Stage2-5 ティーパーティーへの誘い
「この役立たずが!!」
パンと乾いた音が響き、表情を殺したまま先生を見やる。
「どうしてここに呼び出されたか、わかるかい?」
「……オウガ・ヴェレットの生徒会入りが遅れている件でしょうか」
「それもあるさねぇ。だが、今日それ以上の問題が発生した」
ガッと首を掴まれ、持ち上げられる。
ミシミシと締め付けられるが、息苦しくはない。
私の体はそういう風にこの人に
「ヴェレットのガキ……お前の体が特別製なことに感づいていたぞ」
「…………」
驚きはなかった。
彼と接触したあの日、私を見る目には疑いがこもっていた。
私と話すときは未だ一度たりとも緊張を解いた覚えもない。
「まさか……助けを訴えたわけじゃないだろうねぇ」
「していません。そもそも私は良い感情を抱かれていないでしょうから」
「……ちっ、表情一つも変えずに……気持ち悪い子だよ、全く。このまま私が処分するとは思わないのかい?」
思わない。
私を失えば先生は自身のスペアを失うことになる。
私以上の魔法の才能を持つ……いや、才能を植え付ける改造に耐えられる個体はない。
だから、ここまで捨てられることなく生きてこられたのだ。
そのことを先生も理解している。
そして、この人は怒っていても瞳に冷静さは失っていなかった。
「……ふん、出来の悪い弟子を持つと苦労する」
「大変申し訳ございません」
「心に思っていないことを口にするんじゃありません。……まぁ、いいでしょう。良い返事を待っていましたが、オウガ・ヴェレットは私が学院長として強制的に生徒会に入れさせます」
強制的とは言うものの先生は勝算があるから、そのような行為に出るのでしょう。
ヴェレット君は正義感の強い人間だ。
レベツェンカさんをアルニア王太子から救い出す際に協力した先生には借りがある状態。
多少の暴挙に出ても、帳消しという形で呑み込むはず。いや、呑み込むと確信していた。
むしろ、ここまでかたくなに断っているのはフローネ・ミルフォンティに貸しを作ったままの状態が嫌だったからとも考えられる。
魔法学院生徒会の称号が四大貴族でも欲しいものである事実はレベツェンカ家が証明しています。
ならば、彼も欲するはずだと予想した先生も間違いな選択ではない。
ただ相手が私たちの想像以上のやり手だった。
さすがはヴェレット君。
隠しきれない怪しい匂いを本能的に嗅ぎつけ、己の行動に組み込んでいる。
「彼が入れば自ずとマシロ・リーチェもついてくるでしょう。そうすれば二人を学院魔術対抗戦に連れて行くことができる……」
「……でしたら、私はレベツェンカさんを恋敵として利用してリーチェさんをたきつけようと思います。オウガ・ヴェレットはあの二人に甘い部分があるので」
「いいでしょう。必ず二人を生徒会へ。そして、我が学院の代表として会場となる彼の地へ連れてきなさい」
「承知いたしました」
「計画さえ成功すれば、この地位も意味をなさなくなる。ならば、使える内に権力は行使しないともったいないですからね」
低い笑い声が静かな室内に響き渡る。
先生はこの計画のために長年の歳月を積み重ねてきた。
己の欲望を叶える時が近づいてきているのだ。
今までにあまり見覚えのない感情の高ぶりも、それが原因だろう。
私は……特に何も感じることはない。
与えられた役目を、レイナ・ミルフォンティが生きる意味を果たすだけ。
「私は彼の任命状をしたためた後、先に現地入りします。……あとは指示したとおりに任務をこなしなさい。それくらいは役立たずのあなたにもできるでしょう」
「……必ず先生の願いのために」
「それでいい。そのためにあなたを拾ったのですから。……さぁ、職務に戻りなさい。昼休みも生徒会は忙しいでしょう」
先ほどまでまとっていた圧は消え去り、生徒たちの知る学院長としての顔を被って退室を促される。
もう一度、頭を下げて私は部屋を出た。
「…………【
廊下を歩きながら、先生に殴られた痕を治癒魔法で消す。
そうだ、首もだった。結構力を込められたから、手形が着いているかもしれない。
ただ壊せなかったのは先生の力の衰えでしょう。
誰だって年を重ねれば出せる力は限られていく。
たとえ数多の戦場を駆け抜け、敵将を討ち取ってきた【雷撃のフローネ】だったとしても。
「さて、言われたとおりに生徒会長として仕事を終わらせましょうか」
生徒会のメンバーは足りていないので自ずと私が抱える量は多くなる。
……また書類の山とにらめっこしなければなりませんね。
「――あ」
「あら」
――と、少し気分が落ち込んだ私が扉を開ける前に中から黒髪の少年が出てきた。
それが件のオウガ・ヴェレット君なのだから思わず体が動きを止めてしまうのも仕方ない。
まるで神様が私を慰めるかのような降ってわいてきた遭遇ですね。
「ちょうどよかった。生徒会長、探していたんだ」
「珍しいですね。私をですか?」
「一緒に昼食でもどうだ、とお誘いにな」
「どうしてでしょう?」
「生徒会長の腕は素晴らしいと耳に挟んだもので、ぜひ腕を披露してもらえないかと思ったからだ」
「……それはそれは」
予想外の言葉に軽口を返すことさえできなかった。
まさかこうもストレートに褒められるとは思わなかった。
思わず面食らい、二の句を発さない私の反応が芳しくないと勘違いしたヴェレット君は提案を続ける。
「対価として俺は満足できる食事を提供しよう。だから、一緒にどうだ?」
……おかしい。
彼の視線に今まであった敵対感情が薄まっている。
最初は私に接触して情報を抜き取ろうと画策しているのかと思いましたが……。
ただの善意である可能性が出てきてしまった。
……つまり、先ほどの誘い言葉も本心……なのでしょうか。
胸の内で様々な憶測と感情の小さな起伏が渦巻く。
……いや、私の優先度は低くて良い。
今までとっかかりのなかった相手が自ら歩み寄ってきたのだ。
この機会を逃す手はないでしょう。
「そういうことでしたら、ぜひ」
いつもと変わらぬ笑みを貼り付けて、返事をするのであった。
◇アンケート締め切りました!ご協力ありがとうございました!
『おっぱいアイマスク』短編SSに選ばれたキャラはカレン・レベツェンカです!
執筆に取りかかりますので、しばらくお待ちくださいませ ◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます