第20話 二十日目
チチチチチチッ
鳥のさえずりが聞こえる、窓から朝日が溢れているのも美しい。林の中のログハウスだからだろうか、自然の美しさが満ち満ちている。窓を開けると爽やかな風が吹き込んでくる。
キィーキキッーキャァー!
ウゥゥ…
残念なのは、自然力が強すぎて猿や獣の鳴き声も聞こえることだ。
布団を畳んで、部屋を出る。田中さんの家は案外広くて、部屋が余っているからと一部屋使わせて貰った。心遣いがありがたい。
「おはようございまーす」
部屋を出ると、調理場で金髪色白の少年が芋を剥いていた。
エプロン姿が可愛いなぁ…と、じっと眺める。
「お、おはようございマス」
楓くんが答える田中さんがいない時は俺に警戒しているような態度だ。人見知りなのだろう。
見慣れない異国の少年に興味津々だが、変な人だと思われてはいけないので、これ以上は踏み込まないでおこう。
カン、カァーン…
どうやら外では田中さんが薪を割っているようだ。
表に出て手伝うべきだろう、働かざる者食うべからずだ。
「おはようございまーす」
表に出て、田中さんに声をかける。
気づいてこちらに顔を向けた彼が答える。
「おぉ、おはよう」
「手伝います」
そう言いながら近づいて行く。
「ああ、じゃあちょっと代わってくれ」
田中さんから鉈を受け取る。
手伝うと言ったものの、鉈で薪割りなんて初めてだ。
まごまごしていると、助け舟を出してくれた。
「ほら、こうやって薪に刃を入れて…」
コンコン
と薪に鉈の刃を当てたまま地面に軽く打ち付けた。
刃が薪にめり込んだところで、木製の台の上にちょっと力を入れて打ち付ける。
メリメリ…カァーン
切るというよりも、字のごとく薪が割れた。力は必要なさそうだ。
「ほら」
鉈を受け取る。
同じように刃を入れてから打ち付ける。
カァーン
なんか気持ちいい!
調子に乗ってリズミカルに割っていると釘を刺された。
「手ェ気をつけてな」
「はい」
ここでは怪我をすると頼れるのは自分の自然治癒力だけだ、小さな怪我が大きな障害を生むかもしれない。刃物を使う時は十分気をつけなければ。
しばらく様子を見ていた田中さんは、一人で十分やれると判断したんだろう家の中に戻っていった。
カァーン、カァーン
しばらく無心で薪を割り続け、割った薪を家の隣の薪置き場に積んでおいた。
割る作業より、薪を運ぶ方が重労働だ。
用意されていたものを全て割り終えたところで声がかかった。
「おうい、飯にしようか」
「はーい!」
時刻は、お昼前くらいだろうか。
田中さん達は、おおよそお昼前と夕方で日に二度、食事を取っているそうだ。
……
モグモグモグ
昼食のメニューは、芋と、魚の干物を炙ったものだ。芋を主食におかずというのが多いらしい、毎食全く安定していなかった俺とは比べ物にならない生活力だ。
今日も美味しい。
しかし、白いご飯が恋しくなってきた。
田中さんはあまり表情を変えないが、楓くんは何を食べる時もニッコニコだ。
こういうところが気に入られるポイントなんだろう。
なんでも、ご馳走してあげたくなる。
「小鬼どもが落ち着くまで、あんまり林を出歩きたくはぁないが、すでに仕掛けとる罠だけ午後から見に行こうと思う」
田中さんが食事の手を止めてこちらを見る。
午後からの予定についての提案だ。賛成の意思を込めて首を縦にふる。
「わかりました」
「楓は留守番頼むな」
こくりと頷いた。
「はい」
……
森の中で罠を調べる、何もかかって居ないようだ。かかっていない、だけなら良かったのだが。
最後の罠を確認した時に、それはあった。
「ほどかれちょる」
罠だったらしい、ワイヤーのようなものが、あたりに捨てられていた。
「獣じゃこうはいかん、手で外さんと」
つまり、手を使える生き物が罠にかかり、自分で外してワイヤーを捨てたということだ。
手が使えるというのは、他の我々のような人間か、もしくは小鬼がここまで来たということか。
おそらく後者だろう。
お互い、顔を見合わせる。
この場所から家までは、まっすぐ向かうと30分ほどだ。
彼らが何を思って集落からこちらに来ているのかわからないが、危険が迫っている事だけは確かだ。
「やっかいなことになったなぁ」
田中さんが呟く。
本当に、その通りだ。この世界で生き抜くだけでも大変なのに、林まで追われてどうやって生きろというのか。
「今日はもう戻ろう」
続けたその言葉に俺は頷いた。
……
その夜の食事はどんな味がしたのか、覚えていない。
ずっと頭の中で、いろんな考えがぐるぐる回っていた。
あの小鬼どもと戦うのか?
人を喰う連中だぞ、逃げるのか?どこへ。
考え事をしているのは田中さんも同じようで口数が少なかった。
楓くんだけは食事の間中はニコニコだった。
来たる危機に、
明日が不安になった一日だった。
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