無人島サバイバル二日目(前半)

日の出と共に目が覚める。海の上に浮かぶ赤・青・紫・黄金、様々な色が混ざった御来光は神秘的な美しさだ。太陽が昇る事で、全てのものが活動を始める。


しかしそれと対照的に俺のコンディションは最悪である。体は痛いし、口が乾いて仕方がない。

たった一日、飲まず食わずで働いたらこうなるのか。


昨日と同じ今日が来る事は無い。

日本に居た時には、昨日と同じ今日が、今日と同じような明日が続くと思っていた。それを信じて疑わなかったし、退屈だなんて思った事もあった。


しかし今から考えれば、それは幸せな幻想だったんだなと、そんな思いだ。


そう、今日水を見つけられなければ、同じような明日どころか、もう二度と明日が来ない可能性すらある。


生きる事は、思った以上に大変だ。

でも俺は必ず生き残る。


まずは水だ、とにかく水だ!

昨日、蚊のような虫がぶんぶん飛んでいた。蚊がいる、つまりボウフラが沸くには真水が必要である。


どこかに水たまりがあるはずだ!


俺は水を探すために、重い足を引きずり再度森へ入っていった。



……



どれくらい歩き続けただろう。


もう山歩きは慣れたものだが、見た事も無い植物だらけの森は緊張する。


苺くらいの大きさの、やけにみずみずしい赤い実や、多肉植物のような葉が恨めしい。水分たっぷりなんだろうな


一瞬、食べてやろうかと思ったが辞めた。毒があるかもしれない、もういよいよとなったら試してみても良いだろう。



「はぁーはぁー」


ゴツゴツした岩場に腰掛けて休憩する。とにかくジメジメして、鬼のように暑い。

それが俺の体力をごっそり奪っていく。


もう汗も出ない。

少し歩いて休憩し、少し歩いて休憩する。



「これは……」


岩肌が少し濡れている、というかほんの少しだけ水が流れている。水源は何かわからないが、壁面から浸み出しているのだ。


頼む、飲める水であってくれ。


「……」


しばらくの間岩肌に指を当てる、じわり、と指に水滴が一滴ついた。


舐めてみる。


「おぉっ!」


しょっぱくない真水だ、本当に少しずつだが、水が垂れてきているんだ!

これを利用する方法を探そう、十分な量を集めるには容器が必要だ。


近くを散策し、器になりそうなものを探すが、ぴったりのものは思いつかなかった。

ひとまず、大きな葉を皿代わりに、そこに水を受ける事にする。


壁面に植物の茎を差しかけて、それを伝って皿に水が溜まる装置を作った。

非常に遅いスピードで、一滴ずつしか集まらないが時間をかければ水が手に入る筈だ。



早く水が飲みたいっ!


気が焦るが、ここで座って待っていても仕方ない。一度海岸に戻ってみよう、ペットボトルでも漂着していないかな。



……



そう上手くはいかないもので、ペットボトルもポリタンクも漂着はしていなかった。


砂浜で見つかったのはゴミ袋のような大きさの真っ黒いビニール袋と、色取り取りのプラスチックの残骸だけだ。


しかし運の良いことに、貝殻を発見した。両手のひらよりも大きな二枚貝の残骸で、この大きさならば鍋の代わりにもなりそうだ。

これならば、水を集める容器にちょうど良いだろう。



「……んー」


貝殻は一対、つまり二枚ある。一枚はここで使ってしまっても構わないか。

成功するかはわからないが、ビニールを使って太陽熱を利用した蒸留機を作ろう。


さっそく拾った貝殻をスコップがわりに砂浜に穴を掘る。ただの貝殻と侮るなかれ、これが予想外に良い仕事をしてくれた。

素手で掘る何倍ものスピードで、ビニールを広げて置ける程の大きさの穴を掘ることができた。


真ん中に、貝殻を器として置き、穴を完全に黒いビニールで覆ってしまう。

周りは砂で固めて、ビニールを飛ばないようにして、真ん中が窪むように小石を置けば完成だ。


海水の水分が、太陽熱で暖められ蒸発し、それがビニールによって中心に集められ最終的に器に溜まるのだ。


幸い、まだ日は高い。

十分な結果が期待できるだろう。


さあ、返す刀で水場へ戻ろう。



……



葉っぱの皿には、ほんの一口分だが水が溜まっていた!

幸運に感謝しながら口に含む、少し泥臭い気もするが、些細なことだ。この一口の水が体に活力を与える。


本当に全然足りない、たったこれだけの水だが、希望が繋がった気がした。


不安定な葉っぱの皿の代わりに、貝殻の鍋を設置した。これなら、もっとしっかり水を保持してくれる事だろう。



さて精神的には前向きになれたが、未だに置かれた状況は楽観視できるものではない。


足りない物は山ほどある。



漂着物に味をしめた俺は、再び海岸沿いを探索する事にした。

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