迷宮サバイバル二日目(前半)
目が覚めた。
どうやら冷たいフローリングが体温を奪っていったようだ、身体が冷え切っている。
この感じからすると、一晩は寝ていただろうか。この部屋で俺はずっと気を失っていたらしい。
(部屋にガスでも溜まっていたのか?)
伏せたまま、そう考える。松明炎が消えたのがその証拠だ。まだこの辺りを漂っている可能性がある、部屋の外に匍匐で移動する。
ずるずるとゆっくり部屋から離れていった。
10mほど離れた所で上体を起こす、どうやら此処はもう安全なようだ。
「体に痺れはないし、手足も動くな」
倒れたのが幸いしたようだった、状況から考えてガスは空気より軽い物だったらしい。
上の方に溜まった何らかのガスにより、松明の火は消え、更にそれを吸って昏倒。
幸運にも倒れた事によって、地面の付近のガスより重い空気を吸うことができ生き延びた、そんな所だろうか。
もしこれが可燃性のガスだったら、花火が上がって終わりだったし、もっと致死性の高いガスであっても死んでいただろう。
俺は焦っているんだろうか。
機密性の高い扉だった時点で、可能性を考えるべきだった。全く危機感にかける行動だ。
「大丈夫、大丈夫、慎重に」
そう自分に言い聞かせるように呟く。
大丈夫“だろう”ではなく、危険“かもしれない”だ。
白っぽい通路の壁に持たれて座り、リュックから上着を取り出して羽織った。かじかんだ手をグーパーと動かしながら考える。
状況を整理しよう。
この辺りの通路はコンクリートの打ちっぱなしのような印象だ。比較的馴染みがある。
天井までは3m以上、通路の横幅は2.5mといった所だろうか、マンションの通路にしては広い。
うーん、学校の廊下位の広さかな。
割と広いが、この広さにも意味はあるのか。
また通路には窓がなく湿気が溜まるのか、じめっとしている。殆ど真っ暗だが隅にはうっすら緑に光るコケのようなものが点々と生えている為、足下位は見える灯りになっている。
対して部屋には窓があり、射し込む光で日中は明るい。この部屋に繋がる扉は、今のところ進行方向の左手側に固まっていて、全ての窓が中庭に繋がっていた。
右手側に扉が無いが、この壁のすぐ向こうは外なのか?丁字路に分岐する場所があったし、建物の規模としてはもっと大きいようにも考えられるが。
部屋の内部の印象だが、今の部屋は近代日本のマンションといったイメージだったが。
初めて入った部屋はもっと古い、中世ヨーロッパといった風情だった。
そう、窓や調度品などが朽ちているほど、古かったんだ。
(建物の意図はまだ掴めないな)
誰が、何のために作った建物なのかは全く読めないが、奇怪な場所である事は確かだ。
当面の目標としては、脱出して食料や安全が確保できる場所を探したい。
それに水筒の水も、もう僅かだ。どこかで水を手に入れなければならないだろう。
体力が回復する頃を見計らって、動き出す事にした。
……
松明に火を灯し慎重に歩を進める。
あれから20分は歩いたがここまで扉は無かった。そして通路の壁にコンクリートの壁にヒビが入っている場所が増えてきた。
「大丈夫だろうな、倒壊とか……」
そんな事を呟いていると前方に何か白いものが、転がっているのを見つけた。
ゆっくり松明の灯りで照らして確認する。
骨だ。
人骨のようにも見える。大部分が砕けていて、はっきりと何の骨かはわからない。
ばっと周囲を見回すが、何も居ない。
そして、そのすぐ近くに扉がある。
今度は木製の扉だ。
扉の奥からはぴちょんと水音が聞こえた気がする。
カチカチカチカチ……
しかし、聞きなれない音。そう石か何かが打ち付けられたような音も聞こえる。
慎重に扉のノブに手をかける、鍵はかかって居ないようだ。
どうする……。
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