Stage2-6 ファンクラブ会員:シュルトー・サティア
◇前回までの簡単なあらすじ◇
カレンとの婚約が結ばれたオウガはマシロの機嫌を直すために指輪をプレゼントする。渡し手と貰い手で意味合いが違う事に気づかないまま、無事に乗り切る彼を待ち受けていたのは、男装から解き放たれ、その大きな胸も解放したカレンだった。
決しておっぱいに負けたわけではないが、カレンとの婚約を受け入れたオウガ。
そんな彼をレイナを差し出すという荒技を使ってでも生徒会へ入会させようとするミルフォンティ学院長。
しかし、オウガの意思は固く、今回も断る。
その会話の途中で雰囲気が変わった学院長の態度から、レイナに興味を覚えたオウガは彼女を昼食へと誘うのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リッシュバーグ魔法学院の昼休憩スポットとして有名な中庭。
いつもは学年問わず生徒が集まって賑やかな場所ですが、今は不自然なくらい静か。
なぜならば、中央を囲むように陣取った
『き、来ましたっ! サティア様……!!』
刹那、耳につけていたイヤリング型の
私――シュルトー・サティアは目的の人物がやってきたことへの歓喜と緊張を同時に覚えて、なんとも言えない表情になってしまった。
ただそれは私だけではないみたいで、周囲を見渡せばみな似たような顔をしている。
ふふっ、それも致し方ありませんわよね。
『――オウガ・ヴェレット様です……!』
ここには同志――オウガ・ヴェレット様ファンクラブ(非公式)の会員たちが集まっているのですから。
『今日も凜々しいお姿です……!』
『あぁ……全身から黄金のオーラが輝いて見える……!』
『ヴェレット様を一目見れただけで心が潤いますね』
飛び込んでくる賞賛の声々。
私たちはヴェレット様とアルニア王太子の決闘を観戦し、彼の身を投げ打ってまで愛を貫いた姿に感動した者の集まり。
貴族にとって結婚とは権力的な意味合いが強く、生まれたときには将来の伴侶が決まっている……なんてことも珍しくない。
恵まれた立場に生まれたことは理解しているが、定期的に自由な恋愛をしてみたい願望が湧き上がるのもまた事実。
貴族令嬢の間でラブロマンスの演劇や小説が流行るのもきちんと下地があるのだ。
そんな私たちに見せられた公爵家お二人の大恋愛。
それを次期国王になる権利を擁したアルニア王太子に対して一歩も引かずにぶつけるのですから、憧れないわけがありません。
なにより取り押さえられながらも覗かせた力強い姿が私たちの心に憧憬の火を灯させたのです。
『サ、サティア様!』
「なにかありましたか? 落ち着いて報告なさい」
『ミ、ミルフォンティ生徒会長もご一緒です……! やはり例の噂は本当だったのですね!』
例の噂とはヴェレット様が生徒会入りされるというものだ。
アルニア王太子との決闘にも一枚噛んでいるとか。
……となれば、こうして昼食を一緒にするのも不思議ではありません。
ですが、不確定な情報を流布して迷惑をかけてはファンクラブ会員の恥。
特にヴェレット公爵家の前で情報の取り扱いを間違えては、どんな失望をされてしまうか……考えるだけで恐ろしいですわ。
「まだ確定情報ではありません。決して他言はしないように。わかりましたわね?」
『しょ、承知いたしました』
ヴェレット様がご活躍されるのは嬉しいですが、それはあくまでこちらの事情。
実はこっそりとお付きのメイドに接触した際に伝えられましたが、ヴェレット様は全て他人のために動かれているとのこと。
決して貴族としての人気取りではないのです。
ならば、時間に拘束される生徒会の役職を受けない可能性もあるはずだ。
『……サティア様。ヴェレット様、ミルフォンティ生徒会長が目標ポイントへと向かい、サティア様の目の前を通ります』
「わかりました」
目標ポイントとはメイドが準備をしているテーブルを指す。
その通り道の途中に私の座るテーブルもあった。
つまり、生ヴェレット様がすぐ隣を横切られるわけで……ふふっ、柄にもなく緊張してきましたわ。
手に持ったカップに注がれた紅茶が波を打っているもの。
震えていますの、小刻みに。私の手が。
「いけませんわ、私。今こそ息を整えて――」
「――で、紅茶に合いそうなメニューをこちらで用意しておいた。存分に楽しんでくれ」
「ありがとうございます。実は前々からヴェレット家が販売している料理は見慣れない品が多くて気になっていたんです」
「――ん゛っ!!」
整えられなかったので呼吸を止めることで対応します……!
輝いていますわ! あの鋭い目つきに射貫かれたならば誰だって好きになってしまうに違いありませんわ!!
『サティア様? いかがなさいましたか?」
「……いいえ、何でもありません」
……ふぅ、落ち着きなさい。
私は中庭の植木。オブジェ。空気……。
そう……同じ空間にいるだけのもの。決して感情を表立たせてはいけません。
「では、みなさん。今日も決して邪魔をせずヴェレット様を見守りましょう」
『『『はい!』』』
遠くからでもあの御方の歴史のひとときを眺められる。
それだけで私たちは幸せなのですから。
……しかし、みなさん。
「もう少し淑女としてのたしなみを持ってほしいですわね」
席に着かれたヴェレット様へ注がれる視線が少々荒々しいですわよ――あっ!?
この席だとご尊顔が見えませんわ……!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本日は快晴。外で休息をとるにはちょうどいい暖かさ。
「さすがはヴェレット公爵家。手が出しにくいブランドをこんなにたくさんも」
カチャカチャとアリスが食器など並べて、ミルフォンティはそれを興味津々に眺めていた。
今回はマシロとカレンには席を外して貰っている。
少し彼女とは二人きりで話をする時間が欲しかったからだ。
……だが、今はそれよりも気になることが一点ある。
座った瞬間から何か視線が凄い!!
特に背後に位置する金髪縦ロールの少女からの視線をヒシヒシと感じる。
それも普段身に受ける興味本位の視線じゃない。
何か強い圧を感じる類いのものだ。
「ふふっ、ヴェレット君は人気者ですね」
ミルフォンティも気づいているのだろう。
人気者、か。
……なるほど、ある意味ではそうかもしれない。
これはあくまで予想だが……視線を送ってきているのはおそらくアルニアと懇意にしていた女子たちだ。
あの一件以来、アルニアは登校していない。
原因は間違いなく俺だからな。
逆恨みされていても何らおかしくない。
このまま放置していてもいいが……今からはミルフォンティとの大事な時間。こんな恨みのこもった監視の中では本音も出てこないだろう。
そちらがその気なら直接相手してやろうじゃないか。
大胆不敵に、悪役らしく。
「ミルフォンティ、少しだけ待っていてくれ」
そう告げて、俺は金髪縦ロールの元まで歩み寄る。
奴は途中で自分の元へ向かってきている事実に気づいたのか、見るからに慌てふためいていた。
目は左右に泳ぎまくり、カップから中身がこぼれてテーブルの上が大惨事である。
「おい、今さら知らないフリをしても意味は無いぞ。俺は初めから気づいていた」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「言いたいことがあるなら聞いてやろうじゃないか。言ってみるといい」
口端を吊り上げて、できうる限りの悪どい笑みを浮かべる。
先ほどからの様子を見るに、こいつは全く肝が据わっていない。
これだけで十分に威勢を失うはずだ。
「え、えっと、私はその……」
あいにく俺は男女平等に扱う男。容赦はしない。
尻尾を巻いて逃げ去るもよし。罵倒を投げかけてくるもよし。
さぁ、一体どんな対応を見せてくれる……?
「――あ、握手してくださいませ!!」
……は?
◇大スランプでした!!ごめんなさい!!
投稿していない間に【悪役御曹司の勘違い聖者生活】1巻(本作を改題・改稿)が発売されていたってマジ!?
へりがる先生の素晴らしいイラストがたくさん入っているので、少しでも興味ある方はぜひ試し読みからお願いします。買ってくれたら五体投地で感謝を表現します◇
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