迷宮サバイバル二日目(後半)
あれからしばらく歩き回っているが、進展はない。天井に続く階段や、押しても引いても開かない扉があった位だろうか。
廊下で小休止することもあるが、気が休まらない。何が出てくるかわからないからだ。
出来れば、安全な部屋を確保して休みたいところだ。
一番良いのは脱出して、もっと気の休まる場所まで行き着くことだが。
クロとゆみちゃんはどうしているかな、田中さんや楓くんも元気だろうか……。
不思議と日本に居た時の事は思い出さないな。こちらに来てからの事が、それだけ印象深いのだろう。
歩いていると、どうしても考え事をしてしまう。気を張っていようと思っても、どうも集中力が続かない。
そんな事を考えていると、何度目かの扉を発見する。
十分注意して開いてみると、上り階段がドンと現れた。石造りのしっかりした階段で、かなり上まで続いているようだ。
「行ってみるか」
階段を上る事に決めた。
……
階段も真っ暗で、気をつけないと足を踏み外す可能性がある。
松明で、照らしながら歩く。
この手製の松明も数が限られている。灯りが無くなれば、行動範囲は一気に狭くなってしまうだろう。
それにしても、長い階段だ。途中から螺旋を描くように、ぐるぐると上に上がっていくように作られている。
(屋上まで続いているんじゃないか)
その時、出口に光が見えた。
どうやら、この階段の終着点のようだ。
最後の一歩を踏み出した。
思った通り、屋上に抜けたようだ。
単純に屋上というと語弊がある。
建物の上部に出たのは確かだが、ヤグラのように屋根があり、周りを格子でぐるりと囲まれている。まるで鳥カゴの中だ。
つまりここから脱出する事は叶わないということだろう。
少しがっかりしたが、久しぶりに外の空気を吸えたのは最高に気分が良い。
そして屋上に出て、初めて迷宮の全貌を知る事が出来た。
此処は周りを森林で囲まれているようだ。そして今、青々とした木々達が茜色に塗り潰されていく。
美しい光景だ。
しかし、もうそんな時間だったか。暗い建物内では時間の感覚が狂ってしまうようだ。
中庭を囲んで口の字型の建物、これが今俺が居る建物だ。そして、その周囲に更に一回り大きな口の字型の建造物がある。
上空から見ると回の字型に、この迷宮は建っているようだ。
そして、その周囲には森林が広がっている。
この迷宮から脱出出来れば、森林地帯ならば水も食料も確保できるかもしれないな。
しかし、しばらくすれば日が暮れるだろう。今日は此処で野営する事に決めた。
ここなら火を使っても火事や酸欠になる心配は無いし、月明かりもあるだろう。
真っ暗な通路で眠る事になるよりは幾分マシだ。
明るい内に準備に取り掛かる事にした。
……
辺りはすっかり暗くなった。
期待していたほど月は、大きく明るく無かったが、代わりに満天の星空が広がっている。
鳥カゴの中には不釣り合いな、焚き火の炎を眺めながら食事を摂る事にした。
食事と言っても缶詰食になるのだが。
それでも食事は楽しみである、今日のディナーはトマトスープだ、中に申し訳程度の小麦の麺が入っている。
ずずっと啜ると、口の中で広がるトマト。
「うん」
“これがトマトだ”と言わんばかりのパンチの効いた味だ。さすが英語圏で作られただけの事はある。
日本人には、このわざとらしいトマト感は中々出せないだろうな。
でも俺は嫌いじゃない、むしろ好きだ。
美味いし量もある、大満足の食事だ。
陶器の壺から汲んできた水も、カップに移し替えて煮沸消毒し、水筒に詰め直した。
「ふぅー」
一息つく。
ぱちぱちという音と暖かな光が、心と身体をゆっくりほぐして癒してくれる。
ここが恐ろしい迷宮の中だ、という恐怖が霞のように薄れていく。
満腹で、暖かい。
良い気分だ。
自然とまぶたが重くなり、眠り込んでしまったのだった。
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