第2話 能力が化け物すぎるよ!?

「ど、どうなってるの……?」


 鏡に映る僕の顔を見つめながら、自分にそう訴えた。

左目は濃い紫・緑色が、油絵の具のようにドロドロと動いて混ざり合いながら、あちこちで渦を巻いている。


「トネリコ……まさかあなた、あの木の実に手を付けたの?」


「えっ……? い、いや?」


「とぼけてないで正直に言いなさい! これは本当に重要なことなの!」


「――――っ! わ、分かったよ……」


 普段怒らないお母さんが、これだけ声を張り上げて怒っているところを見たのは初めてだった。

もう誤魔化すことは出来ない。

 僕はお母さんに全部話した。

1人こっそり家を抜け出して、絶対に近づくなと言われた木に近づき、そして木の実を食べたということを。


「――――なるほど。道理でお向かえさんがトネリコを見つけた場所をなかなか言ってくれなかったのね……。経緯は分かったわ。じゃあお母さんから1つ条件をつけるわ」


「なに?」


「トネリコ、明日から左目に眼帯を付けなさい」


「えっ! な、なんで!?」


「みんながトネリコの左眼を見たら、どんな反応をするか想像してみなさい。ここの街にいるみんなが、あなたの眼を見た瞬間怖がるでしょ?」


「た、確かにそうかも知れないけど……」


「お母さんはね、トネリコのために言ってるの。じゃあ、もし、昨日までは普通だったのに、次の日になってトネリコみたいな眼になってしまった子を見たら、トネリコはどうする?」


「そ、それは……」


 お母さんの言う通り、昨日まで普通だった子が急にそんなことになっていたら、僕も含め、みんなが「えっ!?」 ってなってしまうかもしれない。

そうなってしまった僕を見たら、みんなそんな反応をするに違いない。


「――――分かったよ。お母さんの言う通りにする」


「分かったわ。トネリコ、今日は外に出ないこと。お母さんが眼帯を作っておくから、明日からそれを着けて外に出るようにして。約束よ」


「うん、分かった……」


「じゃあ、お母さんはこれから夜ご飯を作るから、それまでゆっくりしていてね」


 お母さんは僕の頭を優しく撫でると、リビングへ向かっていった。

僕はベットの上にばたりと大の字になって寝転んだ。

そして、横に置いてあった鏡を再び手に取って、自分の顔をもう一度見る。

 相変わらず、僕の左眼は毒々しい色をしている。

僕があの実を食べたことでこうなってしまったと考えると、結局は自分のせい。

お母さんにも、お向かいさんにも心配されてしまったことは反省している。


「ごめんなさいお母さん……」


 僕は小さな声でそう謝った。

そして、僕はそのまま睡魔に襲われた。










◇◇◇








 次の日、僕はお母さんに言われた通り、左目に眼帯を着けて外に出た。

眼帯を着けるなんて初めてだから、結構違和感がある。

でも我慢するしかない。

自分がやってこうなってしまったんだから、文句は言えない。

それでも、やっぱり周りの反応を気にしてしまう僕は、人がいないうちにこっそりと家を出た。

そして、人気のない森にたどり着いた。


「――――ここら辺で良さそう。ここなら大きな音がなっても聞こえないだろうし」


 僕は1つやりたいことがあった。

実はあの後、夜中ずっと体に違和感があって仕方がなかった。

何かを体から吐き出したいような何というか……言葉では表現できないような違和感に襲われ、寝ることが出来ないくらいだった。

でも、流石に夜中に大きな音でも出したら、また村中が騒ぎになってしまうだろうと思って、僕は外が明るくなるまで耐え続けていた。

 そして、今……遂に解き放たれる時……!

もう僕の体は限界を迎えそうだった。


「でもどうしたら良いんだろう……。とりあえず体から放つ感じで良いのかな?」


 今まで感じたことのないこの感覚をどう対処したらわからない僕は、とりあえず両手を上げた。

こうすれば、なんとなくだけど体から解き放ちやすそう。

本当かどうかはわからないけど、やってみるしかない!

 目を瞑って体から解き放つイメージをする。

そして、勢いよく目を開けて手を上に上げて叫んだ。


「おりゃあああああああ!!!!」


 ブワアアアアアアア!


「―――――!?」


 叫んだ瞬間、僕の体から濃い紫色・緑色のドロッとした何かが滲み出てきたと思えば、いきなり勢いを増し始め、僕を包み込んだ。

当然僕は驚きすぎて、腕を上げたまま棒立ち状態になってしまった。

すると……


「――――な、なに……!? 頭の中に……何かが出来ていくような……」


 僕の脳内に、よくわからない謎のものが流れ込んでいく。

そして僕が普段使っている言葉じゃない、全然聞いたことのない言葉が頭の中に入り込んだ。

 そして、謎のものと言葉がそれ以上流れ込まなくなったところで、体から放たれる濃い紫色の何かも勢いを失って消えてしまった。


「――――な、何だったんだろう……」


 僕は何か変わったところはないかと体を触ってみたけど、何も変化したところはなかった。

でも、僕の頭の中には知らない言葉がたくさんある。

今までそんな言葉など知らなかったのに、突然全てを知っているかのような感覚はとても気持ち悪い。


「でもこの感じ……。もしかしたら魔法、なのかな……?」


 僕の街には学校というものはないけど、魔法のことは学んでいた。

というのも、魔法は大人になるに連れてどんどん発達していく。

だけど、自分の魔力が体の成長に伴って突然暴れ出す場合もある。

それがあっても自分で少しでも抑える事ができるように、予め魔法のことを知っておく必要がある。

 ただ実際、僕はまだ魔力を持っていないから、いま頭の中で浮かんでいるこの構造物と言葉から魔法なんじゃないのかと考えたきっかけは知識でしかない。


「とりあえず、何か1つ言ってみようかな」


 もちろん魔法を操るのは初めてだ。

でも、なにかやってみないと僕の身に何が起こったのか分からない。


「『ウパンガワ・クーザー』」


 頭の中に刻み込まれた言葉を唱えると、僕の頭の中で構造物が構築される。

すると、手から何かが集まってくるような感覚がした。


「――――!? 手から何かが作られてる!」


 右手を見ると手のひらから、あの濃い紫色・緑色が混ざりあった物体が作り上げられていく。

そしてそれは、細い剣の形になった。


「これは……もしかして魔法剣!? 魔法剣って作れなかったんじゃ……」


 ありえない……!

魔法剣は失われた魔法で、今は存在しないはず……なのに……。

 僕はいつか図書館で暇つぶしに本を選んでいた時、ある一冊の童話を見つけた。

子供用でわかりやすい文章で構成されていたから、僕でもすぐに分かる。

 その本の内容は、この街の歴史を元に作られたもので、そこには魔法について書かれていた。

その中で、魔法剣について書かれていた。

魔法剣はかなり複雑で、かなりの魔力を使わないと一切完成しない超高度な魔法の1つ。

そんな魔法を、僕は一瞬で覚えてしまった……!


「これも、僕が食べた実のせいなのかな……」


 僕の体から滲み出て、いきなり勢いを増したのは恐らく魔法のオーラだと思う。

魔法のオーラは、体の中にある魔力を全力で解放することで発生する。

魔力量を計るときや、力比べで良く使われたりする。

 でも……普通は全力で魔力を放つみたいなんだけど、僕の体の魔力は底をついている気配はまったくない。

まだ経験したことがないから実際は分からないんだけど、魔力が空っぽになったら、全身が酷い筋肉痛みたいになって立てなくなるんだって。


(でも、僕はどこも痛くないし、立っていられる……。絶対におかしいよ)


 そう、僕の体は不思議なくらい何も異常がない。

一体、シュドハドフの木の実は何なんだろうか?

 そして、僕は頭の中に刻まれた数々の魔法を全部試してみたけど、どれも聞いたことのない言語の詠唱で、発動される魔法も見たことないものばかり。

失われた魔法も、魔法剣以外にもたくさん習得していて、ますますわけが分からなくなってしまった僕は、ふらふらと足元をふらつかせながら家へと帰った。

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