気分になったものだ。
海岸を眺めているうちに、うとうととまぶたが重くなり、知らぬ間に意識を手放してしまったのだった。
……
「あぁ暑いっ!」
苦しくて目が覚める、空を見上げると真上に太陽がドンっと鎮座していた。全くお昼のようだ。
悪態をつきながら、持ってきたペットボトルの水を飲み干す。日傘の代わりにしていた大きな葉っぱを、今度は団扇にして扇ぎ始めた。
ふと海岸の方へ目をやるが、特に変わった様子は見当たらない。心配していた津波は無かったのだろうか。
もう一度、空を見上げる。
相も変わらず元気そうなお天道様と目があった、しばらくは空の天辺から降りる気は無さそうだ。
「もうだめだ、降りよう」
ぼそりと呟いた。岩場はダメだ、逃げ場がないし照り返す陽の反射も辛い。森の中に逃げ込もう、それに食料を集める必要もある。
心を決めると行動は早い、岩を飛び移りながら、森の中へと引き返していった。
一度キャンプの様子を見るが、朝のまま何も変化は無かった。問題無しと判断し、その足で砂浜まで食料や漂着物が無いか探しに行く事にした。
しかし。
「何だこれは」
砂浜にたどり着いた俺が見たのは予想外の光景だった。
砂浜がいつもより広く感じるのだ、いや感じの問題では無い、確実に広い。いわゆる引き潮だが、この規模は異常だ。引きすぎである。
その景観自体にも驚いたが、それにも増して不自然なのは、大量の魚が浜に取り残されて居た事だ。
予想外の光景に、波の音を右から左にして立ち尽くしてしまう。
これは何が起こっている、俺に魚が食べられに来たのか、幸運なのか何かの予兆なのか。
一種異様な光景に驚きつつも、折角の食料なので、魚を集めて回る事にする。魚以外にもいくらかガラクタが散乱しており、その中から発泡スチロールの箱を発見したので、それを使って手早く収穫していく事にした。
箱に放り込むと、ピチピチと未だに息のあるものもいる。
「1、2、3……」
ごく短時間で、大小合わせて10余の新鮮な魚を手に入れる事が出来た。突然の幸運に驚きを隠すことができないが、この場所には嫌な気配を感じる。長居は無用だろう。
海水を少しだけ箱の中に入れ、そのままキャンプに戻る事にした。
……
焚き火で、数匹の魚は塩焼きにして食べてしまった。海水の塩分が実に良い塩梅だ。
日本ではそんなに焼き魚にこだわりは無かった、というかそんなに食べる機会が無かったのだが。ここで食べる塩焼きは非常に美味しく感じる。
海水の塩が良いのか、空腹が最高のスパイスになっているのか。
それはそれとして、未だ大量にある魚達を保存出来る形にしなければならない。湿度がもっと低ければ、天日干しで干物にする事も出来たと思うが、高温多湿のこの環境では、干される前に腐ってしまうだろう。
ふと思いついたのは、煙で燻して燻製にする方法だ。薪はまだいくらかあるし、金網もある。燻製器のように煙を密閉出来なければならない、なんて思いがちだが小難しい事を考えなくても煙で燻せばなんでも燻製だ。味と調理時間は保証できないけれど。
焚き火の上1m程を離して金網を設置する。そこにわたを抜いた魚を開いて並べて置いた。
ずっと火の番をしないといけないのは手間だが、半日程も燻せば大丈夫だろう。
ぱちぱちと音を立てる火を眺めながら、煙と炎の大きさを調整する。食材に直接火が当たってはいけない。スモークをしたいのであって、炙りたい訳では無いからな。
じっと、揺れる火を見ながら考える。今日の地震と引き潮、鳥や魚の異常な行動。何が起こっているのだろうか。
考えを断ち切るように、突如視界が真っ白になった。
「ごほっごほ」
風向きが変わって、煙が顔を直撃したようだ。咳き込んで目を閉じ。それでも目に滲みて涙ぐんだ。
気がつくと、今日の太陽ともお別れの時間になっていた。金網の魚を見ると、燻製はどうやら上手くいったようだ、美味しそうな茶色になっている。
成功にほっとする。
水と食料については少し余裕が出てきたし、明日は島内をもう少し探索してみよう。以前見つけた生物の痕跡も気になる。
このキャンプも安全とは言い難い、それについても改善する方法を考えないとな。
時間は有限だ、今日はもう休んで、明日は早くから行動を開始しよう。
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