5 みんなの大事なおひなさま(中)

家に帰るとすぐに、わたしのおひなさまのところに行きます。

昨日の出来事を思い出すと、今までとは違う思いでね。

こうやってみると、おひなさま達にもちゃんと気持ちがあるように見えてきます。

いつもは動かなくても、お話できなくても、わたし達を見ているんだね。

そうわかると、今まで以上に話しかけたくなります。

それをしっかり聞いてくれているんだし、気持ちもあるならお友達のようなものだもんね。

そして昨日は、このわたしのおひなさまも動いていたということでした。

そういわれてみると、少し動いているようにも見えます。

でもそう教えてもらってなきゃ気付かないだろうから、わたしはまだまだです。

そうよくよくひな人形を見ているわたしに、お母さんが後ろから声をかけました。

「お帰り。

帰ってきてすぐにお雛さまのところに来たってことは、ポッコロさんに会えたの?」

そういわれて、わたしはびっくりして振り返りました。

「え?お母さん、ポッコロさんのことを知っていたの?」

よく考えてみれば、お母さんはたくさんお勉強しているし、こういうことには詳しいはずです。

だから知っていても、不思議じゃありません。

でも名前まで知っているってことは、会ったこともあるのかな?

そう考えた通りで、お母さんは余裕を持った笑顔でうなずきます。

「ええ。毎年会っているわよ。楽しい人よね。

『今年はみかんが、他の家でこのことを調べようとがんばっているから、会ったらよろしくね』っていっておいたけど」

そうだったんだあ。

そういえばポッコロさんはわたし達を見つけても、ちっとも驚いていませんでした。

あれはお母さんから聞いて、前もって知っていたからっていうのもあったのかな。

そう考えているわたしに、お母さんが付け加えます。

「本当に何にも知らなかったら、私があんなに明るく送り出したりしないわよ。

話を聞いた時に、すぐにピンと来たわ」

「じゃあ、何でそう教えてくれなかったの?」

わたしは不思議に思ってたずねます。

するとそれは、わたしのためにあえてそうしてくれていたのでした。

「自分で直接会ってみた方が、みかんにとってはおもしろいだろうと思ったからよ。

その様子だと、ちゃんと会えたみたいね」

そのお母さんの言葉に、わたしは大きくうなずきました。

そしてきらきらした笑顔になって答えます。

「うん。とっても楽しかったよ。

おひなさま達が毎年あんなふうに遊んでいるなんて、本当にびっくりしちゃった」

そう思い出しながらいいます。

それから少し深い気持ちになって続けました。

「わたしは魔法使いだからいろいろ知っているつもりだったけど、まだまだ知らない素敵なこともいっぱいあるんだね」

そんなわたしの答えに、お母さんは満足そうにうなずきました。

そして元気にウインクして、顔の横で右手の人差し指と親指を立てていいます。

「そうよ。私だって何でも知っているわけじゃないんだから。

こうやってわからないことがたくさんあるから、知らなかったものに出合った時にとってもおもしろいのよね」

「うん」

わたしは元気にうなずきます。

本当にそうでした。

わからなかったから、ポッコロさんや動くおひなさまを見た時に、あんなにびっくり、わくわくしたんだよね。

もしお母さんから前もって話を聞いていたとしたら、どうだったかな

わたしがまたそのことを真美ちゃんに教えたら、ああやって調べたりしなかったのかなあ?

うーん、きっとその妖精さんに会いたくなって、2人で会ってみようって話になったと思います。

そして初めて見るものだから、わくわくはしたと思います。

でもそれは、全然予想が付かない時のドキドキとは違うもんね。

そう自分で見つけて良かったです。

さすがお母さんだね。

そしてこれからもたくさん、あんな気持ちを味わっていけるんだね。

だったら、色々知りながら大人になっていくのも楽しみです。

お母さんはひな人形を見ながら、そう考えているわたしにいいました。

「じゃあ今年も楽しそうに遊んでいたこのお雛さま達と、明日は楽しくお祝いしましょうね」

その言葉に、わたしは張り切って聞き返します。

「本当におひなさま達、楽しそうだった?」

ポッコロさんのお話を聞いてから、それがとっても気になっていたんです。

真美ちゃん家のはとっても幸せそうだけど、わたしのはどうなのかなあって。

わたしは大事に思っていたけど、それをおひなさま達がどう思っているのかはわからないもんね。

するとお母さんは、にっこりうなずいてくれました。

「もちろん。みかんだってよくお雛さまをながめているし、大事に思っているでしょ?

毎年元気で、楽しそうにしているわよ」

そう聞いたら安心して、とってもうれしくなりました。

良かったあ。

うん、わたしもこのおひなさまが大好きです。

その気持ちがちゃんと、おひなさま達に伝わっているんだね。

そうわかったわたしは、元気にいいます。

「そっかあ。

じゃあ明日のおひな祭りは、わたしとお母さんとおひなさま達と、家族みんなで仲良くお祝いしようね」

今年はこういうことがわかった記念に、今までで1番楽しいパーティーにしたいです。

そのために、わたしも色々考えようっと。

明日学校から帰ってくるのが、楽しみです。

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