女子高生と探偵事務所やってます(短編)

白真

前編『依頼引き受けます』

 仕事が忙し過ぎてキレそう。

私は二階堂咲希にかいどうさき

単位制の高校に通いながらこの二階堂探偵事務所で所長として働いている。

そんな私がキレ散らかしているのは近頃急増した失踪者事件のせいだ。

普通の失踪者なら警察へと言いたいところだけど、中には警察へ相談できない人もいる。

たとえばDVを受ける伴侶、違法金利の借金持ち、果てはストーカー被害者など……そんな曰く付きを探している人達が苦肉の策でここへやって来るのだ。

とはいえ手掛かりなんて大したものはなく、共通する情報も依頼主から逃げたであろうということぐらいだから本当に困っている。

そうやって半ばやけくそで仕事をこなしていると事務所玄関のインターホンが鳴った。


「冷子、出てちょうだい」

「畏まりマシタ。マスター」


 職員の冷子はそう機械的に答えると銀色の髪を揺らして玄関へと向かい扉を開ける。

するとそこには見知った顔が見えた。


「二階堂さん……突然なんだけど依頼を受けてほしいの」


 彼女は黒巣白くろすあきら

引越しで最近転校してきた同級生だ。

学校では明るい彼女が辛そうな顔でこちらを見ている。

そんなの無下にできるわけもなく忙しさなんか忘れてしまった。


「え、どうしたの黒巣さん? 何か困り事?」

「うん、探してほしい人がいるの」

「人探し……分かったわ。とりあえず座ってから話を聞くよ」


 最近抱える悩みの種である失踪というワードを聞いて私は少しやる気を無くした。

しかし、すぐに気持ちを切り替えて話を聞くため黒巣さんをソファに座らせる。

そこへタイミングよく冷子がお茶を持って来てくれた。


「粗茶ですがドウゾ」

「あら、ありがとう。綺麗な髪ね……言葉もそうだけど外国人?」


 そう言って黒巣さんは興味ありげに冷子の顔を覗き込む。

それに対して冷子が返答に困っていたので思わず口が出てしまった。


「あぁ、うん。中国製だよ」

「え……ど、どういうこと?」


 黒巣さんは目を見開いて聞いてくる。

しまった……私は軽はずみな発言を悔いて深く反省した。


「あっいや、気にしないで。中国出身ってことだから」

「あ、そういうこと」

「そうそう!! それで、依頼って何かな?」


 私は強引ながらも話題を依頼の話へと移した。

黒巣さんもそうだと言いながら依頼な話を始める。


「それで、探してほしいのは私のお祖母ちゃんなの。変な話だけど何故か会いに行けなくなっちゃって……」

「会いに行けないって? 1人で行けないくらい遠いとか?」

「ううん、他県だけど私1人でも行けるくらいの距離だよ。実際にこの前会いに行こうとしたぐらいだから」

「う、うん……?」


 会いに行ったけど家に居なかったということだろうか?

いまいち要領を得なかったがとりあえず話を聞き続けることにした。


「実家は田舎の元旅館で森を抜けると行けるはずなんだけど……いくら道を進んでも森の入り口に戻って来ちゃうの」

「それって……」


 不可解な現象……私の頭に1つの可能性がよぎった。


「うーん、力になれるかは分からないけどひとまず引き受けさせてもらうよ。契約書とか書いてもらうけど大丈夫? あとはお祖母ちゃんの写真とかあれば」

「ホント!? うん、大丈夫だよ。ハンコも写真も持ってきたから!」


 私は黒巣さんに契約書を書いてもらうとひとまず家に帰ってもらった。

そして深いため息を吐く。


「マスター。今のお話は……」

「やっぱ怪しいよねぇ……田中さんが帰って来たら聞いてみよっか」


 冷子とそんな話をしていると後ろから声が聞こえる。


「所長、既に戻っております」

「うぉわぁ!!? い、いるなら教えてください!!

「申し訳御座いません。依頼者がいたので邪魔にならないようにしておりました」

「そっか……ありがとうございます」

「して、先程の話ですがほぼ殺仮死あやかしの仕業と見て間違いありません」


 やっぱり……田中さんがそう言うのならまず間違いないだろう。

この中年サラリーマンのような人は田中太郎たなかたろうさん。

ただこの名前は偽名だそうで本名は別にあるそうだ。

そんな紛らわしいことをしているのは彼が元は忍者でその癖が所々抜けていないかららしい。


「憑依した妖怪は恐らく迷い家まよいが……それも本来の人間を迷い込ませる事をせず、別の目的があるよう見受けられます」

「たったアレだけの話で……流石プロの妖怪ハンター」

「『元』帝六門殺仮死寮服部忍軍蘇我家当主みかどろくもんあやかしりょうはっとりにんぐんそがけとうしゅです」

「あぁ……すみません。長くて覚えられないもので」


 長々と詠唱していたが要は元妖怪退治を生業とする忍者で妖怪についてよく知っている人ということだ。

そして、彼の話から察するに今回の事件も妖怪が関係しているようで気が重くなる。

何せ私の生活は妖怪に囲まれているから……。


「それで……殺仮死あやかしだとして所長は如何なさるおつもりで? 今回も我々のように所員にされるのですか?」

「悪いけどウチの経営は毎月ギリギリだから穏便に解決する方向で……」


 そう、今の話で分かるかも知れないけどウチの所員は全員妖怪なのだ。

詳しくは聞いていないが田中さんは殺仮死あやかしのせいで妖怪になってしまい忍者を辞めてしまったらしい。


「所長、殺仮死あやかしとは一体何でしょうか? 」

「あぁ、冷子は壊れて妖怪になったから詳しくないのか。あのね冷子、現代の妖怪は人が死んだ時に妖怪の魂が憑依して生まれるの。この現象を殺仮死あやかしって言うのだけど貴女の場合はただの冷蔵庫だったのが壊れた時、殺仮死あやかしで付喪神になっちゃったのよ」

「つまり今回依頼主の祖母は恐らく……」


 田中さんは言い辛かったことを言い放った。

そう、今回の事件、殺仮死あやかしによるものだったとしたら黒巣さんのお婆さんはもう亡くなってしまっている可能性がある。


「これは確かめに行く必要があるわね。2人とも予定が空いているなら手伝ってほしいんだけど」

「承知いたしました。失踪事件が何件か継続ではありますが至急案件は全て片付いているので動けます」

「スケジュール確認中……経過観察案件3件、至急案件0件……オールオッケー。同行問題ありません」

「ありがとう2人とも。ちなみに明日の夜から学校があるから今から出発するね」


 こうして私と冷子、そして田中さんの3人は山奥の旅館へと向かったのであった。

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