Stage3-4 妹自慢

「なるほど、三人の要望はわかった。それなら十分に叶えられる」


 俺は三人の話し合いのまとめを聞いて、答えを出す。


 ちなみに俺の膝にはマシロが寝転がっている。


 アリスが外で手綱を取っている以上、長時間の膝枕に耐えられる鍛えたふとももは俺しかいないので、自然とこの形になった。


 あいにくだが馬車では魔法船のような快適な旅は出来ない。


 そもそも貴族たちは日頃の移動に使う分、揺れにも慣れているからな。そういった効果は必要がないのだ。


 ……話を戻そう。


 三人が求めたのは楽しい思い出作りをすること。


 それには俺も大賛成だ。


 特に先日はあまりにも血生臭い出来事が続いた。


 それらを払拭するためにも楽しい思い出を作るのは間違いではないだろう。


 実を言うと、俺も同じことを考えていたのだ。


 降って湧いてきた長期休暇。


 やることがあれば考え込む時間は少なくなるが、暇ができてしまってはついつい思考にふける時間が増えてしまう。


 マシロは本物の命の取り合いの恐ろしさを。


 レイナはこれまでのフローネとの過去を。


 二人とも表立ってそういった様子は見せないが……優しい心の持ち主だ。


 きっと俺に気取られないように蓋をしてしまう。


 だったら、それらを忘れてしまうくらい良い思い出で上書きしてやりたい。


 サラサラとした髪に沿って撫でると、マシロはくすぐったそうに少しだけ身じろぎした。


 そういう意味では今日までの忙しさは悪い一面だけではなかったのかもしれないな。


「さっそく今日にでも手配をしよう。今日、父上と会談があるから、そのときにでも話しておくとするか」


 今日は珍しく父上が屋敷に滞在しているらしい。


 家族思いのあの人のことだから十中八九俺に予定を合わせてくれたのだろうが。


 マシロたちとの顔合わせを終えた後、俺とレイナは父上と改めて三人で話し合う予定だ。


 この三人での議題は当然、一つ。


【雷撃のフローネ】についてしかあるまい。


「そういえばゴードンお義父さまと会うのは久しぶりかも。あと、セリシアちゃんも!」


「悪いがセリシアは今はいないぞ。カーマベイン帝国に留学中だからな」


「あっ、そういえばそうだったね……」


 肩を落として残念がるカレンが会いたがっているのは、俺の実妹であるセリシア・ヴェレット。


 何でもかんでも楽をしたがる俺とは違って、品行方正。才色兼備。文武両道。


 そんな言葉の数々が似合う可愛い妹は社会勉強のために隣国のカーマベイン帝国の魔法学院に母上と共に留学している。


 セリシアには俺の体質のせいでずいぶんと苦労をかけているのに慕ってくれるので、俺も会えないのはさみしい。


 しかし、いくらさみしさを募らせてもそう簡単に帰ってこられる距離ではないので手紙だけ出しておいた。


「私も早く挨拶したいですね。義姉になりましたから」


「きっとレイナもすぐ仲良くなれると思う。本当に裏表のない天使のような子だから」


「まぁ。それはとても楽しみです。オウガ君と一緒で、私の淹れる紅茶を気に入ってくださると嬉しいですね」


「なるさ。セリシアは俺と好みがすごく似ているから」


 本当にずっと俺の後ろをついてきて可愛いんだ。


 俺が食べたものを食べたがり、俺が学んだものを学びたがる。


 だから、家族で誰といちばん長く時間を過ごしたかと問われれば間違いなくセリシアだと答えられる。


 雷が降る夜なんかはよく怖いからと言って、一緒に寝てほしいなんてベッドに潜り込んできたっけ。


 ……っと、いかんいかん。このままではペラペラとセリシア自慢を始めてしまいそうだ。


「そうだ。ヴェレット領まではまだまだ時間がかかりますし……よかったら、セリシアさんについて教えてくれませんか?」


「確かに私も気になる。セリシアちゃんとはパーティーであまり話せる機会がなかったから、私も知りたいな」


「私も少しでも早く家族として受け入れていただきたいですから」


「わかった。じゃあ、セリシアの可愛いクセから――」


 求められては遠慮する必要はない。


 俺は可愛い妹のとっておきのエピソードを語り始める。


 それからしばらくの間、俺たちは妹を話の種に会話を咲かせたのであった。






◇ みなさま、今年も一年間お付き合いいただきありがとうございました。 

 【悪役御曹司の勘違い聖者生活】は書籍版は重版を達成し、コミカライズ版の連載もスタートと躍進の一年となりました。

 これも日頃から応援してくださっている皆様のおかげです。

 来年も頑張って面白い物語を書いて参りますので、お付き合いよろしくお願いします!

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