無人島サバイバル一日目(前半)

ザザーン……


ザザーン……


日は高い、焼けるような太陽と海。

キラキラと輝く海面が綺麗だ、透明感のあるマリンブルーである。

ふわりと穏やかな風が潮の匂いを運んできた。



「油断した!」



そして、俺の第一声がこれだった。


地震や、それからの地殻変動(謎の移動の事を田中さんが名付けた)には十分備えていたつもりだった。

ベットの横にはいつも持ち出し袋を用意して、必要な装備を常備していた。

仲間と逸れないように、有事の際にどう行動するのかの打ち合わせも完璧だった。



なのに……。



今日は薪割りをしていて、あんまり良い天気だったので、近くでゴロンと昼寝をしたのだ。


落ち度はそれだけだ。

そう、目覚めたらこのザマである。


寝ている間に地殻変動があったのだろう。

向こうでは俺が失踪したと大騒ぎかな?それとも彼等にもまた、試練が降りかかっているか。


毎度毎度、変な場所に飛ばされているので、こんな事態に慣れてきてしまっている自分がいる。


しかし今回は、なんと身一つだ。

食料に水、メタルマッチはおろか、ナイフすら持っていない。



「はぁぁー……」


大きな溜息が出るが、すぐに思考を切り替えた。


反省するのは必要だろう、しかし後悔に意味はない。生き残る為に、今出来ることをしなければ。


まずは現状の確認をしよう。


現在地は海岸、砂浜のようだ。目の前には水平線が広がっている。太陽は高く、空気は湿って熱い。


開放感はあるな、観光で来たかった。


くるりと振り返ると、背後には青々とした茂み。木々が生い茂っており、人の手が入った印象はない。


ゆっくり辺りを見渡すが動くモノ、つまり生き物はどこにも見当たらない。


さあ何を優先すべきだろうか。



水、食料、火、寝床……。


必要なものはいくつもあるが、俺が今最も重要だと考えたのは水の確保だ。


打ち寄せる波に手を差し出して、ペロリと舐める、それは当然のようにしょっぱい。完全に海水である、ちょっと真水を期待したのだが。


「ふぅぅー」


汗がじわりじわりと滲んで来た。

この分だと、早く水を手に入れないと干からびてしまうだろうな。


近くに落ちていた流木を拾う。杖の代わりに使うには手頃なサイズ感だ。表面もすべすべで持ちやすい。


海と砂浜、そして森。


俺は迷う事なく、背後の森に入って行くことにした。海水は沢山あるけど、飲めたものじゃない。真水を探さないと。



……



暑い。


割と背の高い木もある、鬱蒼とした森を歩き続ける。

ジメジメした嫌な気温だ。これだけの植物があるのだからと期待していたが、小川どころか湧き水すら見当たらない。


そして生き物の気配もない。襲撃されるリスクを考えると、大きな生き物が居ないのは助かるところもあるのだが。


しばらく歩き続けると、ばっと突然森を抜けた。恐ろしい事にその先に広がっていたのは、開けた砂浜と、広い海だ。


努めて真っ直ぐ歩いたつもりだ。

1時間と経たずに島を横断(縦断?)してしまったようである。


「嘘だろ、島なのか……?」


半島の可能性もあるが、付近を見た感じでは、ここは島である可能性が高そうだ。


いよいよ気持ちが焦る。


真水を手に入れなければ、三日と持たないだろう。しかし、こう小さな島では川も池も無い可能性がある。


「……」


古い知識を辿って、水を手に入れる方法を考える。


先ず思い付いたのは、煮沸し海水を蒸留する方法だ。しかし、その為には、火を起こさなければならない。


であれば先に火を起こすべきか。

駄目で元々、錐揉み式でやってみよう。



意気込んで森の中を散々探し回ったが、火口になりそうなふわふわしたものは何もない。

真っ直ぐの枝すら存在しない。


それでも何とか枯れた小枝と、木の皮、ちょっと曲がっているが丈夫な木の棒を集める事ができた。


枯れた小枝を石で擦り、細かい木屑を作り出した。これならば火口になるだろうか?


大きな石の上にどかりと座り込み、作業の準備は整った!


「よし」


そう一人呟いて決意を固める。

木の皮に棒を押し当てて回転させる。そして小さな火種を作り、火口に入れるのだ。


しゅるしゅるしゅるしゅる……


上から擦りつけるように枝を回転させる。


しゅるしゅるしゅるしゅる……


なるべく継続的に摩擦を起こせるように、長く、木の皮に枝を擦り付けるように。


しゅるしゅるしゅるしゅる……



……



しゅるしゅるしゅるしゅる……


何十分その作業を続けただろう。

手の皮が捲れるほど回転させているが、煙が出る気配はない。


しゅるしゅるしゅる……


全く無反応である、そこにぽとりと汗が落ちた。



「ああああああっ!無理っ!」


そう叫んで枝を放り出し、大げさに後ろに倒れこむ。


ぱたり


そもそも、この島の全てが湿っているんだ。

枝も、木の皮も。

そしてナイフがないため、木の枝を真っ直ぐに加工したり、摩擦力を高める為に溝を掘る事も出来ない!


こんな具合では、10時間かかっても火は起きない。真水が無いのに何もかも湿っているとはどういう事だ!


「はぁぁ……」


仰向けに倒れた姿勢のまま天を仰ぐ。

気がつくと、あんなに高かった太陽が陰り始めていた。


喉が乾いたが、全く口にできるものはない。

このぶんだと自分の、おしっ○すら口にしなければならない時が来るかもしれない。


絶対に、絶対に嫌だが。


絶対だ。


それはそれとして、夜が来る前にとりあえず安全に今晩凌げる場所を探そう。


そう決意して歩き出した。

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