第29話 ゲイルとサスケ

一方そのころロイドたちはヒノモト国に辿り着いていた。


「さてどうやってジロウに会うかだな」


「そうだね。お姫様だもんね」


「っていうかヒノモト国ってこんなに賑やかなの?イメージと違うんだけど」


ミユキが言うようにヒノモト国はまるで祭りのように盛り上がっていた。


「おっさん、このお祭り騒ぎは何なんだ?」


ロイドは近くにいた男に尋ねる。


「ん?あんたよそから来たのか?」


「ああ、今日着いたばかりなんだ」


「そうか!明日ヒノモトの姫様とイガの里長の結婚式が行われるんだよ!今ヒノモトはその話題で持ちきりさ!」


「なるほど。そりゃいい時に来たみたいだな。そのお姫様と里長の結婚式は俺たちでも見られるのか?」


「もちろんさ!王城を一周するパレードが行われる!タダで見られるぜ!」


「そうか、ありがとう」


「おう!お兄ちゃんも楽しんでいきな」


ロイドたちが思ってたより全然早かった。

ジロウの結婚式が明日にまで迫っていることを知って、ロイドたちは緊急会議を開く。


「ぷはぁ!ビールうま!」


「ちょっとロイド!お酒飲むためにバーに入ったんじゃないのよ!」


「そうだよ!ジロウちゃんを取り戻すための作戦会議なんだよ!てか明日なんだよ!」


「コオロギの佃煮うま!」


暢気にビールを飲んでるロイドを戒める二人をよそに妹のミルもまた暢気にゲテモノ料理に舌鼓を打っていた。


「あなた達やっぱり兄妹ね」


ミユキはそんな似たもの兄妹に呆れる。


「まあ結婚式の前にジロウに会うしかないな。ところでジロウって誰と結婚するの?」


そんなミユキをよそにビールを飲み干したロイドは何事もなかったかのように疑問を口にする。


「新しくイガの里の里長になった人らしいわよ。なんか先代が体を壊して引退したんだって」


ミユキは長年の経験からここで何か言ったところで余計疲れるだけだと諦め、街で調べて来た情報を伝える。


「その新しい里長ってどんな奴なんだ?」


「それがシノビって秘密主義だからよくわからないのよね。確か名前はサスケだったわ」


「そうか。まあいいや。とりあえずどうやってジロウに会うかだな」


「ジロウは王城にいるらしいけど、王城は多くのサムライが守ってるから忍び込むのは難しいと思うわ。それこそシノビでもないと」


「いや、出来るやつがいるだろ。なあ、ニニカ」


ロイドはニニカの方を見てニヤリと笑う。


「さすがロイド君。わかってるじゃないか!今回のボクの見せ場はここだね!」


ニニカは待ってましたとばかりにやる気う満々で立ち上がる。


「そうか!ニニカの魔法なら可能ね!」


「俺とミユキの二人で行く。俺たちに魔法をかけてくれ」


「お兄、ミルは?」


「お前はここでニニカと待機だ」


「了解!」


ミルは元気よく敬礼をする。


「え、了解なの!?てっきり私も行きたいって言うのかと」


予想と違ったミルの反応にニニカが驚く。一方のミユキはこうなることが分かっていたかのように平然としていた。


「なに言ってるの、ニニカちゃん!普段は別として、こういう時はお兄の言うことを聞くのが一番なの!」


胸を張って自慢げにミルが言いきる。


「うん、そっか」


兄を微塵たりとも疑っていないミルの様子を見て、ニニカから笑みがこぼれる。


「じゃあ作戦決行は夜更けで行こう」


「「「了解!!!」」」


みんなの元気な返事で作戦決行が決定した。





ゲイルはサスケの案内でイガの里を目指していた。


「ひゃあ!!!」


「うるさい」


サスケに飛び掛かって来た魔物をゲイルが真っ二つにする。


「アニキーーーー!!!!」


サスケが泣きながらゲイルに抱き着く。


「毎回悲鳴上げるな。俺の傍にいてお前が死ぬことはない」


「それでもビックリしちゃうんでやんすよ」


「じゃあなるべく静かに驚け」


「それはそれですごく難しいでやんす」


常に叱られているサスケだがゲイルのことを慕っているようで、ゲイルもまた文句を言いながらもしっかりとサスケを守りながら山道を進んでいた。


つまり割と相性がよかった。まさかの。


「今日はこの辺で野営するか。お前はテントを張れ。俺は飯を作る」


「了解でやんす!」


二人でイガの里を目指して旅をしているうちに役割分担ができていた。野営の準備をするのはサスケ、そして食事を作るのはゲイルだ。


「いただきまーす!」


今日の夕飯はウサギ肉のシチューだ。


「アニキの料理は本当にうまいでやんす!あっしこんなうまいもの食べたことないでやんすよ!」


「里を出てからは何食ってたんだよ」


「獣を狩るのは無理だったんで、その辺に生えている草とかキノコを食べてたでやんす」


「よく腹壊さなかったな」


「お腹は壊しまくってたでやんす、、、」


サスケは遠い目をしていた。


「まあガキなんだから一杯食え!」


「ありがとうでやんす!アニキ!」


満面の笑みでサスケが答える。


「、、、これも食え」


ゲイルは自分の分もサスケに渡す。


「いいんでやんすか!?」


「俺はもう腹いっぱいだ。さっさと食え」


「ありがとうでやんす!」


サスケのペースに合わせながら少しゆっくり目に進んでいたゲイルたちだったが、やっとイガの里に辿り着く。


「ゲイルのアニキ!ここがイガの里でやんす!」


「ここか。確かに人の気配はないな」


「皆消されてしまったでやんす、、、」


悪夢の日を思い出してしまったようで、サスケは俯いてしまう。


「とにかくそのジライヤってやつの目的について何か手掛かりがないか里中調べまくるぞ」


ポン


ゲイルが優しくサスケの頭に手を置くと、驚いたようにサスケはゲイルを見上げた。そしてサスケは笑顔になりゲイルに抱き着く。


「暑苦しい!いいからお前は里を案内しろ!」


「えへへへ、わかったでやんす!」


こうしてサスケとゲイルは誰もいなくなったイガの里を調べ始める。



食卓の料理は食べかけのまま残されていたり、畑での作業が途中までで中断されていたり、本当に住民が突然消されたんだということが分かった。


「おい、サスケ。何か隠されてる場所とかないのか?」


「え?うーん、そんなのはないと思うでやんす」


「とにかく何でもいいから思い出すことはねーか?」


「うーん、うーん」


サスケは頭を抱えて唸る。


「まあいい。そのまましばらく唸ってろ。俺はあっちの方を見てくる」


唸っているサスケを置いて行こうとしたゲイルにサスケの声が聞こえてくる。


「あー!そう言えば、父上に絶対近寄るなと言われていたところはあるでやんす!」


ゲイルは振り返ってサスケの元へと戻る。


「それはどこだ?」


「えっと、あっしの家の地下でやんす!」


「お前んちはさっき行ったろ」


「忘れてたでやんす!」


ゴツン


「痛いでやんすー」


なんかイラっとしたゲイルはサスケにゲンコツをする。


「まあいい。とりあえずそこに行ってみるぞ」


「で、でも扉を開けたらおっかない妖怪が出るって、父上が。絶対開けない方がいいでやんすよ」


「そんなもん親父の嘘に決まってんだろ」


「ええ!?そうだったんでやんすか!?」


「まあ本当だったとしてもぶっ殺せばいい」


そして二人はもう一度サスケの家に向かう。サスケの家は里の一番奥に建てられた大きな屋敷だ。代々里長が住む屋敷らしく、里の建物の中でもひと際存在感を放っていた。


「で、地下室はどこだ?」


「この下でやんす。でも扉に鍵がかかってるから入れないでやんすよ」


サスケはゲイルの後ろに隠れながら恐る恐る地下室の方を指さす。


「まあそりゃ鍵ぐらいかかってるか。おい、サスケ少し離れてろ」


「え?怖いので嫌でやんす」


「いいから離れてろ!ゲンコツくらわすぞ!」


「ひい!ギリでアニキの方が怖いでやんす!」


サスケが離れたのを確認したと同時にゲイルは一気に燃え上がる。そしてそのまま扉ごと消し炭に変えた。


「やっぱりアニキの方が怖かったでやんす」


ビビっているサスケをよそにゲイルは地下室の中へと入っていく。そして地下室を見たゲイルは怪訝な顔をする。


「なんだここは」


殺風景な部屋の中央にポツンと一つだけ台があり、それを囲むように地面には大きな魔法陣が描かれている。


「セキュリティー系の魔法陣か?だけど完全に壊されてる。何か持ってかれたな」


「あ、アニキ、だ、大丈夫でやんすか?」


部屋の外からサスケの声が聞こえてくる。


「いつまでビビってんだ!妖怪なんかいなかったから入ってこい」


「本当でやんすね?」


「何度も言わせるな」


「わ、わかったでやんす」


恐る恐る部屋に入って来たサスケだが本当に妖怪はいないことを確認して少し落ち着きを取り戻す。


「おい、サスケ。この部屋を見渡して何か気になったこととかないか?なんでもいい」


「気になることでやんす?うーん、カビ臭いってことぐらいしか特には」


「そうか」


「でも刀はどこに行ったんでやんすかね?」


「刀?」


「だって刀掛けに刀が飾ってないんで」


そう言ってサスケは中央の台を指さす。


「これには刀が飾られてるもんなのか?」


「そうでやんすよ。立派な刀は刀掛けに飾られるでやんす」


「ってことはそれが盗られたか」


ゲイルは辺りを見回す。そして刀掛けの裏側に彫られている文字を見つける。


そこにはこう書かれていた。




一つ、この刀を壊すことはできない

一つ、この刀は八岐大蛇を呼び起こす鍵である

一つ、この刀についての口外を禁じる

一つ、この刀の守りはシノビの長に一任する

一つ、この刀が奪われた場合はサムライの姫とシノビの姫を殺すこと


サムライ大将 コジロウ・ササキ

シノビ統領 ニシキ・イガ



と。


「ここにあった刀は八岐大蛇とかいう化物の封印を解く鍵になるらしいな。ただ最後の一文が分からない。なんで刀が奪われたらサムライとシノビの姫を殺さなきゃいけないんだ?」


「あのぉ、アニキ。アニキはサムライとシノビのお姫さんを殺すんでやんすか?」


怯えたようにサスケがゲイルに尋ねる。


「なに言ってんだ、お前。なんで俺が見たこともねぇ奴の言葉に従わなきゃいけない。誰を斬るかは俺が決める」


「本当でやんすか?」


恐る恐るサスケはゲイルに確認する。


「なんで俺がお前に嘘をつかないといけねぇんだよ」


「、、、じゃ、じゃあアニキに言っておきたいことがあるでやんす」


「なんだよ?」


「えっと、、、」


「さっさと言え!多分早くヒノモト国に向かったほうがいい気がする」


「自分なんす!」


「なにが」


「自分がシノビの姫なんす!」


「いやお前、、、女なのか?」


「その通りでやんす!あっしは姫なんでやんす!」


「うるせぇ!」


ゴン!


ゲイルがサスケの頭にゲンコツを落とす。


「あ、アニキ!いきなり何するんでやんすか!」


頭を抱えながら涙目でサスケが言う。


「いや、なんか『あっしは姫なんでやんす』って言ったときのドヤ顔がイラついた」


「何なんすか!その理由!衝撃の告白のはずじゃないっすか!」


「その『これ衝撃の告白ですよね感』にもイラついた」


「勇気を出して告白したのに!」


サスケは目に涙を浮かべながらそっぽを向く。


「つまり名前もお前のそのしゃべり方も女だと思われないためってことか」


イラついてゲンコツはしたがゲイルはサスケの言葉を疑ってはいなかった。


「そ、そうでやんす」


「そうなるとお前は八岐大蛇復活の鍵になるから逃がされたんだろうな。あとはサムライの姫も必要ってことか。サムライの姫はジロウ」


「アニキ、何を考えこんでいるんでやんすか?」


「いや、何となく色々繋がって来たってだけだ。そうとなったら急いでヒノモトへ向かうぞ!ロイドももうヒノモトについてるだろうからな」


ゲイルの目に今回の任務で初めて火がともった。


「あ、アニキ?」


「とりあえずお前は今回の件の鍵のひとつだ。まだ敵がはっきりしてないが、お前を取られたらマズイ。だから俺から離れたら殺す」


「わ、わかったでやんす!」


普通なら怯えるであろうゲイルの言葉を聞いて、逆にサスケは嬉しそうに抱き着いた。


「離れろ」


「離れたら殺されるでやんす!」


嬉しそうにサスケが答える。


「、、、抱き着くなって言ってるんだ」


「嫌でやんす!」


サスケはより強くゲイルを抱きしめる。


「ちっ!」


「えへへへ」

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