第3話 悪意の渦 ※エマ視点

 ナタリアに縁談の話が告げられた日、エマは最高の気分を味わっていた。


「お母様! ついに明日はお姉様が嫁ぐ日ね。私、この日が待ち遠しかったわ。それも相手は冷血伯爵よ! なんて良い気分なのでしょう」


(あの冷血伯爵に嫁ぐのだから、さぞ大変でしょうね。あぁ、お姉様がこれから一生怯えて暮らすのだと思うと……最高の気分ね!)


「あら、エマは寂しがるのかと思っていたわ。使用人が一人減ってしまうのですから」


「うふふっお母様ったらー。使用人が一人減るくらい問題ありませんわ。たいして使えない使用人でしたし。それに、国王から褒美が頂けるのですもの! 厄介払いが出来る上に褒美をもらえるなんて、良いことばかりですわ」


 エマと母親は、ナタリアへの不満や愚痴を話すことでストレスを解消していたが、今夜はいつも以上に盛り上がっていた。


「そうだったわね。……これでようやく前妻あの女のことを思い出さずに済むわ。」


「本当ですね。ようやく我が家も過ごしやすくなります」


(お母様嬉しそう。お姉様は母親似だったようだから、再婚してからずっと目障りだったみたいだし)


「ナタリアが家にいるだけで、気が滅入ってたのよ。あの子さえいなければ、私達は素晴らしい家庭を築けるのに」


「もうお父様も分かっているはずです。この家の本当の家族は、私達なのだと」


(この家はお母様の実家の寄付で成り立ってるのよ! 前妻の娘なんか必要ないの)


「そうね」


 母親と喜びを共有していたエマは、ナタリアに対する嫌がらせを思いついた。


「そうだわ! お姉様の荷造り、手伝ってあげなくちゃ! ふふふっ」


 エマはうきうきとした気分でナタリアの部屋へと向かった。





 エマは荷造りの手伝いと称して、ナタリアから高価なアクセサリーや服を無理矢理譲り受けた。


 ナタリアの諦めたような悲しそうな顔は、エマの気持ちを昂ぶらせたのだった。


(まともな荷物を持っていかなければ、冷血伯爵にも見放されるかもね。いい気味よ。綺麗な顔を歪めて泣いたら面白いのに)


 エマはずっとナタリアに嫉妬していたのだ。器量の良いナタリアと並ぶと、自分が劣っているような気になるからだ。


 だからエマは、ナタリアが暗い表情を見せると嬉しくなるのだった。


「明日はお姉様から貰ったアクセサリーをつけて、お出かけでもしようかしら。私だって着飾れば、お姉様よりも魅力的になれるんだから!」


 楽しそうに呟くエマは、誰よりも醜い表情になっていることに気づいていなかった。


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