Stage4-25 一生を共に歩む


 魔龍の死が公式発表となった後、エンカートンの住民総出で街の復興作業が始まった。


 本来ならすでに激戦にて体力を使い果たした俺たちは何もしなくて良いはずなんだが……。


「オウガ様……」


「オウガ君……私たちも」


 アリスとレイナに訴えるような目線を向けられたら、やるしかないだろう!


 断れないよ! だって、俺のことを好きになってくれた二人に格好良いところ見せたいじゃん!


 あ~あ……また一つ【聖者】の称号に近づいてしまっている……。


【聖者】としての善行を積み重ねてしまう後悔とみんなからの行為に対する裏切り。


 そんなの天秤にかけるまでもない。


 そういうわけでつい先ほどまで体にむち打ってガレキの除去を手伝っていたところだ。


 どうやら俺たちが利用していた宿泊施設は無事だったので、同じ部屋をそのまま使っている。


 一息をつけば、いろいろと話したいことも出てくるだろう。


 今回も様々な変化があった。


 マシロは俺の隣に座ると、そっと右腕を撫でた。


 ……残念ながら感覚はもうないので、こちらでは彼女のその優しい手つきも感じることはできない。


 だけど、後悔もなかった。【龍滅拳・改】のおかげで、四人を魔龍から守れたのだから。


「……本当にもうオウガくんの腕は変わっちゃったんだね」


「マシロは前の方が良かったか?」


「あははっ、そんなわけないでしょ。ボクはオウガくんが全身機械になっても大好きだって言えるもん」


「……すまん。嫌なことを聞いたな」


「ううん、オウガくんの不安は全部取り除いてあげたいから。だって、好きなんだもん」


「……ありがとう」


 そう言って、俺は右手で彼女の頭を優しく撫でる。


 マシロはその手に頬をスリスリとこすりつけて、愛おしそうに抱きしめた。


「マシロさんだけじゃありませんよ、オウガ君」


「オウガの腕が変わったってオウガはオウガだから」


「はい。私たちの愛に変わりはありません」


 ……あぁ、マズい。泣いてしまいそうだ。


今、ほんの少しでも気を抜いてしまえば涙がこぼれてしまう。


一度まぶたを閉じ、深く息を吐いて湧き出る熱い感情を抑え込んだ俺は大事な話を切り出した。


「こういう事態にもなる可能性がある。いや、はっきり言って片腕で済むなら安い代償かもしれない」


 そう言って、みんなに義手となった右腕を改めて見せつける。


 これは現実だ。


 もし、この腕から目をそらす子がいたならば、今後の生活を援助する約束をして関係を解消するつもりだった。戦いに巻き込まないようにするためである。


 覚悟を強いているのは、俺側の都合だ。


 もし右腕を受け入れられないならば、それ以上の不幸な結果を招いてしまう可能性がある俺と結ばれても辛い思いをさせてしまうに違いない。


 それは俺にとっても望ましくないことだ。


 彼女たちを愛しているからこそ、彼女たちが幸せになれる道を選んでもらう。


「だが、それでもいいなら」


 走馬灯のように巡るみんなとの記憶。


 マシロの明るさに彩られた日々。


 気絶するほど驚いたカレンと婚約を結んだ日。


 死に物狂いで握りしめたレイナの温かさ。


 過去のしがらみから解放されたアリスの涙。


 そして……みんなが俺に愛を与えてくれたときの表情。


「――俺と結婚してほしい」


 一生を求める言葉は思ったよりもスルリと口から出た。


『全員を幸せにする』とか『一生の愛を捧げる』とか……本当はもっと格好良く、心に響くようなことを言おうと思っていたけれど、今の俺の気持ちがそのまま言葉になってくれた。


 目の前の彼女たちを見れば後悔なんてしたりしない。


 俺が望んだ。もっとも見ていたい顔をしているから。


「ボクも大好きだよっ、オウガくん!」


「オウガ……ありがとう。こんな幸せをいっぱいくれて」


「私の人生はあの日から、オウガ君に捧げると決めていましたよ」


「これからは……家族としても……片時も離れることなく、オウガ様のおそばにおいてください」


 さきほど泣くのを我慢した分、喜びが爆発する。


 俺は大きく両手を広げて、四人を抱きしめる。


 マシロ、カレン、レイナ、アリス……。


「愛してる……!」


 今日という日は俺の人生にとってかけがえのない日になるだろう。


 こうして俺は世界で一番大好きな四人と結婚の約束をした。


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