Stage1-18 ミッション・コンプリート

 クックック、随分と感動的なシーンじゃねぇか。


 ……いや、内心すごいドキドキさせられたぜ。


 素晴らしいタイミングでやってきたこいつらを褒めないといけない。


 ついでに、すぐさま脳内でシチュエーションをまとめあげた俺の頭脳も。


 実は俺はガキたちから事前に話を持ち掛けられていた。


 子供ながらに心配したのだろう。


 まさか自ら志願して身を売ってくれるなんてなぁ。こんなに俺にとって好都合な話はない。


 もちろん二つ返事で要求を呑んでやったさ。


 それでミオも自分の愛を自覚できた。あいつらもだ~いすきなミオと一緒に居られる。


 俺は言うことを聞く労働力を手に入れられる。


 誰も不幸にならない、とても幸せなエンディングじゃねぇか。


『今』は、の話だがな。


「おいおい、いつまで泣いてんだ? さっさと荷物をまとめろ」


 ある程度、泣き止んだところで地獄の始まりの一声を浴びさせる。


 全員がきょとんとこちらを見上げていた。


「ヴェレット様……? それはいったいどういう……?」


「決まってるだろ。お前らには俺の故郷であるヴェレット領に移住してもらう」


「ヴェ、ヴェレット領にですか!?」


「ああ、住まいはこっちで用意する。お前らは荷物だけ持ってこい」


 口約束なんて俺は信じねぇ。


 だから、ヴェレット領に移住させて逃げられないようにするのさ。


「それと教育係もつけるからこれからは遊びじゃなくて毎日勉強してもらうぜ。知識が無い奴が結果を出せるわけがねぇからな」


「…………」


 俺の恐ろしい宣言に開いた口が塞がらないようだ。


 遊び盛りのこいつらにとって自由の時間を奪われて、俺の下で働くために無理やり勉強させられるなんて苦痛でしかないもんなぁ?


 しかし、すでに決定事項だ。


 遊んでいるときにこいつらがまともな教育を受けられていないのはわかっていた。


 このままじゃあ戦力にならねぇ。


 だったら、こき使えるようにするまでよ。


 ちなみに、逃げ出そうとしたらこの教育係が俺に報告する流れにするつもりだ。


 もうミオたちは完全に俺の手中というわけだ。


「アリス、俺は何か変なこと言ったかぁ? 当然の要求だよなぁ!?」


「はい、素晴らしき判断かと思います」


 クックック、どうやらアリスも今回は逆らうつもりはないようだ。


 俺は今回、アリスのお願いを聞く形でミオたちを助けてやった。


 つまり、実質アリスにも貸し一つとなる。


 ここまで予想通りパーフェクトだぜ。


「一週間後には迎えの馬車がやってくる。ちゃんと来いよ」


「お、お待ちください、ヴェレット様!」


「あぁ? なんだ?」


「私は……私はこれから何をすればいいのでしょうか?」


 いや、ガキたちと一緒に来て世話係をしてればいいんだが……でも、そうだな。


 ここはひとつ。生前、クソ上司がよく言っていたセリフを拝借するとしよう。


「自分で考えろ」


「自分で……ですか?」


「そうだ。俺のために何をなすべきか考えるんだ」


「ヴェレット様のために……私ができること……」


 さて、反論なんてないと思うが、されたら相手をするのも面倒だ。


「俺は明日から授業があるんでな。帰るぞ、アリス、マシロ」


 俺は伝えたいことを言い切って、孤児院を出る。


 最後に何か後ろでミオがブツブツと言っていたが聞こえないふりをした。


 今ごろ俺に頼んだことを後悔しても後の祭り。


 結局、悪を倒すのはさらに大きな悪なのさ。


「この後はどうするの、オウガくん? 迎えの馬車が来るまでもう少し時間あるよね」


「放置してるあいつを躾ける。やってもらうことがたんまりあるからな」


「躾けるって……どうやって?」


「そんなの決まってるだろ」


 パシンと自分の掌をグーで殴る。


暴力こいつでさ」




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「兄貴! 俺を兄貴の下で働かせてください!」


「「「…………」」」


 二人と顔を見合わせる。


 酒場に戻るとアリバンはすでに意識を取り戻していた。


 そして、第一声がこれである。


「どういう魂胆だ?」


「ち、違います! 俺は兄貴の力に惚れたんです!」


「……ほう?」


「戦って理解したんです……兄貴こそ人々の上に立つのがふさわしい人だって!」


「なるほどなるほど」


 なかなかわかってるじゃないか、こいつ。


 そう、俺こそ悪徳領主として平民を支配して楽な生活を送る上流階級に相応しい男。


「なら、お前は俺の命令通りに動くわけだな?」


「もちろんです! 自分の命は兄貴に捧げます! 奴隷にしてくれても構いません!」


 どうも様子を見るに、本当に俺に心酔してそうだ。


 これなら教育する必要はないか。


 一応、嘘をついていないかアリスに視線で確認を取るが、彼女も同意見だった。


「そうかそうか。よぉし、アリバン。なら、さっそくお前に仕事をやろう」


「はい! ありがとうございます!」


「アリバン、お前は――各地の悪ガキどもをしつけてこい」


「……えっ?」


 それから俺はアリバンに振るつもりだった仕事内容を語る。


 要約すれば、こいつには治安の悪い地区を回って悪党たちをボコって俺のもとに集めてもらう。


 悪さをしている奴らが急に消えても悲しいかな誰も不思議に思わない。


 そして、俺は集めた奴らで地下闘技場を再開するつもりだった。


 これで俺が胴元になり、がっぽがっぽ儲ける作戦が実行できる。


 選手が自前となれば八百長し放題!


 場所も壊してはいないので新たに投資する必要性もほとんどない。


 当然アリスには内緒なので、地下闘技場については濁すけど。


 今度、二人きりの機会を作って話そう。


 その時に【肉体強化ドーピングエキス】の出自についても聞こうか。


「わかりました。つまり、今回の兄貴と同じ悪党退治ことをすればいいわけですね?」


「そうだ。俺の真似をしてくれたらいい」


「兄貴から託された役目……必ずや果たしてみせます」


 うんうん、やる気があるのはいいことだ。


 これでひとまずやるべきことは全て終わらせた。


「あっ、一週間後までお前はそのままな」


「えっ」


 ミオたちの引っ越しが完了するまでは当然の処置である。


 だから、そんな寂しそうな顔するのはやめろ。


 こうしてすべてのミッションを完了させた俺はイニベントを後にするのであった。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 オウガは知らない。


「俺の名はアリバン! オウガ・ヴェレット様の命により、この街にやってきた。さぁ、お前らを困らせる奴らの場所を教えてくれ。俺が退治してくれる」


 各地の悪党をアリバンがまとめあげることで治安が良くなり、また彼がオウガ・ヴェレット様の部下として自慢することで平民たちの間で自分の評価がうなぎのぼりになる未来ことを。




 オウガは知らない。


「さぁ、みなさん。今日も祈りを捧げましょう。私たちに正しき【救裁きゅうさい】をもたらしてくださる【救世主】様――オウガ・ヴェレット様に感謝を」


「「「はい、シスター・ミオ」」」


 何をなすべきか己で考えた結果、オウガに心酔したミオが尊さを説くために子供たちと共に王我教――彼こそ王に相応しいという意味を持つ冠――を興す未来ことを。


 そして、ヴェレット領。ひいては平民たちの間で流行する未来ことを。




「クックック! 一仕事終えた後は気持ちいいなぁ、アリス! マシロ!」


「大変素晴らしき働きでした、オウガ様」


「ほんと! やっぱりオウガくんはすごいね。ボクも見習って、もっと頑張るよ」




 馬車で高笑いしている彼はまだ知らない。

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