Stage1-2 激重感情女騎士の忠誠
「それではオウガ様。準備をしてきますので少々お待ちいただけますか」
「必要なものは全てこちらで揃える。気にしなくていい」
「いいえ、私の実力を知ってもらうためにも、待っていただければと」
なるほど。確かに扱う武器の練度で実力が図れるという話を聞いたことがある。
クリスも武器を俺のもとへと持ってきて、それを試すのかもしれない。
正直、武器の良し悪しはあまりわからないが彼女ほどの実力者が扱う代物だ。
いい剣ばかりに決まっている。
「わかった。だが、長居するつもりはない。手短に済ませてくれ」
「承知いたしました」
そう言って、彼女は部屋を出ていく。
足音が聞こえなくなったのを確認すると、大きく背もたれに倒れこんだ。
「……ふっ。ふははっ」
すべてうまくいった!
これで彼女は俺の一生の僕となる。
正義? 存分に発揮して見せたらいいさ。
だが、味方と信じていた隣にいる男が最大の悪とわかった時、クリスはどんな顔をするのだろうか。
想像するだけで……ククッ、愉悦だ。
クリスを引き抜く理由はそれだけじゃない。この賭けが行われている闘技場はまだまだ成長する。
その胴元になれば利益も莫大な金額になるだろう。
現ナンバーワンで八百長にうるさい彼女がいなくなれば支配人もやりやすくなるだろう。
その将来的な契約も含めて、支配人と話をつけてクリスの値段を交渉すれば終わり。
あぁ、やはり天才……!
女神が悪の大王になれと後押ししてるに違いないな、これは!
隠しきれない高笑いを堪えて、クリスが戻ってくるのを待つ。
待つ。待つ。……待つ。
「……えらく時間がかかっているな?」
迷っているのか?
ぶっちゃけ彼女を雇うのは決定事項なので、どんな武器でも問題ないんだが……まぁ、いい。
こちらから迎えに行くとしよう。
今の俺は気分がいいからな。
そう思って扉の取っ手に手をかけると、ガチャリと反対側の扉が開いた。
「お待たせしました、オウガ様。……待たせすぎてしまいましたでしょうか?」
「いや、そんなことはない。それよりも確かめさせてもらおうか、クリスの実力を」
「かしこまりました。では、ついてきてください」
なんだ。手ぶらだと思ったら持ってこなかったのか。
それだけ大きな武器なのかもしれないな。大きさはわかりやすく力を示せて都合いいし。
俺はクリスの後に続く。彼女が立ち止まったのは、今ごろ試合で盛り上がっているであろう試合場の前だった。
「……ここなのか?」
「ええ。粛清が終わりましたので、ぜひご覧ください」
……粛清?
俺が疑問を口にする前にクリスが扉を開けた。
視界に飛び込んできたのは、積み上がった死体の数々。選手だけにとどまらず、観客も山に加わっている。
そのてっぺんには先ほどまで俺と談笑していた支配人の姿もあった。
……あれ!? もしかして全員死んでる!?
「ク、クリス。これは……?」
「はい。さっそく私の正義と実力を見ていただきたく思いまして実行いたしました」
行動力……!!
いたしました、じゃねぇよ!?
俺はこいつらを利用して甘い汁をすすりたかったの!
全滅なんかさせたら意味ないじゃん……。
そのくせなんだ、褒めてくださいと言わんばかりの期待がこもった眼差しは。
「……クリス」
「はい!」
……本当は褒めたくない。褒めたくないが……。
「よくやってくれた」
「……っ! ありがとうございます!」
満開の笑顔を咲かせるクリス。イメージと違って表情がコロコロ変わるが、わかりやすいのでまぁいい。
今回の件と彼女がこれから俺にもたらすメリットを天秤にかければ圧倒的に後者が勝つ。
なんか無条件で俺を信頼してくれそうだし、嘘情報握らせれば俺に敵対する組織なんかを簡単につぶしてくれそうだ。
俺は天才なんだ。きっとうまく彼女を扱えるさ。
「いいか、クリス。俺は現状で満足していない。もっと大きいところを狙っていく」
そうだ。こんなすたれた街の小さな地下闘技場くらい惜しくない。
もっと大きな規模の……それこそ奴隷市場なんかいいかもな。
とにかく一闘技場ごときで一喜一憂しないほどの力をつける、
「そのために君を手に入れた。言いたいことはわかるな?」
「もちろんでございます」
クリスは汚れを一切気にせず、床に片膝をついて頭を垂れる。
「私の力はオウガ様のもの。私の成果もオウガ様のものでございます」
そう言って、誓いを立てるクリス。
わかっているならいいんだ。
ちゃんと俺の栄光のために働いてくれよ。
「では、帰ろうか。君を父上にも紹介したい。他にも色々と手続きがあるからな」
クリスは表向き罪人となっているので、そのままの名前で雇うことはできない。
ヴェレット家の評判に傷がつく。
だが、その辺りの工作は俺たちにとっては十八番だ。
彼女の新しい戸籍など簡単に偽装できる。
「クリス。なにか新しい名前に希望はあるかい?」
薄汚い道を歩きながら、一歩後ろを歩く彼女に問う。
「オウガ様が授けてくださるならば、なんでも構いません」
そういうのが全国のお母さまを怒らせるんだぞ、クリスくん。
俺にもネーミングセンスはないので困るのだが……。
「なら、慣習に従ってこうしよう。父上は自分の子に男なら『ガ』。女なら『ア』を付ける。そして、君の名前をもじって、アリス。うん、アリスでどうだろう?」
金色の髪にもピッタリだ。なかなかいいのではないだろうか。
ちょっとドヤりながら、アリスの反応を伺う。
「……あ、ありがとうございます……!」
泣いてる……!? すごい顔を涙でくしゃくしゃにして泣いている……!?
なにか変なこと言ったか!?
別に『アリス』はこの世界で笑われる名前でもないし……。
グスリと泣き出すアリスに慌てながらも、とりあえずハンカチを渡す。
数秒顔をうずめ、涙をぬぐうと、すでに麗人と呼ばれるアリスに戻っていた。
「オウガ様。それでは、改めて誓いを」
アリスは数分前と同じ姿勢を取り、新たに授けた名前にて誓いをささげる。
「私――アリスの全てをオウガ様に捧げます」
「ああ、よろしく頼む。我が剣よ」
「っ……! はい……!」
こうして俺は当初の目的通り、アリスを手駒に加えることに成功したのであった。
◇クリス→アリスになります。
激重感情天才女騎士(二十歳)が仲間になりました。◇
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