白い雪と赤い椿
にの
第1話
「…来たか。何をしておる。そんなとこではなく、俺の側へこい」
窓辺によりかかり、甘い声で私を手招く。
彼の近くに座り、格子窓の外の満月を共に眺めていた。
「今日は、月が綺麗ですね」
こんな洒落た言葉を使ったところで、彼に通じるはずは無いと分かっていた。
「…月はずっと前から綺麗だ」
その言葉をの意味を知っているのか否か、私には分からなかった。けれど彼は、その言葉を月を見ずに私の目を見て言っていた。
今だけは、ここにいる時だけは、自惚れてもいいのでしょうか。
「…お前は、綺麗だな」
目を細めて笑う彼に惚れない女は居ないだろう…。そう思えるほど、愛しく思えた。
遊郭特有の甘い匂いと温かい体温を感じ、彼に抱きしめられたのだと分かった。
「あぁ…いつまででもこうしていたい」
耳元で囁かれる愛の言葉に、腰が砕けそうになってしまう。その事が少し恥ずかしくて、悟られないようにしていたが、彼にはなんでもお見通しのようで。
「ははっ。こうして、耳元で喋られるのは、嫌いか?」
「…お、おやめ下さいっ」
顔に熱が集まるのが自分でも分かった。
羞恥の最高潮に達し、もう思考回路は回らなかった。
「…そんな顔で辞めろ、なんて。説得力が皆無だな」
バカにしたような口調とは裏腹に、彼の顔はとても優しく、愛しい人を見ているようだった。
「…優しい顔をなさるのね」
「お前にだけだ」
私の右頬を埋めつくほどの大きな手に私の手を重ね、存在を確かめる。
「ふふ…そんな言葉、ユウキ様に言われたら誰でも惚れますよ」
「お前にだけだと言っているのに…信じてくれないのかい?」
傍から見たら、好き同士のカップル。
けれど、この場所ではただの従業員と客以上の関係にはなれない。
それが、遊郭という場所だ。
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