Stage1-20 様子のおかしい彼女との付き合い方

「やぁ、オウガ。おはよう、奇遇だね」

「……」


「おや? オウガたちも図書館を利用しに来たのかい? 実は私もなんだ」

「…………」


「あっ、オウガ。実は、その……お昼……いや、なんでもない! 気にしないでくれ!」

「………………」

「なんでもないんだー!!」




 声をかけて来るや否や、ダッシュで去っていくカレン。


 というのが、さきほどあった出来事である。


「……なんだったんだ、あいつ?」


 カレンと久方ぶりの会話を交わしてから数日。


 今まで学園内で顔を合わさなかったのが嘘みたいな頻度で彼女と遭遇する。


「ふふっ。完璧なオウガ様にもまだ勉強すべきことが残っていらしたみたいですね」


 温かいお茶を淹れるアリスは微笑みながら、そう言った。


 俺のコミュニケーション能力に問題があると……?


「可愛いじゃないですか、大型犬みたいで」


 マシロにはカレンに尻尾が付いているように見えたらしい。


 どうやら女性陣はカレンの行動にあてがあるらしい。


 俺が主なのに疎外感があって、少し悲しかった。


「今度はオウガくんから誘ってあげたらいいんじゃないかな?」


「俺から? どうして?」


「うーん、アリスさんの作ってくれたご飯美味しい~。これなんて言うんですか?」


「ハンバーガーです。オウガ様が考案されたレシピをもとに作られているんですよ」


「オウガくんって料理もできるんだ。すごいねっ」


 いや、話を聞いてくれよ。


 だが、マシロが美味しく頬張るハンバーグの栄養が胸へ行き、さらに成長させるならまぁいいか……。


 それに俺はいっぱい食べる子が好きだ。


 一緒に食事をしていた楽しい気分になるからな。


「そもそも俺からあいつを誘うのはさすがにルール違反だろ」


「ルール違反? 何の?」


「なんだ、知らないのか。カレンはアルニア王太子の婚約者だ」


「王太子様の!?」


 王太子の婚約者は代々、四大公爵家の中から選ばれる。


 他にも公爵家の娘はいるが、最も早く生まれたのがカレンで王太子とも同世代。


 いちばん古参のレベツェンカ公爵家の一人娘ということもあって、異論なくすぐに決まったらしい。


 カレンを『男』として教育させているのに、『女』として政治の道具に利用する。


 これだけであいつのクソ親父がどれくらい毒親なのか理解できるだろう。


 カレンの最大の不幸はあの家に生まれてしまったことだな。


 まぁ、だからといって俺から何かするわけでもないんだが。


「えぇっと……それじゃあ、今の状況は王太子様にとって不味いんじゃ……」


 なぜか不安気にキョロキョロと周囲を見回すマシロ。


「なにを心配しているのかは知らんが、あの軟派王太子なら問題ないと思うぞ」


「え? 軟派王太子……?」


「あいつはカレンに全く興味がないからな。ほら、あそこ」


 アリスの料理をつまみながら後ろを指さす。


 そこには上級生の女生徒に囲まれている噂のアルニア王太子がいた。


「アルニア様。あ~ん」


「ん~、美味しいよ。やはりキミが作ってくれた料理が世界でいちばんだね」


「そんな……とても嬉しいですわ」


「殿下! 次は私! 私のを食べてください!」


「そんなに慌てなくても俺はいなくならないよ。あっはっはっ!」


 なんとも楽し気な食事風景だ。


 王太子は入学時からよくカレン以外の女を侍らせて青春を謳歌しているらしい。


 最初こそカレンに遠慮していた他生徒だったが、最近はお構いなし。


 件の本人は王太子の行動に対して触れずの態度を貫いているが、彼女の取り巻きたちは気が気でない様子。


 ちなみに、全てアリスが調べてくれた情報である。


 ……ん、待てよ。そうか、そういうことか……!


「クックック、カレンめ……俺を利用するとはな……」


「利用……? 何か思い当たる節があるのですか、オウガ様?」


「最近、あいつが声をかけてくるのはてっきり生徒会勧誘のためだと思っていた。だが、もう一つ理由があったんだよ」


 アリスはずっと武芸に心血を注いできたせいで女心を全くわかっていない。


 仕方ないな。部下を成長させるのも上司の役目だ。


 俺が説明してやろうじゃないか。


「カレンは王太子に嫉妬してもらいたいんだ。だから、他の男でかつ顔見知りの俺に積極的に声をかけている」


「…………」


「公爵家の俺との会話なら言い訳もしやすいからなぁ? まさかこの俺を当て馬に使うとは……ずいぶんと成長したじゃないか、あいつめ」


「……アリスさん、おかわりくださいっ」


「はい、かしこまりました」


 しかし、このままやられっぱなしというのも癪だな。


 ……そうだ! あいつの作戦に乗っかってやるというのも一興かもしれない。


 カレンは俺が自身に惚れないと考えているはず。


 だが、俺が本気でカレンを好きになった演技をしたらあいつは困るに違いない。


 なにせ悪評たっぷりの俺と仲良くなりすぎると自身の評価まで下がってしまうからな。


 生徒会に所属し、正義感の強いレベツェンカ公爵家の娘にとってこれほど苦痛なことはないだろう。


 やはり天才か……これなら一泡吹かせられそうだ。


 カレンに対する今後の方針が定まった。


「そうだ、ボクからも質問なんだけど」


 そう言って、マシロは王太子たちへ視線を送る。


「オウガくんもああいうのされてみたい?」


「おいおい、あまり俺を舐めてもらっては困る。これでも公爵家の長男だ。公衆の面前であんな真似――」


「してあげよっかと思ったんだけどな」


「――されたい」


「はい、あ~んっ」


 美味い!!


 美少女に食べさせてもらっているから倍以上おいしい。


「も~、かぶりつくからソースついちゃってるよ」


 マシロがこちらに手を伸ばし、指で口端に付いたソースをぬぐってくれる。


「すまん。今ハンカチを」


「――ちなみになんだけど」


 ゾクリと背筋に冷たいものが走る。


「オウガくんは無意味にハーレム作ったりあんなことしないよね?」


 な、なんだ……!?


 マシロからとてつもなく強烈な圧を感じる。


 いつもはゆるふわマイナスイオンな彼女なのに……!?


「あ、ああ、もちろんだ。俺は誠実に向き合う」


 ハーレムを作っても一人一人にちゃんと誠実に付き合うとも。


 金目当てに寄ってくる女を囲ってもろくな目に遭わないからな。


「そっか。それならいいんだ」


 どうやら納得したらしい。


 身を乗り出していたマシロは引いて、いつもの雰囲気に戻っていた。


「さっ、お昼ご飯食べちゃお。お昼休み終わっちゃう」


「そ、そうだな……」


 この後のハンバーガーの味はあまり覚えていない。











◇アストンマーチ〇ンを見たので、マシロはオフの時は眼鏡かけるし、童貞を殺す服を私服に決めた。

 あとハッピーエンド厨だから、その辺は安心してください◇

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