第26話 二十三日目(後半)

ギィィ…


納屋の扉が開けられた。

燻製にした肉や水が保管されている。


中はあまり日が差し込まない構造になっているようで薄暗く歩きにくい。田中さんがランプのようなものに火をつける。

足を引きずりながら、歩いていく先には灰色のロッカーがあった。


そこに入っていたのは、人類史上最恐の発明だ。

人間を食物連鎖の頂点に君臨させた要因、13世紀に生み出された、鉄と火の武器である。


黒い銃身に木製の銃床。

その姿からは、恐ろしい破壊力を感じる。


「BLOWNING A-BOLT ハーフライフルドショットガンだ。」


薬室側に半分のみライフリングが入っている、ボルトアクション方式のハーフライフルである。

弾倉に2発、薬室に1発装填できるサボットスラグ弾は、100kgを超える哺乳動物すら絶命させる威力がある。


がちゃりと鉄砲を取り出しながら、彼は言う。


「いいかよく聞け、やつらは楓をすぐには喰わねえ。祭りか何かしらねえが、特別な日に喰うんだろう、それまでは生かしておくはずだ」


何処に根拠があるのだろう、この瞬間にも殺されているかも知れないと言うのに。

ぐっと奥歯を噛みしめる、その姿を見た彼は話を続ける。


「わしらが獲物を狩る時はどうしてる?」


以前、蛇頭鳥を仕留めた時の事を思い出した。初めて動物の命を奪ったのもその時だったか。


「その場で解体して…」


彼はコクリと頷いた。


「普通はそうするよなぁ。止めは刺すし、持って帰れないほど大きいなら、その場でバラすだろ」


ハッと気が付く。

やつらはまだ息のある楓くんを、攫って逃げた。


「わざわざ、生かしたまま担いで帰ったという事は、まだ獲物が生きていないといけない理由があるという事だ」


喋りながら、慣れた手つきでボルトと呼ばれるパーツをセットしていく。


「それに木でこしらえた檻に人間を入れていた事も考えると、生かして監禁する習性があるはずだ」


なるほど、以前聞いた話と繋がった。


「おおよそ、小鬼の集落の位置は把握しとる。夜はやつらも歩けねぇだろうし、お兄ちゃん一人なら、荷物を背負った奴らより早く移動できる。追いつくか、集落の前で待ち伏せできるはずだ。」


「これを持っていけ、使い方は今から教える。楓を頼む…」


そう言う彼の手は、真っ白になるまで握り締められている。


「わかりました」


ぐっと正面から、目を見据えて言った。


「すまん、情けないが。この足じゃあ、わしは一緒には行けねぇ」


「安心して、待っていて下さい」


決意と共に、そう答えた。



……



鉄砲以外にも装備を譲りうけた。

紛失した俺のリュックの代わりに、田中さんのリュックを借りる。道中必要になりそうな他の携行品についても世話をしてもらった。


林の東端のやつらの集落までは、途中野営をして、丸二日だそうだ。明日の日の出と共に出発しよう、明後日の夕暮れには到着するだろう。


今夜は遅くまで焚き火の薄明かりの中、鉄砲の扱いや、いくつかの野営のコツについて教えて貰った。

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