第20話 魔王軍の侵攻

ここはイームス王国の北部に隣接する大国『デルミア帝国』の王都。

裏街にある廃墟には9人の男女が集まっていた。


彼らが今現在の魔王軍幹部たちだ。


皆が闇属性の魔力を持った人間たち。


つまり魔族だ。


闇属性の魔力を持った人間の扱いはどこの国でも一緒。消される。なかったことにされる。それだけだ。


そんな彼らをネロは救い出した。だが別にネロは同情して助けたわけじゃない。そして彼らもまた恩を感じてネロに従っているわけでもない。


魔王だけが使える魔法『魔王からは逃げられない』によって隷属されているだけだし、そのためにネロは彼らを救ったのだ。


「魔王様、おかえりなさいませ」


執事服の男がネロの上着を受け取る。


〝疫災のグラビア〟。



「魔王様、ベヒモスはやられたみたいですね」


筋骨隆々の男が膝まづいている。


〝弱者のガイオス〟



「ああ、全くもって期待外れだったよ。あの神獣。まあ魔王が神を信じるとか違ったんだろーね」


「勇者にやられたのですか?」


妖艶な女性がネロに声をかける、


〝純潔のメイラン〟



「やはり私たちが行ったほうがよかったのでは?」


杖をついた老婆が奥から現れる。


〝幼子のルイゼルダ〟



「魔王様に意見するなど不敬だぞ。ルイゼルダ」


そんな彼女をたしなめるピエロのような姿をした男。


〝誠実のクオンタール〟



「それで魔王様、これからどうなさるおつもりで?」


魔物を侍らせた男。


〝孤独のゲイナード〟



「なんだっていいだろう。私たちは魔王様の命令に従うだけ。例え死ねと命じられても」


修道服に身を包んだ美しいシスター。


〝背信のザラ〟



「命じられないと何もできないとか無能でしょ。有能な配下ならば魔王様の気持ちを汲み取らなくてはダメよ!」


高そうなドレスを着た貴族然とした少女。


〝貧困のアルビナス〟



「皆うるさいよ。早く魔王様の言葉を聞こう」


ずっと本を読んでいた少年が呆れたように口を開く。


〝白痴のハイル〟



この場にいる魔族はこの9人。


だがネロ配下の魔族はあと4人いる。


その4人は各々任務を与えられて。各国に潜入していた。


という訳で今はいない。


ネロは配下たちに向き合い。仰々しく両手を広げる。


「僕たちの目的はこの世の全てをバカにすること。真面目な奴らを茶化して鼻で笑うこと。権力も戦争も腹を抱えて笑ってやること。人々を救おうとする勇者たちに無意味を突き付けること。そしてこの世界から価値を奪う」


「それで魔王様。まずは何をするんですか?」


ルイゼルダが前に出る。


「そうだね。まずはゲームを始めるための準備を整えよう。、、、とりあえずこの国を落とすよ」


ネロは不敵な笑みを浮かべながら、帝国の王城を見上げる。


「それは―


「ああ、殺せ。王族も貴族も兵士も市民も女も子供も、胸焼けがするくらい殺せ」


「魔王様、号令を!」


「すべてを台無しにしろ!」


ネロの命令を受けて魔王軍は動き出す。





デルミア帝国は大陸一の歴史を誇る国だ。全盛期は大陸全土を支配するのではと恐れられもした。だが今はその頃ほどの力はない。それでもいまだにイームスと並ぶ強国である。

しかし軍事力はあるものの数十年と不景気が続いており、国債で首が回らなくなるのも秒読みと言われている。


更にデルミアは貴族至上主義の国として知られている。外の国では貴族という称号もほとんど飾りになってきている昨今にありながら、デルミアは数百年と変わらない身分制度が生きていた。


ゆえに不景気でも上流階級の生活は変わらない。しわ寄せを食らうのは一般市民たちだ。税という公的な暴力によって。


だからいくら不景気で国が瓦解しようとしていても貴族や王族たちに危機感はない。頭ではわかっていても実感していないからわからない。そして何も考えずに生きてきたために頭も悪い。


国の上層部はピンと来ていないが、もうこの国は終わっていた。そんな国に止めを刺せというのが今回ネロが魔王軍に下した命令だ。


死にそうな国を蹂躙し、あざ笑う。いや、爆笑する。はらわたがよじれるほどに。それこそが魔王ネロ・ケイオス。


「おい!お前!この先は王城だぞ!?そこで止まれ!」


王城の正門に向かってスタスタと歩いてくる男に門番は槍を向ける。


「止まれ?もしかして人間ごときが私に命令をしたのか?ちっ、万死に値する」


執事服の男〝毒のグラビア〟が不快そうに腕を振るう。


彼が腕を振るった直後、門番や中の兵たちは次々と血を吐いて倒れていく。


正門とは反対側の北門、侵入者に対して屈強な兵士たちが次々向かっていくが全く相手にならない。軽く拳を一振りしただけで数十人が吹き飛ばされていく。


「退屈だ。まあ自業自得なんだがな」


北門から攻めているのは〝弱者のガイオス〟である。


―東門


杖をついた老婆〝幼子のルイゼルダ〟が王城へ向かってゆっくりと歩いていた。


こんなに堂々と侵入してきているのに彼女の邪魔をする者は一人もいない。


代わりに周囲にはけたたましいほどの赤ん坊の泣き声がこだましていた。


―西門


ここがある意味一番悲惨だった。


兵士たちが武器も捨てて互いに掴み合い、引っ搔いたり噛みついたりしている。


まるでただの獣になったように。


そんな兵士たちを見下しながら本を片手にゆっくり歩いているのは〝白痴のハイル〟だ。


そして最後の仕上げとばかりに帝国中に大量の魔物が押し寄せた。


ネロはそんな光景をドラゴンの背に乗りながら空から見ていた。


「さあ、命がけで楽しんでくれ、帝国民たち!帝国最後の祭りだ!!」


この日デルミア帝国はその長い歴史に終止符を打った。

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