雪山サバイバル六日目(前半)

ぶるっと震えて目が覚めた。


手足を開いたり閉じたり確認するが、しっかり動く。大丈夫。今日もまだ、ちゃんと生きている。


もぞもぞしていると、クロを起こしてしまったようだ。大きなあくびをして、ふるふると体を震わせている。


「おはよう!」


努めて元気にそう声をかけ、頭をわしわしと撫でてやった。

目を細めて嬉しそうにしている。


ランプに火を灯して、雪を入れた鍋をかけておく。目覚めの一杯を後で頂こう。


「さてと……」


雪洞の外に出る。


視界もクリアで、風の音もしない。どうやら吹雪は去ったようだ。

今日は、少し進んでみよう。


最後の食料の干し魚を朝食に取った後、出発する事にした。



……



ざくり、ざくりと雪を踏みしめ歩いていく。


どこまで行っても、白と青のコントラスト。腹立たしいくらいに綺麗で、そして何もない。


太陽の位置から考えて、お昼すぎだろう。

ぐぅうっとお腹が何かを知らせてくれる。空腹だが、もう食料は無い。


手製のかんじきの調子は良いが、どうしても歩きにくい。

時間ばかりかかって、思うように距離が稼げずに焦ってしまう。

もたもたしている俺を尻目に、クロはざっくざっくと快調に歩いている。雪を苦にする様子はない。


「ふぅー」


はやる気持ちを抑えて、ゆっくり確実に歩を進める。いたずらに急いで汗をかくと、それに熱を奪われて凍える事がわかったからだ。


(あれは何だ?)


慎重に歩いていると、雪の地面に穴が開いているのを見つけた。握りこぶしより一回り大きいサイズの縦穴だ。どれくらいの深さがあるのだろう、少し覗いて見るが底が見えない。


くるりと見渡すと、目の届く範囲にいくつか同じような穴がある。

どうしてこんなところに穴が開いているのかはわからない。しかし、うっかり踏んでしまうと足を取られて負傷する可能性もあるだろう。


興味も無くなり、その場を立ち去ろうとした時、ばっと穴の中からそれは飛び出してきた!


「うおおっ」


体を捻って身を躱す。

間一髪、顔のすぐ横を何かが通り過ぎて行ったのがわかった。


一体何が?動きが速すぎて、何が飛び出てきたのかわからなかった。


飛んで行った方向に目を凝らす。


「何?」


しかし、その方向には何も見当たらない。

今のは何だったのだろう。

クロは飛んで行った方向に向かって伏せて、耳を立てている。警戒の姿勢だろう。


命を脅かすのは何も寒さだけではない、生き残る為には、あらゆるものに注意が必要という警告だろうか。



……



足元の雪質が固くなってきた。

この辺りは足は沈まないので、そろそろかんじきは必要ないだろう。紐を解いて取り外す。

足が沈まないのは良いが、氷のように固い雪もある、滑りそうだ。


もし一度足を滑らせると、そのまま滑落して行くだろう事は容易に想像できる。

滑らないように、ゆっくり歩いて行く。


そろそろ今日の寝床を作ろうか、と考え始めた頃にそれは見つかった。

雪が不自然にドーム状に盛り上がっているのだ。


一体これは何なのか。


何か飛び出して来るかもしれない、警戒しながら近づいて行く。


そのドームは、長方形の雪のブロックが積まれてできている。ぐるりとドームの周りを見ると、入り口らしき穴があった。


どうやら、雪のレンガで作られたシェルターみたいだ。イグルーと呼ばれるものが近いだろう。


何が潜んでいるかわからない、小鬼のような悪意ある知恵者が居ないとも限らないだろう。


右手をナイフにかける。

いつでもナイフを抜ける状態にして入り口に向かって声をかけた。


「こんにちはー!」


「……」


返事はない。


「こんにちはー!誰かいますか?」


「……」


今度は少し大きな声で呼びかける。

しかし、返事は無い。


意を決して中を覗き込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る