Stage4-8 抱き枕アリス
それからというものの慌ただしく時間は過ぎていった。
特に独立機械都市・エンカートンはヴェレット領から王都を越えた先にあるため、飛行艇を使って向かわなければならない。
飛行船はこの時代において数少ない空路を通る乗り物で、ロンディズム王国でも王都と四大公爵家の領地にしか着陸しない。
その便の数すら少ないのでチケットはいつも争奪戦になるのだ。
今回は父上が
出発は明日の早朝を予定している。。
故に俺たちは大慌てで旅行の準備をすることになり、すでに明日に向けてそれぞれの部屋で夢の世界へ旅立っている頃だろう。
かくいう俺もベッドで天井を見上げている。
ちなみにカブーニカさんは普通に魔法を使って空を飛んで帰っていった。
その際の魔力の制御が均一すぎて気持ちが悪かった。
……さて、そろそろ見逃していたが踏み込むとするか。
「アリス? 俺は退出を促したはずだが?」
荷造りを手伝ってもらった後、自室へ戻るように伝えたのだが彼女はベッドの横にまだ立っていた。
……だが、俺も鈍い男じゃない。
彼女が何をしたいのか、何をやろうとしているのかくらいは見当がつく。
ならば、ここは先手を打つとするか。
「オウガ様……申し訳――」
「――添い寝してくれないか?」
「……え?」
俺はちゃんと覚えている。
マシロたちが今晩楽しみにしていてねと言っていたことを。アリスが丁寧にベッドメイキングをしていたことを。
あいにく明日は朝早くから始動しなければいけなくなったせいで、三人はいないし、客間でもないが、アリスは俺への強すぎる忠誠心が働いて部屋に残ったのだろう。
彼女にしては珍しくずっと何か言いたげだったのも、いつ切り出すかタイミングを見計らっていたからに違いない。
「オ、オウガ様……その、私は……」
「アリス」
「……か、かしこまりました」
名前を呼ぶと彼女はそろりとベッドに乗って、俺の隣へとやってきた。
そのまま腕を引いて彼女を隣に寝かせると、そのまま上から毛布をかぶせる。
アリス相手には強気になれるからこそできた芸当だ。
マシロたち相手だとここまでスムーズに事を運ぶことは出来なかっただろう。
いつものように三人にペースの主導権を握られて、童貞ムーブを繰り出していたに違いない。事実、前世も含めて童貞なので致し方ない部分もあるが。
そのまま彼女の綺麗な金色の髪へと手を伸ばす。
すると、アリスはとても辛そうな表情でポロポロと懺悔をこぼし始めた。
「オウガ様……私はこのように優しくしていただける立場ではございません。オウガ様にあのような決断をさせてしまって……」
原因がわかった以上、固定をしておく必要もないので久しぶりに自由を得た右腕が彼女に抱きしめられる。
……あぁっ!? アリスが話したがっていたのはそっちか!?
やばい……勘違いして恥ずかしいことをしてしまった……!
グルグルと失点を取り戻すための策を考えるが、ひとまずはアリスを落ち着かせることが先決だ。
俺は決して罪悪感を持ったまま彼女に仕えてもらいたいわけではない。
「アリスを救うために必要な代価だった。それだけの話なんだ。……アリスは仕える主の取った選択が間違いだったと言うのか?」
彼女は反論しようとして口を開くも、行き場の失った感情を誤魔化すように俺の胸へと顔を埋める。
「……オウガ様は卑怯な御方です。そう言われてしまっては私は何も言えなくなってしまいます」
「アリスが責任の強い人間だというのはよく理解している。だから、こうして隣で寝るのが罰だ。……それでどうだろうか」
「それは……罰になりませんよ、オウガ様」
ぎゅっとアリスも抱きしめ返してくれる。
あの時の選択がなければ、この腕の中のぬくもりもなかったんだ。
彼女は何度、謝りに来ても俺が責めることはない。
自分自身で彼女を助けると決めた上での結果なのだから、それに対して文句を言うのはあまりにも三流過ぎる。
「むしろワクワクしているんだ。義手は魔導具だから、今までにないギミックを試したり出来るんじゃないかと考えている」
改造は男なら誰でも一度は夢見るロマンだ。もちろん俺だって通ってきた道。
だからこそ、右腕を切って、義手を付けることにそこまで忌避感はなかった。
これは間違いなくもっと強くなれるきっかけになる。
ロケットパンチか火炎放射のどちらかは仕込みたいな。隠し刀みたいなのもいいかもしれない。俺の場合、素手で戦った方が強いけど。
「オウガ様なら必ずできると思います」
「またアリスにも意見を聞くこともあるだろう。力を貸してくれるな?」
「もちろんでございます。私の持つ奥義の心得、全てをオウガ様のために」
今の様子を見るに、彼女の胸の内の暗い感情は取り除けたみたいだ。
そして、上手く勘違いもごまかせたか……。
ごまかしついでに添い寝まで無事に慣行できて、まさに一石二鳥!
やはり俺の天才的頭脳はこういう場面でも遺憾なく発揮されるみたいだ。
しかし、お嫁さんになりたいと言ってくれたアリスと添い寝か……。
これもう実質結婚しているようなものだろ。
「さぁ、はやく寝よう」
「はい……このままで」
いつもの就寝時間も近づいてきて、意識も睡眠状態へと移行しようとしている。
「おやすみなさいませ、オウガ様」
あくびを一つした俺はそのままアリスを抱き枕代わりにして、夢へと誘われた。
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