第48話 炎
学園祭2日目
ロイドとジロウの試合の前にステージではニニカ、ミユキ、ジロウ、ミルの四人が英霊祭で披露したダンスと歌を披露していた。
しかし英霊祭の時と違い、曲数は増え、グループ名も『YU☆YU☆GIRLS』と正式に決まっていた。
学園でも人気の四人だ。観客は大いに盛り上がっている。
ジロウはロイドとの戦いに集中したいから出演を拒否したのだが、ニニカに言いくるめられて今まさにステージに立っていた。
ロイドもまた彼女たちのステージを見ていたのだが、気付く。
「ちっ!」
異変に気付いたのはロイドの他に4人。ゲイル、ミユキ、ジロウ、そしてニニカだ。
ロイドは突如ステージに登り、ニニカを抱きかかえてその場から立ち去る。
「「「「「!!!????」」」」」
観客は状況がつかめず困惑している。
*
「はぁ、お目当てはどこかに連れていかれてしまったようじゃのう」
ロイドとニニカが立ちさった闘技場には〝幼子のルイゼルダ〟が杖をつきながら歩いていた。
「お主か?拙者とロイドの戦いを邪魔したのは?またあんな恥ずかしい踊りもしたのに。ご老人、死ぬ覚悟はできているのか?」
「ふふふ、老人ってのはみんな死ぬ覚悟なんてものはできてるんだよ。ただついでに私は殺す覚悟も出来ている」
ルイゼルダはそう言ってニヤリと笑う。
―闇魔法 時の奪取―
「え?」
ジロウはみるみるうちに子供の姿へとなっていく。
*
「おい、お前。ここは行き止まりだ」
「お前は、、、」
王都の中心へ向かおうとしていた〝弱者のガイオス〟の前に勇者が立ちふさがる。
「燃えろ。デカブツ」
炎の勇者、ゲイル・リチャードだ。
「なるほど。ロイドに匹敵すると言われる勇者か」
「逃げるか?逃げるなら追わないぞ?今は王都の守りを固めることが最優先だ」
「逃げるわけないだろ。お前はここで俺が殺すんだから」
「はぁ!?お前が俺を殺す?寝言は死んでから言え!」
「死んだら言えねーだろーが!」
―闇魔法 弱き者―
燃え盛っていたゲイルの炎が鎮火されたように消えていく。よく見れば若干火が灯っている程度まで。
「何だ、こりゃ」
「お前は弱者になったんだよ、炎の勇者」
*
「止まって」
路地裏からイームスの首元を狙っていた〝白痴のハイル〟の前に現れたのは序列一位の勇者、ミユキ・エリエスだ。
「そうか、お姉さんは気付いて先回りしてたんだ」
「魔王軍に攻められていると分かったんだったら、普通はこの可能性も考えるわ。王の首を狙う刺客も」
「さすが学園の序列一位。頭もいいんだね。でも君たち勇者が王を守るために動くとは思わなかったよ。あんな愚王を」
「そうね、確かに愚かな王であるわ。でももし首を落とされるなら他所から攻めて来た人間にではなく。自国の民に落とされるべきだわ」
「なるほどね。確かに愚かな王は自国民に殺されるって相場が決まってるもんね」
「わかったら退いてちょうだい。子供とは戦いたくないの」
「はぁ。甘すぎるよ、お姉さん。もう女だ子供だじゃないんだよ。注目すべきはそこじゃない」
―闇魔法 無知―
「、、、え?ん?私って何でここにいるんだろう。というか私って何だったけ」
何もわからなくなったミユキは何をしていいかわからずその場に膝をつく。
「ほら、人なんて知恵が無くなればただの肉塊に過ぎない」
「私は、私は、、、」
「そろそろ言葉も忘れるよ。ここからは呻き声をあげるだけだ」
「あ、あ、あああ!」
「はい、ただの肉塊の出来上がり」
知性を完全に失い、意味のない声を上げるだけのミユキを見下ろしながらハイルは笑みを浮かべる。
*
「どんなに強い勇者であっても、子供だった頃jは弱かったはず。儂は〝幼子のルイゼルダ〟。儂の闇魔法は時間を奪う」
ルイゼルダの前には幼い姿となったジロウがいた。持っていた刀よりも背丈は小さくなり、とてもじゃないが戦えるような姿ではなかった。
「幼子になったお主ならこの老婆でも倒せるわい」
「お主ができるのは人を子供にすることだけなのか?」
「儂の魔法はそうじゃが、ネロ様から貰ったこの杖がある」
そう言ってルイゼルダは杖に仕込まれた刀を抜く。
「妖刀か?」
「その通りじゃ。妖刀『虎徹』。斬れぬものなどないと言われる刀で、これからお主の首を刎ねる刀じゃ」
「なるほど。だがお主が使いこなせるような刀には見えん」
「使いこなす必要などないわ。幼子の首を刎ねるだけなのだからな。誰にでもできる」
「幼子か。どうやら7歳ぐらいの頃になっているようじゃ」
「そうじゃ。もうお主に勇者としての力はない」
「7歳の私に勇者の力はないか、、、」
そう言ってジロウは自分の背丈よりも長くなってしまった刀を拾い上げる。
「ん?その姿になっても戦おうというのか?」
「何を言っている?力を奪われようが、どんな姿になろ―が、敵がいれば戦うのが勇者というものだ」
「その心意気はよいがそんな幼子の姿で何ができるというのじゃ?」
「はぁ?この年の頃にはもうロイドと戦っていたぞ?」
「え?」
「ただの老婆に勝てない道理はなかろう」
「え?」
自分よりも大きな刀を振り、ジロウはルイゼルダを切り捨てる。
「子供の頃のロイドよりは全然弱い。ただそれだけ」
*
こちらはゲイルとガイオス。
「俺の力を奪ったのか」
ゲイルは自分の力が失われたことを確認しながら淡々と言う。
「そう!お前はもうただの弱者だ!」
「そうか。なるほどな」
ゲイルは自分の状況を冷静に分析する。
「理解が早くて助かるぜ。お前はここで死ぬんだ。炎の勇者」
弱体化したゲイルにガイオスは拳を振り落ろす。
ジュウ!
「熱っ!」
だがガイオスの拳はゲイルには届かなかった。
「弱体化ねぇ。面白くねぇ魔法だな」
消えたはずのゲイルの炎は再び燃え上がり、ガイオスの拳を焼いていた。
「ど、どういうことだ!!!」
「なにもおかしくはねぇだろ。弱体化されてこんなショボい炎しか出せないんだから」
当たり前のようにゲイルが答える。
「なんで弱体化したお前に俺の拳を焼けるんだ!!!」
「はぁ!?バカか?お前。単純だろ。弱体化した俺でも圧倒的にお前よりも強いってことだよ」
「嘘だろ?そんなに力の差があるわけない!!!」
「いや、それだけの力の差があるから今こうなってるんだろ。ちゃんと今の状況を理解しろよ」
「クソが!だが俺はこの闇魔法だけが武器ではない!この鍛え抜かれた肉体が!」
「鍛え抜いた?ふっ、その程度で?年がら年中寝てたのかと思ったぜ!」
「な、なんだと!?」
「炎の勇者を舐めるなよ?俺は何度死んでもおかしくないぐらい自分を痛め続けて鍛えて来た。本物の勇者に追いつくためにはそれでも足りないぐらいだからだ。おい、もう一度言うぞ。デカブツ」
「へ?」
「燃えろ」
「うがぁぁぁぁぁ!!!!」
ボクの勇者~魔力がなくて落ちこぼれた元天才勇者、再び最強の勇者を目指す~ 目目ミミ 手手 @mememimitete
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