迷宮サバイバル三日目(中)

道を引き返している途中で、ある事に気がついた。この辺りの壁面、真っ白い壁なのだが何か妙だ。


(何だ、この違和感は)


手で触って見ると、表面はザラザラしている。しかし感触が軽い、乾燥した寒天のような感じだろうか。


ナイフで削って見ると、簡単に傷がついた。硬い素材では無さそうだ。


「ここは穴が開けられるんじゃないか」


そう思い立ってナイフで何度も壁を削っていく。


がりがりと音を立てて削られていく壁。


しかしこのペースならば、小さな傷は付けられても、大きな穴を開けるには膨大な時間と労力が必要だ。


「どうするかなぁ……」


諦めかけたその時に、松明を持った左手を見てぴんと閃いた。

その火を壁に近づけていく。


その途端。


どろりと、壁が溶けた。


更に火を近づけると、凄い勢いで面白いように溶けて無くなっていく白い壁。

ならばとナイフを鞘に収め、右手に松明を持ち替えて、壁に火を当てる。


十分程で人が通れる大きさの穴が、向こう側まで貫通した。


「……うん」


穴を通って移動する。

その先もまた通路だった。しかし、こちら側はいくらか窓があるようだ。

そこから取り入れる光で、一定の明るさを保っている。


松明を消して、両手をフリーにする。

明るいということで、気持ちがいくぶん楽になった。


ひとまず、一番近い窓に近づいていく。


鉄格子のようなものがハメられていて、ここから脱出するのは難しいだろう。

そして、この窓からは外周側の建物が見える。


ゆみちゃんも心配だ。何としても向こう側にいこう。

出口か、そうでなければ窓や壁を破る方法。それを見つけなければ。


そう心を決めて、再び歩き始めた。



……



うっとおしい蜘蛛の巣を払いながら歩き続ける、どれくらい歩いただろうか。

窓のある外周側を左手に進んでいると、右手側に扉を見つけた。


(また小部屋なのか)


何か、脱出の手立てとなる物が手に入るかもしれない。入る他無いだろう。


慎重にドアを開ける。

何度やっても緊張する瞬間だ。


キィと音がなり、扉が開かれた。


石造りの室内に、大きな暖炉。

木製のテーブルと椅子に高そうな絨毯が敷かれている。


また、木製の扉が一つ。奥にもう一部屋あるのだろうか。


目ざとく暖炉の横に積まれている薪を発見した。燃料は重要なのでいくらかリュックに詰めて持っていく。


ふと見ると部屋の隅には甲冑が立っていた。


全身金属で隙間のなさそうな鎧だ。

鏡のような銀色とは行かず、錆びているのか黒色がかっていた。

剣を両の手で持ち、地面に突き立てるようなポーズでそこにいる。


(鎧って、初めて見るな)


興味本意で近づいていく。


近くで見ると、まるで本物の騎士が生きているような……いや、中に何か入っている。


恐る恐る、兜のバイザーを上げる。


「うおぉっ」


甲冑の中には、人間の干からびた死体。そうミイラのようなものが入っていた。


ばっと離れる。


「……はぁー」


ひょっとしたら、とは思ったものの驚いた、死してなお直立不動とは。


その時、まだ心拍数が収まらぬ時に、部屋の奥の扉から音が聞こえる。


かちゃり


ドアのノブが、ひとりでに回っている。

いや、向こう側から開いているのか!


何かがいる事は確かだ。

どうする、隠れるか逃げるか……?

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