第9話石盤と五つの運命

Rの目的が白日のもとに晒されたことで、闘技場内は困惑とざわめきに満ちていた。

「若葉をわざと失格にしようとした・・?」

「確かに速水のチーム、なんかいい目ばっかり出るなと思っていたけど・・・」

「そういえば、あのサプライズもよくよく考えると怪しいよな・・・」

なんとか誤解を解こうと、Rはていねいな声で説明した。

「みなさん、先ほどの言動は大変申し訳ありませんでした。あの時はいい勝負をしてくれなかった、速水さんにいらだってしまい発言してしまいました。速水さん、大変失礼をいたしました。」

Rは速水さんに深く頭を下げた、加藤さんは『まあ、いいか』とRを許した。

『えーっ、謝罪もすんだところでクエストの成績を発表しましょう。若葉と中林チームの勝利により、速水さんのポイントが0になります。』

「そうだったな、おれはどうなるんだ?」

『あなたには、最後のクエストを受けてもらいます。』

速水さんが引き続きクエストを受けることになって、ひと安心した。

『それではみなさまお待たせいましました、いよいよ最後のクエストです!』

Rの発言に会場内が緊張で満たされた・・。

『最後のクエストは・・・、石盤と五つの運命です!』

なんか神秘的ですごそうなタイトルにぼくは息を飲んだ。

「なんだ、なんだ・・・?」

『これからみなさんには五つの課題を受けてもらいます、このクエストでは一つ課題が終わると必ず一人失格者が出ます!容赦なく続く五つの課題をクリアして、最後まで残った一人が全ての石盤を獲得し、優勝することができるのです!!』

会場内が一気にわきあがった、優勝者を決める決定戦にみんな心が踊っている。

「いよいよだね・・・」

「ああ、ここからは今までとはくらべものにならないほど過酷なクエストだ・・・。心してかからないと」

ぼくは緊張でつばを飲んだ、一方のミカエルは表情はいつも通り真剣だったが、より緊張感が増して怖いくらいに表情が真剣だ。

『それでは行ってみよう!最初の課題は、「クイズ&ラブ」です!』

するとぼくたちの目の前に五人の女性が現れた。

『いまから出す問題の答えは、この五人の女性全て知っています。しかしそのうちの一人の女性はウソの答えを言います。答えをちゃんと正直に答えてくれそうな女性を選択して、その女性と仲良くなってプロポーズし、OKが出たら答えを知ることができます。』

Rの言葉にぼくたちは困惑した。

「えっと、つまりちゃんと答えを言う女性を見つけないと、問題に答えられないということだね・・・?」

「Rの奴、柄にもないことをするな・・・」

『それではいってみましょう、第一問!線香とネズミに火がつくとどうなるでしょうか?』

「線香とネズミに火がつくと・・・?」

ぼくは考えたが答えが思い浮かばない、昔からなぞなぞは苦手なのだ。

「いや、それよりも今はどの女性にアプローチするかが問題だ。一体、どの女性がいいんだろう・・・?」

といったってぼくは女性と会話したことなんてちっともない・・・。今まで田中くんだけと学校で話していないからね。

「困ったなあ・・・、一体誰に話しかけたらいいんだろう?」

そしてふとミカエルの方を見ると、すでに相手の女性と仲良くなっていた。

「すごいな・・・」

ぼくも、もたついてはいられない。とにかく早いことプロポーズしないと・・・。

するとぼくの目に止まったのはショートヘアーの大人しそうな女の子、アニメからそのまま出てきたみたいに可愛い。

「この子だ・・・!この子なら正直な答えを言うはずだ。」

正直、ぼくの直感だけで当てたのだが、ぼくは足早にその子のところへ向かった。

「あ・・・あの・・・、ぼ・・・ぼくと付き合い・・・付き合ってください!」

ぼくの顔が急激に赤くなった、自分でもとても恥ずかしいのがわかる。もう精神的に自分は死んでいるのだ・・・。

「あ・・・あの・・・、いいですよ・・・」

相手の女性の声がかすかに聞こえた。

「え?なんて?」

「いいですよ・・・」

ぼくは落ち着きをとりもどし、OKをもらえたことが嬉しかった。

「それじゃあ、問題の答えを言うね。答えは・・・花火になるだよ。」

「うん、わかった。」

そしてぼくたち全員が答えを知った。

『さあ、それでは順番に答えをいいましょう。まずはミカエルくん』

「はい、花火になる」

『続いて松島さん』

「わしは、消し炭になるじゃ」

『大悟くんは?』

「花火になるです」

『若葉くんは?』

「花火になるです」

『坂城さんは?』

「花火になるです」

『速水さんは?』

「花火になるです」

『はい、それでは正解の発表です!』

果たして正解は・・・?

『正解は、花火になるでした!!』

「よし、正解できた!!でもどういう意味だ?」

「ほら、線香花火とかネズミ花火があるでしよ?」

ぼくが説明すると、速水さんは納得してうなずいた。

『さて、失格者は松島さん!ここで終了です』

「むむむ・・・、ワシの運もここまでかのう・・・」

松島さんが残念そうにしていると、松島さんから赤い血が吹き出した。

「えっ・・・」

ぼくはその光景に絶句した。

そして松島さんはそのまま倒れて動かなくなった。

「えっ・・・、何が起ったの?」

「もしかして・・・、あいつ死んだんじゃないか?」

「そんな・・・!!」

闘技場内が騒ぎだした、ぼくたちは松島さんのところへ駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

「・・・もう息がない、残念だけど助からないよ。」

「もしかして、問題を間違えたら死んでしまうってことか・・・?」

ぼくたちもこの事実に、強烈な不安に襲われた。

「一体、どうなっているんだよ!!まさか、これはデスゲームなのかよ!?」

「Rのやつ、とうとう本領発揮ということか・・・」

「どうしよう・・・、一体どうしたら・・?」

ぼくはどうしたらいいか、必死に考えた。問題を間違えると、確実に死んでしまうこのクエストをみんなとどうやって乗り越えたらいいのか・・・?

「若葉くん、ぐずぐずしたってしょうがないよ。もうこうなったら、生き残るだけを考えるんだ。」

「でも、このままクエストを乗り越えたら、生き残るのは一人だけだよ・・・?ぼくかミカエルくんしか生き残れないんだよ?」

「そうだね・・・、ぼくはそんな場面を何度も見てきた。そのクエストごとに君みたいに親しくなり、共にクエストを越えてきた。だけど所詮は生き残れるのは一人だけ、その一人がRを止めるんだ。」

「・・・生き残った一人が、Rを止める」

「うん、ぼくだって人が死んだら悲しいし、ぼくが死ぬのも嫌だという気持ちがある。だけど、全員が生き残れるという希望は無いんだ・・・。」

ミカエルは頭を垂れながら、悲しそうに言った。

ミカエルくんの言うとおりだ・・・、だけどどんなことがあっても今まで乗り越えてきたじゃないか、だから今も生きなきゃならないんだ・・・!

ぼくは何としてでも、ミカエルくんと速水さんを死なせない・・・、そのための方法を頭の中で模索していた。

『えー、松島さんが持っていた石盤ですが、一番先に選択したミカエルくんのものになります。』

松島さんが持っていた石盤は、ミカエルくんのものになった。

『さあ、続いてのクエストに行きましょう!次のクエストは、一つだけじゃんけんです。』

変なタイトルにぼくは思わず首をかしげた。

『ルールは簡単、五人にはじゃんけんをしてもらいますが・・・、だせる手はグー・チョキ・パーのいづれか一つだけです。どれを出すかはプレイヤー各々の任意で決定し、出したい手のカードを選んで決めるルールです。全プレイヤーの出す手が決まったら、プレイヤーは他のプレイヤー全員とじゃんけんをします。一回戦・二回戦ごとに出す手を変えることもできます。使える手は一回戦につき一回だけ。判定は勝ち点の多い順に決まり、勝ち点が一番低い人が失策となります。なお、相手がどの手をだすのか知るという理由でのカンニングは許されないので注意してください。ちなみにあいこの場合は、引き分けということで互いの勝ちとします。』

また運試し的なゲームだ・・・、どうすればいいんだろうか・・・?

「勝ちで一点、負けられるのは二回まで。あいこは互いに勝ち・・・!?」

ぼくはひらめいた、この手ならミカエルと速水さんを助けられる!!

「ミカエルくん、速水さん、大悟くん、坂上さん。ちょっと来て下さい」

「どうしたんだ若葉くん?」

「何かいい考えがあるのか?」

「何かいいアイディアがあるのか?」

「一体なんだ?」

ぼくがうなずくと、三人人はぼくのところに寄ってきた。そして小さい声でぼくたちは話し合った。

「いいかい?まずぼくたちはグーを選んでジャンケンをするんだ。そして次にパー、そしてチョキを出すんだ。そうすれば必ず四回あいこになってぼくたちは勝ち点が四点もらえることになる。」

「なるほど、これなら必ず全員に四点がつくから、順位がつけられなくなるということだな。」

「それじゃあ、おれたち助かるかもしれないんだな。良かった〜・・・」

「よし、みんなこの手で行こう。そしてぼくたちは必ず生き残るんだ!」

ぼくたちは、小さくおーっと言った。

まずは一回戦、ぼくたちは全員グーを選んだ。

まずはぼくの番、相手は速水さん。

「ジャンケン・ポン!」

結果はあいこ、そして次はミカエルくん。

「ジャンケン・ポン!」

次もあいこ、そしてぼくたちは一回戦をあいこだけで終わらせることができた。

続いて二回戦、今度はみんなでパーを選択して、全員あいこで終わった。

そして三回戦、今度はチョキだ。これでみんな同じ成績となり順位がつけられず、最下位の人が死なないですむはず・・・!

そしてジャンケンが始まった、ぼくと速水さんの対決になった時に異変は起きた。

「えっ・・・・?」

「みんな・・・、申し訳ない!」

なんと速水さんの手は、パーになっていた。

つまり速水さんは一敗することになり、速水さんは一人最下位になってしまったのだ。

「ウソだろ・・・!?」

「やはりRが何も仕掛けてこないはずはないか・・・!!」

これは明らかにRの不正だった、ぼくはRに言った。

「おい、これは明らかにおかしいぞ!!速水さんだけを一方的に負かそうとしているだけじゃないか!!これは不正だ!」

するとRはぼくの言い分にこう返した。

「いやいや、先に不正したのはそちらでしょう。せっかくのクエストなのに、全員で生き残ろうとバカなこと考えて、示し合わせて同じ手であいこを重ねようとしたって、そうはいかないからな。」

完全にRにこちらの考えを読まれていた、もうどうしようもない・・・、ぼくは速水さんが死ぬのを黙って見届けるしかなかった。

「速水さん・・・」

どうしようもなくて、泣いていると速水さんがぼくに言った。

「泣くな若葉、お前とクエストできたこと楽しかったぜ。また遊ぼ」

ここで速水さんから突然血があふれでて、速水さんは倒れた。

「あ・・・、ああっ・・!?」

ぼくは泣き崩れ、みんな黙ったままどうすることもできない表情でいた。速水さんは優しい表情のまま体も顔も動かなくなった。

「うあああーっ!!」

『はい、一名失格!残念でしたね〜』

人が死んだというのに陽気な司会をするR、ぼくは静かに怒りに燃えた。

『さあ、続いてのクエストに行きましょう!それでは、特設ステージへチェーンジ!!』

すると闘技場の地形が突然変化を始めた、そして闘技場の中にドーナツ型の溝ができて、その中に水が溜まり始めた。

「やはりここでもやるのか・・・。」

ふとミカエルが何か呟いた。

そして闘技場の変化がおさまると、Rは喋りだした。

『みなさま、次のクエストはデッドオアフラッグです!これからみなさんには旗を守ってもらいます!』

そしてぼくたち四人は旗を受け取った。

「この旗を守るということか・・・」

『あー、この旗を守るということは、取られないようにするだけではありません。この旗を濡らさないようにするのです。ちなみにこの旗はみずに塗れると・・・、青色が赤くなります。』

Rは旗を水に浸けると、確かに浸かっていた部分が青色から赤色に変わっていた。

「では本格的なルールを説明します、制限時間は三時間、その間この地面が揺れたり強風が吹き荒れたりします。三時間の間、旗を落とさなかったプレイヤーが次のクエストに進めますが、旗を落としたり旗が水に濡れて赤くなってしまったら脱落です。」

今度は持久力のゲームか・・・、うまくできるかな・・・?

そしてぼくたちは旗を持ち、カウントダウンが始まる。

「3・2・1...スタート!」

そして地面が揺れだした、といってもまだそれほど強くなく、しっかりと旗を持つことができる。

「これなら、三時間持つことができるぜ!」

大悟くんが余裕そうに言ったが、ぼくはまだ油断できないと思った。

揺れが始まってから十分後、突然水の中から巨大な魚が三匹跳ねた。

「うわあっ!?なんだあれ!?」

「めっちゃでかい!!」

するとミカエルが叫んだ。

「何をしているんだ、端によれ!」

ぼくはすぐに端によった、すると跳ねた魚が水面に落ちた衝撃で、水しぶきが上がる。

水しぶきは雨のようにぼくたちに降り注いだ。

「うわぁ、びしょ濡れだ・・・」

「とにかくこの魚が跳ねたら、水しぶきで濡れてしまう・・・。気をつけないと!」

それから揺れる地面と跳ねる巨大な魚から出る水しぶきから、ぼくたちはそれぞれ旗を守った。

「これは・・・結構キツいな・・・!」

揺れる地面が足に負担をもたらし、さらに水しぶきをかわすために足を動かすので、さらに負担が増える。

『みなさん、なかなか粘りますね〜。それではここで、嵐の時間です!!』

Rがいうと闘技場内に強い風が吹き荒れた。

「うわぁぁ・・・、これはキツい・・!」

これではまともに動くこともできない。そして水から再び魚が跳ねた。

「水しぶきが来るぞ!!」

「ぐっ・・・、足が動かない・・・!!」

どうしたらいいか・・・、考えていたその時だった!

「よし、いいことを思いついたぞ!」

そしてぼくは呪文を唱えた。

「風の壁・竜巻サークル!」

そして闘技場内の陸地が、巨大な竜巻の中にすっぽり入った。

「あれ!?なんだこれ、どうなっているの?」

「風の手・ウィンドウハンド」

さらにみんなを竜巻の中で宙に浮かせた。

「これは、風の魔法か!?」

「うん、剣だけじゃなくて魔法も使えた方がいいかなって、こっそり勉強していたんだ。まだ強力なのは使えないけどね・・・」

「でも、これならある程度は全員助かることができる。ナイスだ若葉くん!」

ミカエルに褒められて、ぼくはすこし照れた。





一方、その様子をモニターで見ていたRは、少しほくそ笑んだ。

『なるほど、なかなかやるな。あいつ剣術だけだと思っていたが、魔術も多少はできるようだ。』

しかしRには、まだ何か隠していることがあるかのような表情だ。

『さて、問題はクエストの進行だ。まだ残り二枚の石盤の所有者が出ていないからな。』

虹のディスクを完成させるには、複数人で完成させなければならない。しかしそのうち願いを叶えられるのは、その複数人の中で最も多く石盤を集めたものだった。

そこでRはミカエルに石盤を多く持たせた後に、最後のクエストで失格させて一気に多くの石盤を手に入れようとしているのだ。

『ふふふ、そろそろクエストの恐ろしさを思い知らせてやりますか・・・』

そしてRは静かに闘技場内を動かし始めるのだった・・・。





































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