第28話 『一蓮托生~蓮華の下で結ばれて~』の裏話 その1 芝原葵の話

 カクヨムコン9で追加加筆した『一蓮托生いちれんたくしょう蓮華れんげの下で結ばれて~』の裏話を今回から不定期に語っていく。今回は追加キャラの芝原しばはらあおいについて語ろう。本編のネタバレがあることをご了承いただきたい。

 『一蓮托生』を加筆するにあたり、華になりそうな若い女性キャラが欲しいと思い、銘仙めいせんやセーラー服が似合うキャラクターとしてピックアップしたのが葵だ。名前自体は高橋たかはし海桐かいどうの妻として家系図に載っていたが、設定に関しては一から作成することとなった。

 葵は海桐と同学年という設定のため、年上のかつらと絡ませるために姉のあずさを設定することにした。最初は「あかね」という名前にするつもりだったが、他の作品で既に使われてるのに気づき変更した。

 気の強い葵との対比のため、梓は同性から見ても憧れるようなしとやかな女性にし、先に退学して結婚したことでかつらと疎遠になったことにした。

 梓の形見の懐中時計は、没落した芝原家にとっては数少ない金品で、葵にとっては心の支えにもなっている。かつらが兄の布団を質屋に持ち込むエピソードと絡める予定で登場させた。

 芝原家が蔵前くらまえにあるというのは両国りょうごくうまや橋の中間にあるという立地と、江戸時代の札差ふださし時代から金持ちが多かったという土地だという事情を考慮した。札差もその後没落したりして代替わりしているのだが、作中で出てくる古伊万里こいまりなど骨董品は没落した札差から入手したのかもしれない。

 古伊万里の茶碗の金継ぎの設定は、質屋に売られた時に同定しやすくするためだったが、父親である藤吉とうきちの人格者ぶりと家族を失った芝原家の再起というイメージも兼ねることができて良かった。

 葵がピアノが得意というのはお嬢様のたしなみとしてだが、『墨田すみだホープ』で働くきっかけにもなると思って設定した。

 葵と海桐の接点として、病弱な藤吉が飲む漢方薬を海桐が配達していたという設定にした。漢方薬店の名前は海桐の父親の名前から『高橋当麻とうま漢方薬店』とした。つまり高橋家も蔵前近くにあったという設定になる。

 母親の杏子きょうこと葵は対立し、家出した葵は杏子と決別して自立する、というのが当初のプロットだったが、執筆中に下書きを見たOさんの感想から、杏子にも母親として葵を心配している気持ちがあり、葵を本心から嫌っているのではないと考え直し、和解する結末となった。

 進駐軍に持ちビルを徴用され困窮した芝原家が、葵を成田なりた豪快ごうかいと見合いさせるエピソードは、かつらとたかしが見た映画『安城あんじょう家の舞踏会』から思いついた。

 使用人の野川のがわゆたかとヤクザの日下くさかとおるが繋がっているという設定はプロット段階からあったが、日下と成田を同一人物にするかは執筆直前まで迷っていた。成田と野川が賭場とばで知り合ったという設定で当初は考えていたが、ただでさえ登場人物が多い作品で成田の描写まで手が回らなかったのと、日下と大口おおぐち徳之介とくのすけの因縁を絡ませるために同一人物に変更した。結果的には変更して良かったと思っている。

 野川の処遇もどうするか迷ったが、結局芝原家に残る設定になった。野川は使用人兼執事のような役回りで、家を建て直すためにも必要だろうと判断したのと、杏子も葵が自立した後、一人きりなのは寂しいだろうと思ったからだ。


 次回は大口徳之介の話を予定している。

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