迷宮サバイバル六日目(前半)

空が白み始めた頃、自然に目が覚めた。

焚き火を寝床から離したのが良かったのか、それとも運が良かったのか、どうやら襲撃は無かったようだ。


隣では、小さな少年が寝息を立てている。


起きている時はずっと気を張っているが、こうして見ると普通の男の子だ。

無理して背伸びしているのだろう。


立ち上がって、辺りを伺う。

静かで、空気の綺麗な良い朝だ。


彼は起きる気配が無い。

昨日は屍小鬼に怯えて眠れなかったのかもしれない、もう少し寝ていても良いだろう。


彼を起こさぬようそっと離れる、その間にできることは……。


水を集めよう。


朝露を集めて、少しでも水を補充するのだ。

ズボンを捲り上げて、スネに布を巻きつけた。


これで朝露に濡れた草むらを歩けば、布に水分が染み込むはずだ。そこから水を絞り出せば、僅かでも確実に手に入る。


辺りを警戒しながら、寝床から離れすぎないように近くを歩き始めた。



……



がさりがさりと歩き回る。

何度か布を絞り、金属カップに一杯の水が集まった。


小一時間は歩いただろうか、それでこの量だ。飲み水を手に入れるのも簡単ではない。


辺りはすっかり明るくなっている。朝露はすぐに蒸発し、無くなってしまうだろう。作業はここまでだ。


「おはようございマス」


のそりとちょうど良いタイミングで、楓くんが起きてきた。顔色も悪くなさそうだ、その青い瞳には、生きようとする意志が感じられる。


「おはよう、体調はどう?」


「ハイ、だいじょうデス……でも」


そう言いながら目線を上げる、俺の頭部へと。


「お兄さン、髪、どうしたんですか?」


「髪?」


ナイフを鏡代わりに、身だしなみをチェックする。寝癖でもついているか?


「……んー」


一部の髪が。

片手で握って隠れない程の量だが、ごっそり銀髪に変わっていた。


「アシンメトリー?」


「なんでスかそれ」


はてなが顔に書いている表情で、聞き返してくる。そうか、俺も詳しくはない。


「気にしないで。うーん……でも、どうしたんだろうな」


果てしないストレスの所為だろうか。しかし一晩でこんな事になるのは尋常ではない。

何か嫌な予感がするが。


「体は元気だし、大丈夫だと思う」


「そうですカ」


うーん、と納得のいかない表情だが、口では納得してくれた。


「とりあえず、湯を沸かして一服したら出発しよう」


「ハイ」


不可解ではあるが、実害がないのであれば今は後回しだ。気を取り直して、野営の後を片付けたのだった。

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