第17話 十七日目
今日は調子がいい、目覚めもスッキリだ。
髭を剃って、身体を拭き、身だしなみを整えながら今日すべきことについて考える。
今日は、昨日採ってきたシシの実と、シカの葉を料理しよう。
まずはシシの実だ、これは煮詰めてジャムにしよう。
種を取って果肉だけにしたあと、砂糖と一緒に鍋に入れ、ヘラで潰しながら加熱する。
いい匂いだ、美味しそう。いい感じに煮詰まったところを味見してみる。
…ぱくっ
「おおっ!」
生で食べると酸味が強かったが、ジャムにすると尖った酸味が丸くなって、さわやかな甘さが、美味いっ!
これは最高のジャムが出来てしまった。
保存する瓶もほかの鍋で煮沸消毒しておいた。熱々の瓶に熱々のジャムを詰める。
これでしばらくは保存できるだろう。
大満足だ。
次はシカの葉を試してみよう。
そのままでは苦いらしいので、まずは下茹でする。その間に干し肉を細かく切っておいた。
次に取り出したのはフライパンだ。バターで先に干し肉を炒めた後、シカの葉を投入!
塩胡椒をして、葉がしんなりしてきたら完成だ。
さあ試してみよう。
っぱく、もぐもぐ…。
(俺料理の才能あるかも)
これも美味い、食うや食わずの食生活だったが、ついに肉に野菜まで取れて、充実してきた事に感動しつつ完食。
使わなかった残りのシカの葉は日の当たらない場所に保管しておいた。
……
「おぉい、生きてるかぁー?」
お腹いっぱいで昼寝しているところに聞き覚えのある声が飛び込んできた。
田中さんが態々訪ねて来てくれたようだ。
「はぁーい、どーも!」
返事をしながら玄関まで向かう。
「おぉ生きていたかぁ!」
「先日は、ありがとうございました。」
お互いに無事な姿を確認しあって、安心した。挨拶を済ませたところで、さっき作ったジャムを思い出した。
「今さっき、田中さんに教えてもらった果実でジャムを作ったんですよ。」
「おぉ、見つけられたかぁ。」
「まぁ、ちょっと上がってもらって、味見していって下さい。」
この世界に来てからお客さんを家に上げるのは初めてだ。
居間で、出来立てのジャムを食べて貰う。
「うん美味いなこれは、上手に作っちょる。」
もう一口…
この生活してると甘いものに飢えてしまって、などと雑談に花を咲かせた。
……
「おい、それは小鬼だろ。気をつけた方がいいぞ。」
聞きなれない単語が飛び出した。
「小鬼ですか?」
どうやら昨日見た毛むくじゃらのゴブリンの事を、田中さんは小鬼と呼んでいるらしい。
「林には色々いるがな、あいつらぁ一番厄介だ。なにせ獣の癖に知恵があるんだ頭も手も使う。それでいて人間を喰うんだから手に負えねえ。」
「喰う!?」
「あぁ、遠目からだがなぁ。見た事がある。金髪の男らを木でこしらえた檻にいれてよ、焼いて喰っとったんだ。」
背筋が凍った、彼らに捕まらなくて本当に良かった。
「そんで、あいつらに捕まりかけて逃げて来た坊主うちにおるわ。」
「えぇっ!?」
びっくりだ。
「小学生くらいでなぁ、怪我しとって可哀想でよぉ。かくまってやったんだ。」
「日本人じゃないんですよね?」
「どこのもんか、わからんなぁ。言葉は通じん。色は白いし目は青いぞ。」
「そうなんだ…。」
兎に角、絶対に小鬼には近づかないことを決めた。林の中で声を出すときは警戒すべきかもしれない。
その後もしばらく他愛の無い話をしていたが、日が暮れる前に帰るんだ、と田中さんは帰っていった。
一人になると急に怖くなってきた。
…今日はちゃんと戸締りをして寝よう。
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