第9話 九日目
昨日は休息を取ったおかげで体調は万全だ。
今日は釣りに出かける。荷物はリュックの中に空のペットボトル、釣具。水筒はサイドポケットに入れている。
手には新たに作り直した槍を持っていこう。
お弁当が欲しいが、残っている食料は干し肉だけだ。乾燥はしていたので食べられるだろうか?リュックに入れて出発した。
……
池の表面は透き通っていて綺麗で水面は穏やかだ。虫や動物の声もなく、静かにゆっくりとした時間が流れて行く。
「釣れないな。」
持ってきた干し肉を食べながら呟いた。
硬くて美味しくはなかったが貴重な食料だ、無駄にするわけにはいかない。
釣りの方は、そう簡単にはいかないようだ。タコ糸の先に安全ピンで作った針をつけて、近くの朽木をめくって出てきた芋虫を餌にした。
竿は無いので手釣りだ。
諦めて昼食にしようかと釣具を片付けていると、背後の藪に気配を感じた。
槍に手をかけ、ゆっくり振り返る。
何度見ても見慣れない、足が6本ある一つ目の猪だ。一つしかない目と、目があう。
刺激しないように後ずさりして離れる。
「こっちにくるなよ…」
槍を握る手が震える。
背中に冷たい汗が伝って行くのを感じた。
一歩づつ距離が離れて行く、向こうも攻撃の意思は無いようだ。
バキッ!
数歩離れたところで枝を踏んで音を鳴らしてしまう。
「シャッ!!!」
音に驚いたのか、一ツ目がこちらに真っ直ぐ突進してくる!
「うわぁぁ!」
すんでのところで身を躱した、鋭い牙がシャツをかすめていった。
脇に転がる。手を少し擦りむいた。
立ち上がり向こうを伺うと、しばらく直進した後大きくUターンしてこちらに再度突進してくる!
(殺される!)
そう直感した。
態勢を立て直し全力で走った!
後ろは振り返れない、すぐそばまで来ている気がする。一瞬でも止まると牙の餌食になるだろう!
転びかけながらも木々の間をジグザクに走って逃げた!真っ直ぐ走ってくるだろうと考えたからだ、追いつかれるわけにはいかない。
心臓が破れそうだ!
「はぁはぁはぁっ!はぁ…」
ガッ!
(やばっ)
斜面になっているところを見落として足を踏み外した!勢いよく地面を転がる。
「おあぁぁぁ!」
世界が回る、何度も石や木に体を叩きつけられて、最後は仰向けでストップした。
もう走れない、限界だ。
「はぁーはぁー」
呼吸を整える、なんとか動けそうだ。
ゆっくり起き上がる。
周りを見回してみるが、一ツ目は諦めてくれたようだ、ひとまずは助かったのだろう。
自分の身体を確かめてみる、全身が痛いと悲鳴を上げているが、骨折や出血など大きな負傷は無さそうだ。
「いてぇ…」
呟いて周りを見回す。
全く見覚えのない景色だ、いや同じような景色は前にも見ただろうか?
これはつまり迷ってしまったようだ。
凶暴な生き物のいる林で迷子になってしまったという事だ。
とりあえず元来た道を探して歩くしか無い、あてもなく歩き始めた。
……
日が暮れてきた。
今いる場所がどこなのか検討もつかない、同じような風景なので同じ場所をぐるぐる回っている可能性すらある。
途方にくれているうちにどんどん周りは暗くなっていく。
ライターは携帯していないので、火を起こすこともできない。
今日はここで野宿をするしかないだろう。
地面に寝転がってしまうのは危険に感じたので、近くにある一番大きな木にもたれ掛かって休むことにした。槍を抱えたままだ。
今日は寒さに震えながら夜を過ごすことになりそうだ。
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