第14話十二魔将討伐
神殿
何やら手続きがあるというので、懲りずに呼び出されて、午前中は聖女としての役目を神殿で果たした。
王とは別室で書類を書かされ、二人共人間語の文字が読め無いのを良い事に、三年間外出不許可のガイジン部隊?への入隊宣誓をさせられた。
別に酔っている時に友人に無理やり書かされた訳でもなく、航空関連の学校を卒業寸前に友人と思っていた奴に裏切られて、中東の王子が経営している空の外人部隊に放り込まれた訳では無いが、陥れられて書類にサインさせられた。
「フハハハハッ、これで両名ともワシの奴隷、もう神殿から出ることは叶わぬ。この解約には百万ドルの違約金…… ゲフウッ!」
神殿の大僧正かなんかは、後ろからドタマをカチ割られて死んだ。
「キャアアアアアアッ!」
「ああっ、大僧正様の頭がああっ!」
王都の神殿でやりたい放題やってきた大僧正は、ここでも好き放題暴れようとして、騙して陥れて平民など自由に操作できるのだと思い込んでいたので潰えた。
エリア88にでも売られたと思われる二人は、囲まれていた奴らを全部実力で排除して来て、救援に駆け付けた王に救われた。
侍大将と忍者なので、例え薬を盛られても特に救援は必要ない。
「帰ろうか、ルリナちゃん『野に咲く花ちゃん』」
「はい」
『はい』
「大人に大声で命令されたからって、何でもサインしちゃだめだよ」
「はい」
今回も魔法契約を勝手に施されたので、ギアスを解除して羊皮紙を燃やしてやると術者の方が死んだ。
大僧正とやらの魂と死体は悪魔が回収に来たが、王を見てオーラ力(ちから)が「シュパアアアッ!」となっているのを目撃してしまい、膝から崩れ落ちて『殺さないで、殺さないで』を繰り返して、いつものように左耳の討伐証明と、身代わりの魔石を置いて逃げた。
今回ほんの十名ほどの死者を出しただけで、事変と言うか軽い事件は終息した。
従者の嫁二人は、王に救われるのを望んで訳がワカラン書類にサインしたが、予想通り救われて「愛されてるぅ」的な感じで喜ぶ魔女だったりもする。
周囲にいたのは死ぬことを何とも思っていない信者達だったが、責任者の大僧正が床にめり込むまで潰されたので、同室内の者は洗脳でも解けたのか、包囲を解いて王の自由にさせた。
「次は神殿ごと吹き飛ばすよ」
番屋に「恐れながら」と申し出る者もいたが、情報部や騎士団の方が恐れ入っていて、魔族の駐屯地ごと消滅させられる相手に反抗しようとは思わなかった。
また因縁を付けてタイホすると、都市が消滅するぐらいの敵がやって来る。
牙を打ち鳴らしてカチカチコチコチ何言ってるのか分からない言語で喋る、巨大蟻の集団が『王は何処か?』とか鳴いて、都市全員を地下の地獄の底に連れ去る。
「大聖女様に置かれましては、奥の院におこもり遊ばされて、穢れた下界とは隔絶した生活を送って頂きます(確定系)」
「小さな森、小川が流れ小鳥が飛び交う清らかな場所に入って頂き、もう穢れた下界との連絡など断って下さいませ。もうご家族の所へ帰ることなど有り得ません、この神殿の中にいる者、それだけが天での家族となります」
神殿から出ようとすると、また目の焦点が合ってない、瞳孔開き切った様な目付きがおかしい修道女の集団に囲まれたが、気にせず退場した。
五人か十人ほど、袖や足に縋り付かれたが、それでも退場した。
「ウン、屋台で食べる安物の串焼きは美味しいなあ」
まだ頑張ってルリナの足元に縋りついている修道女もいたが、気にせず屋台の串焼きなどを頬ばる。
若いので脂身タップリでゴテゴテの串焼きでも平気。神殿では推奨されない生臭物でも、油分は下に落ちて炭で焼けたり、屋台の薪で燃えるので平気。
ルリナも一月ぐらい前までは、銅貨で支払う様な屋台の食べ物は食べられなかったけど大丈夫。
もっと高級品を食べる日常だったので、目から汁が出て来てしまい、前が見えなくなることは無かったので平気。
エルフょぅじょの方は、里でエコでロハスでビーガンな生活をしてきたが、長老から許しを得ているので、油でコテコテの串焼きでも食べられる。
神殿の方では、王都から来た大僧正が撲殺され、王都神殿内では好き勝手暴れていた奴が処理されたけど平気。
清教徒派やら改革派が大手を振って歩けるようになっていて、今まで弾圧されていたのが嘘のようだった。
「早めに終わったから、午後はレベル上げにでも行こうか?」
術者と大僧正の命が、早めに終了させられた、とも言う。
「はい」
王のレベル上げなので、レベルと言うか職業が変わる。
三次職の侍大将の上は無い。有るとすれば邪神騎士とか天使貴族とか、天命を受けている者にしかなれない職業。
でも王の嫁なので成れてしまう。
邪神騎士が出現すると、魔国やダークエルフの邪神信仰が勝ち、普通の王や国家が終了して、邪神騎士に王が膝を屈しないと、地平線を埋め尽くすような悪魔の軍団に包囲されて死ぬ。
城砦外
外に出ると、魔の森の入り口で、魔族の騎士か侍が立っていた。
誰も護衛を付けずに、ただ一人で立っていた。
『私は十二魔将が一人、サミル・バリクエイロと申す者。先日の駐屯地消滅事変には恐れ入った。盗賊団も潰され、オーガの集団やホモゴブリンすら解散させられた。我らには最早打つ手は無く、一対一の決闘を望む、お受けして頂きたい』
『はあ……』
色々な行動や工作のセキニンを取らされたらしく、駐屯地一個失って、司令官の将軍達まで捕虜にされて連行。
生身の奴らは大半、巨大蟻の巣に連れて行かれて抱卵器の刑。
残りは「素材」として、鉄でもミスリルでも強力な魔獣でも魔石でも、討伐証明などにされギルドで売られた。
魔の森にいる部族全員に声を掛けた所で、もう魔族のために動いてくれる奴なんかいない。
王が来ているので、全員逆らったりしない。
無知蒙昧な魔物やクマなどが扱える程度で、例えテイムしても王を見たらギャン泣きして従ってくれない。
魔族が爆破したので巨大蟻の巣も従わない。飼われている巨大マンティスやスパイダー、テナント入居している巨大ネズミに巨大イタチに巨大ミーアキャットも魔族の言う事は聞かない。
『如何に……?』
圧倒的な戦力差により、十二魔将の一人が首を差し出して来た。
一対一の対決と言っているが、文官程度なので王に敵うはずも無く、決闘でもして首級を上げられたなら、家族や名誉は救うという意味。
今までの功績から、斬首や絞首刑は受けなかったが、物理的に首が飛ぶ前に王に討たれて来い、と言う意味。
巨大アイアンゴーレムや屋外用大型ストーンゴーレムなどの、決戦兵器を多数失い、一般兵一万人近く、従魔師やゴーレムマスター、全部蟻の巣に連れ去られるまで大敗したような将軍は、国内で生きて行く手段がない。
家族を失った母親や、祖母や孫が泣き叫んで、城門前でダイイングして馬車も馬も何も通さない。
踏み殺したら踏み殺したで評判や悪評が起こり、例え魔王でも魔国民衆が蜂起して生かして置かない。
事故で沈んだ潜水艦クルクスに乗っていた息子を返して、などとカメラの前で叫ぶと、政治局員が首からプスっと注射して、殺すか鎮静剤?で即グタアッと眠らせる。
進退窮まった十二魔将の一人が、影腹切って?から王の前に姿を現した。
『それでは、一対一の決闘、と言う事で』
『お受けくださるか』
『ええ』
まあ、十二魔将の一人が死んだ。王に決闘を申し込んでしまい、それ以降は生きていられない。
冒険者ギルドからは何も言われていないが、一人減った。
『では、叶わぬまでも参る』
後日吉日とか言わず、即座に対戦。
もう帰る家も家族も家系も、何もかも失ったと思われる相手。生きていると親族から「名誉殺人」で始末される。
人臣位階を極めたが、あちら側も伏魔殿の悪魔が巣くっているようで、簡単に足を引っ張られて失脚させられる世界。
王も軟鉄の剣を抜いてやり、弱体化してから対戦。
本気でブレスとか素手でパンチを入れると、ほぼ反則行為なので封印。
十二魔将はギャグキャラではないが、ワンパン入れられると爆散するか星になって、近傍天体にされてしまう。
『はああああっ!』
睨み合っていても決着はつかないので、十二魔将の方が動いた。
「ふんっ!」
魔剣で斬りかかったが、上半身ごと消滅させられ、硬度があった魔剣だけ百メートルほどふっ飛ばされて残り、残りの下半身もアイテムボックスに入れられて「素材」として葬られた。
『お見事な最期でした』
エルフょぅじょから弔いの挨拶が出たが、一瞬で切り捨てられてしまい、何の抵抗もできないまま哀れな姿になった。
十二魔将と言えど特に実力は必要なく、指揮能力や責任能力、資産や権利を多く持っていることが要求される職業で、剣技とか魔法力で選ばれたりはしない。
一族が多くの権益を持っているとか、鉱山の権利を持っているとか、その系統が要求されて、大学に奨学金で行った何の後ろ盾も無い、一代だけのスーパーエリートが選ばれたりしない。
家族一族が権利や兵権を多数持っていて、結集できる兵力の多さで決まる。
今回駐屯地ごと消えたので、大幅に兵力を失った一族は失脚する。
領地や権益を失うと、近隣に滅ぼされたり一族ごと滅ぶこともあるが、次世代の者が一族の力を結集させられればどうにかなる。
普通は群雄割拠して我が我が我こそがと立ち上がり、殺し合って決めるので内戦になる。
十二魔将を倒した、経験値が1253000入った。金貨300枚が手に入った。ルリナと『野に咲く花』はレベルが上がった。レベルが上がった、レベルが上がった……
護衛はいなかったが監視はいた。咽び泣きしている者や十二魔将の死を悼む者がいて、終焉の場所に花を手向ける者もいた。
「次行こうか。ルリナちゃん、落ちてる魔剣あげるよ」
「はぁ……」
特に必要無かったが、大刀の予備に持っておく。宝剣で魔剣なので攻撃力は高いし、魔法でエンチャントまで入っていて、まず売っていない。
王の軟鉄の剣が少々曲がったが、竜の強力で「クイッ」と曲げ直して再使用。
刃筋が通っていない素人が振ると、例え名刀虎鉄でもひん曲がる。
三島由紀夫が自決する時でも、引き切りが分かってない者が介錯しても、首に刀を叩きつける形になり曲がるだけ。
公儀介錯人とか朝太郎さんとか、刀で首の皮一枚残して切り落とせるのは、相当な使い手。
自決するのに腸の中や口の中に綿を含むが、間違って伝わったのか、本当にあったのか「三島由紀夫の遺体の腸には、男性の精液が入っていた」と伝わると、水木しげる先生が「それは気持ちいい事なのですかあああっっ!」と発狂したそうだが、美輪明宏が「三島由紀夫にキスされてペロペロ舐められて気持ち悪かった」と言っていたので、受けか攻めかは分からないが、ジャニさんや平〇堅と同じガチホモバリウケだったかも知れない。
『野に咲く花ちゃんには大きすぎるから、短剣の方を上げるよ』
『はい、ありがとうございます』
エルフょぅじょの方には、グラディウス的な短剣や、護身用や最後に自決するために持っていた短剣が与えられ、十二魔将討伐の証明とした。
攻撃力が3000上がった。防御力も1500上がった。
伝説レベルの司教装備から、魔族の駐屯地で接収した高レベルの忍者装備を頂いていたが、さらに高レベルな物に持ち替え。
以降、王はFランク冒険者として薬草採取などして、レベル上げもしてから帰った。
冒険者ギルド
日が暮れて城門が閉まる前に帰城した一同。
「すいませ~ん、十二魔将一人倒してきました~」
「エ?」
情報部の受付嬢でもやっぱりイミワカンナイ。
十二魔将とか普通倒される存在じゃないし、駐屯地数個とか師団クラスを破壊してこないと倒せない。
「はあ、何でも盗賊団とかオーガとかホモゴブリン、全部魔族の仕業だったそうで、「最早打つ手がない」とか言って、魔の森の入り口辺りに一人だけ立ってたんで、決闘申し込まれたんで倒しました」
それなら前の領主とか貴族、魔族と通じているので、また取り調べを厳しくしなければならない。
「よ、宜しければ討伐証明などありましたら……」
情報部の受付嬢でも半信半疑だが、王なら有り得る事なので、確認できれば人類初めての壮挙。
魔族には負け続きで、次の侵攻で城砦ごと落とされて、戦線が大幅に後退する所だったが、何故か勝った。
人類は一人しか関わっていないが、それでも柏葉剣付十字勲章ぐらい出る。
ハンスウルリッヒルーデル神みたいに、十二使徒を現わす勲章が出てもおかしくないし、ロシア人民の敵として20億ルーブルぐらいの懸賞金が掛かっていてもおかしくない。
「ルリナちゃん、魔剣見せて上げて」
「はい」
ルリナのアイテムボックスから、無造作に十二魔将が所有していた魔剣が置かれた。
「ヒュッ!」
ちょっとビックリし過ぎて呼吸とか心拍が停止したが、鞘にまで凄まじい装飾が成されていて、魔法のエンチャントとか人類にはオーバーテクノロジーで、買取金額未定。
鑑定機に掛けても、平気で「神話級」と出る。
「少々、お待ちください……」
ギルドの鑑定機に掛けると、即座に神話級の物を置いた時のファンファーレが鳴り響き、所有者が「十二魔将、サミル・バリクエイロ」と表示されてしまい、流石の受付嬢でも膝から崩れ落ちて、顔を覆って号泣し始めた。
「人類が…… 魔族に始めて勝った…… うわああああああっ! ああああああっ!」
まるでエレン君が巨人化して、壊された門に大石でも置いたように、メガネキャラのリコタソが作戦成功の緑色の煙玉でも発射したように、次第にギルドの中で歓声が響いて行った。
「ま、魔族に勝った? 十二魔将を倒したっ?」
「王が、十二魔将を?」
吹き矢持ってた、王家の暗部の者ですら膝を着いて号泣。
そんな中でも空気読まないのが一人、
「え~と、薬草も収集して来たんですけど?」
ついに果たされた十二魔将討伐と、Fランクの薬草採集が同レベルの王。
報奨金も桁違いなのだが、Fランク薬草採集と同格。
労力的には大して変わらない。あえて言うと薬草探す方が大変。
「うおおおおおおおっ! ついにやりやがった~~~っ!」
「勝ったっ! 魔族に勝ったんだっ!」
今まで魔族の派遣軍の小規模集団に勝ったことはあっても、本気の侵攻軍に勝てた例(ためし)は無い。
順調に魔族に負けて行って、支配されて魔国の一部に収まって行くのが普通。
魔族が世界を支配し終わってからが国家運営。
魔法が使える貴族階級の支配世界が終わり、その上位に魔族が入って、下が人類の貴族、さらに下の平民が入れられ、最下級として扱われる。
でも竜と巨人だけは別格で、魔法攻撃が一切通じないので、魔族の支配を超えることもある。
こんな時は絵物語でこう言うと学習していた王は、セリフ通り言った。
「今日は俺の奢りだっ!」
「「「「「「「「「「おおおおおおおおっ!」」」」」」」」」」
ルリナとエルフょぅじょは飲まないので喜ばなかったが、ギルドにいた冒険者とか情報部の連中、騎士団とか王家の暗部の者まで飲んで騒いだ。
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