Stage4-23 最強への一歩

【龍滅拳・改】で魔龍の攻撃をはじいた俺は無事だった三人の姿を見て、ホッと胸をなで下ろした。


 間一髪のタイミングだった。


 三人が最後の力を振り絞って大技を放ってくれなかったらと思うと、ゾッとする。


「オウガくん! その腕って……!」


「ああ。無事に成功したよ」


 俺は小指から順に指を握りしめるように動かす。


【龍滅拳・改】はもうすでに俺の体の一部としてなじんでいた。


【魔力回路】も十分に生み出し、問題なく戦える。


「ふふっ、オウガ君も私の仲間入りですね」


「そうだな。レイナとおそろいの部分ができて嬉しいくらいだ」


 そう答えると彼女はニコリと笑って、俺の右腕をコンコンと叩いた。


「オウガ様……」


「……アリス。見ていてくれ。さらに強くなった俺の姿を」


「……はいっ!」


 ボサボサになってしまった彼女の髪を整えるように撫でると、俺は空を飛ぶ魔龍と向き直った。


 各々、本当は言いたいことがあるだろう。


 それでも今は呑み込み、受け止めてくれたのが嬉しい。


「魔龍……よくも俺の大切な人たちをいたぶってくれたな」


 レイナたちは顔にまで傷を作っていて、こいつにどれだけ苦しめられたのかがよくわかる。


 その罪……万死に値する。


「まずはそのお高いところから同じ場所まで引きずり下ろしてやるよ……」


 右腕に魔力を込めると、腕の中でギミックの駆動音が鳴り響く。


 魔力の充填が完了したことを知らせる音と同時に黄色のラインが四本とも発光した。


 これが【龍滅拳・改】によって与えられた俺の新たな力。


 左手を右腕に沿えて照準がブレないようにすると、その一つを解き放った。


「【龍滅拳・空】!」


『GYAAAA!?』


 俺の手首から先が超高速で空を駆けて、一瞬で魔龍の下顎を掴む。


「ふんっ!」


 あの手首と俺の腕は見えない魔力の糸によってつながっている。


 よって、魔力を腕の方に集中させると、拳が戻ろうとして奴の身体までも地面へとたたき落とした。


 土煙が舞い、自分が何をされたのかまだ理解に及んでいない魔龍は再び空へと羽ばたこうとするが許すわけがない。


 拳を腕に引き寄せられるということは、その逆も可能ということ。


 魔力の糸を通して魔龍の顎を掴んでいる拳の方へと魔力を集中させると、今度は腕が着いている俺の体ごと高速で接近を果たした。


「次はその邪魔な翼だ」


 二本目のラインの魔力を使うと、手首に穴が開く。


 そう。これは彼女と出会った日に見せてもらった折りたたみ剣と同じ原理で、腕を振るうと中から剣が出てくるギミック。


「【龍滅拳・刃】」


『GOOOOOO!? GRUAAAAAA!!』


 出てきた仕込み刀を左手で掴んだ俺は接近した勢いそのままに奴の翼へと剣を突き立て、切り裂く。


 ユエリィが打った剣は切れ味も抜群だった。


 これで空にも逃げられなくなった魔龍。


 地面に這いつくばる姿はもはや龍ではなくトカゲだ。


 カチリと手を腕にはめ直した俺は魔龍の正面に立つ。


「……覚悟しろ、魔龍。次がお前に見せる最後の一撃だ」


『……! GAA……GYAAAAUUU!!』


 気配で悟ったのか、魔龍も最後の力を振り絞って魔導砲のチャージに入った。


 命の危機ほど生き物は生存本能が働いてより巨大な力を発揮する。


 それは魔龍も例外ではない。


 さきほどはじいた魔導砲よりも一段階ほど魔力の量が増えている。


 ……ならば俺も使わざるを得ないな。


「……【限界超越・剛】!」


 ドラゴン・バニッシャーではこの技に耐えきれなかった。


 ユエリィはその原因を魔石と金属の比率にあったと言っていた。


 魔石は元々魔力を持つ石だ。それが金属よりも多く含まれていたため、【限界超越・剛】で集まってくる魔力と魔石の魔力が積み重なって、義手の許容量を超えてしまうらしい。


 原因がわかれば改善するだけ。


 魔石と金属の比率を修正した【龍滅拳・改】は思い切り【限界超越・剛】を使うことができる。


「お前の命がけの魔導砲と俺の拳。どっちが強いか……勝負と行こうか」


 刹那、視界が真っ白に染まるほどの魔力の奔流が放たれた。


「ぐっ……あぁぁぁぁぁ!」


 右腕へと降り注ぐ命を奪おうとする魔物の意思。


 俺を食い殺さんとばかりにぶつけられる殺意。


 上位種に君臨する者としての誇り。


 それらを感じてなお、もう負ける気はしなかった。


「ぁぁぁぁぁらぁっ!」


 魔導砲を少しずつ押し返して、魔龍への距離を近づけていく。


 一歩、また一歩と近づくたびに奴はさらなる力を振り絞って抵抗しようとするが意味は成さない。


 出力を考えない命がけの攻撃はやがてガス欠を起こし、ついに魔導砲は消え去った。


「……勝負あったな」


 右手を胸横まで引いて、腰をひねる。


 己の逃れられない死を悟ったのか。


 魔龍は抵抗する素振りを見せず、首を差し出すように地面へと置いた。


 ……だったら、最後は楽にあの世へと送ってやろう。


 溜めから突き出された眉間へと突き刺さり――


『……GA……A……』


 ――紅の瞳はグルンと回って白となる。


 エンカートンを地獄へとたたき落とした魔龍との戦いは静かな幕引きとなる。


 エンカートン史上最悪の夜は明けた。


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