第21話 『一蓮托生』の裏話 その9 八馬と廣本の話

 横澤家の地上げをもくろむ八馬やまつかさ廣本ひろもとひさし。2人の名前は洒落で名付けた。八馬司の名前は「山師やまし」のもじり。廣本の名字は「ヒロポン」のもじり、久は一文字の名前にしたかったので検索で引っかからなかった名前を選んだ。

 八馬と廣本がどうして組むことになったのかは細かく決めていない。幼なじみだったのか、戦友だったのか、戦後仕事を通じて知り合ったのか、もしかしたらどこかで書く機会があるかもしれない。


 『一蓮托生』では登場人物をできるだけ好きになってもらいたかったので、絶対的な悪人は八馬とヤクザの日下くさかとおるに絞った。「日下」の名字は日陰者のヤクザの裏返しであえて名付け、名前の「融」は「とおる」読みで検索に引っかからなかったものを選んだ。ちなみに日下の名前は『一蓮托生』本編で出しそびれたので、今更ながら新田にった刑事の台詞に入れておいた。


 八馬は表の人当たりのいい面と、周りの人間を駒に使ってでも成り上がろうとする裏の野心家の面のギャップに気をつけて描いた。普段は康史郎こうしろうやカイ、リュウを名前で呼ばないのも、子どもだと思って見下しているためだ。

 八馬が企むヒロポンの密造だが、ネットで昭和23年に再開した隅田川花火大会のニュース映像を見た時に、警察がヒロポンを密造していた民家にガサ入れをするニュースが続けて入っていたことから思いついた。昭和22年当時は覚醒剤中毒の危険性も広まっておらず、「覚せい剤取締法」が制定されたのは昭和25年のことだった。


 廣本は八馬の地上げに協力しながらも、戦時中にたかしたち傷病兵に自決を命じる役回りをしなければならなかったことに苦しみ、ヒロポン中毒になるという複雑なキャラクターだ。自分が死に追いやった人たちを差し置いて幸せになることは出来ないと自暴自棄になっていた廣本の生き方を変えたのは、カイとリュウとの出逢い、そして「亡霊」として戻ってきた隆だった。

 廣本と隆の関係修復については、カクヨムコン8前にOさんのアドバイスで加筆した。2人がカイとリュウを助けることで協力し、最終話で軍の元上官と部下ではなく、「廣本さん」「京極きょうごく」と呼ぶ間柄になったことを示せたのは良かった。

 廣本のその後についても、いつか『一蓮托生シリーズ』の一作として描ければと思っている。

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