ノロの冒険:序章

今村広樹

本編

 ‎帝都の南西にあるエイシン半島は、大半がエイシン山脈と呼ばれる標高2000くらいの山の連なりであり、住民たちは山の谷間か数少ない港に点在している。 その南端にあるカールネスという街は人口10000ほどの風光明媚な港町である。 その街に少年は住んでいた。 少年の名前はノロという。 ノロの名前の由来はノロノロ歩くからと、ムング(遊牧や行商をしながら旅し、世界各地にその足跡が残っているという、冒険者の側面もあった人々のこと)の英雄から名前を貰ったという2つの意味がある。 「行ってきます」‎

 ‎いつものように父親に声をかけて家を出る。 父親の名はハンダといい、妻を早く亡くしたために男手ひとつでここまで育ててくれた人だ。 ただ父親が朝早い仕事を持っているため、基本的にノロが早起きしている。 母親がいなくて寂しい思いをしたこともあるが、今はこの父親に感謝していた。 そんなことを考えながら山道を歩いているときだった――急に地面がなくなったような浮遊感を覚えた次の瞬間には落下していたのだ! ‎

 ‎(落ちるー!? )と思った時すでに遅く、為す術なくそのまま墜落していった…… そして地面に叩きつけられ意識を失った―――‎

 ‎…… 次に目覚めたときは見知らぬ場所にいた。 見たこともない様式の天井を見ながら、先程の出来事を思い出した途端一気に気分が悪くなった。 頭を打ったのか痛みを感じるも動けずにいるところに女性が入ってきた。 女性は回復魔法を使ってくれたようで徐々に痛みが取れていった。 ‎

 ‎「こんにちわ、私のことが分かります?大丈夫かしら……。 ああそうね私はソフィアよ。 あなた名前は分かる?」 ‎

 ‎「あっはい僕はノロと言います…… ここはどこですか? それとどうして僕こんなところにいるんですかね。 えっと記憶がないみたいなんですよね。 何か知りませんでしょうか? どうもこの辺のことよく分からないんで……。 ああとすみませんちょっと寝る前の事思い出して気持ち悪くなってました」‎

 ‎慌てて説明しようとするあまり言葉使いまでおかしくなっていたようだったが、目の前の女性はそれを気にする様子もなく優しく微笑み返してくれた。 ‎

 ‎「まあかわいそうな子…… 無理もないことだけれど可哀想ねぇ~ここの説明の前に少し休む必要があるかもしれないわね」そういうと立ち上がり部屋の扉を開けるとその先に見える階段の下に向かって大きな声で話しかけていた。 すると暫くしてから中年男性が姿を見せこちらへと近づいてきた。 男性は心配そうな顔を浮かべながらも女性の話を遮り質問してきたのであった。 ‎

 ‎「おいノロと言ったかな君が倒れていたという話は聞いたのだが本当なのか。君はどこか痛むとかはないんだろうな。 もしあったなら正直に伝えて欲しいのだが……」男性の様子は明らかに尋常ではないものだった。 まるで尋問でもするような口調にも聞こえたのでこちらも気を引き締めつつ答えることにした。 ‎

 ‎「あのうどちら様でしょう…… それに倒れたという話ってどういう意味なんでしょうか……。 すいません覚えていないですけどごめんなさい失礼します!」 と言って部屋を出ていこうとしたところで女性に引き止められてしまった。 ‎

 ‎「だめよダメ駄目そんな体じゃまともに歩けないじゃないですかお父さま、もう少しゆっくりさせてあげてくださいな…… ほらこっちに来て座って休まないと身体によくないですよ」男性の方は不満げな態度を隠そうとせず、仕方ないという表情をみせつつもベッド横に置かれた椅子に座って話し始めた。 ‎

 ‎「分かったソフィアの言う通り落ち着くまではここで休みなさい…… では自己紹介からだ、私の名前はアルク・ディグソンというものだ…… 娘から話を聞いた限りではこの世界を知らないようだが何があったか知っているか? 本当に何も覚えてないのだな…… ならば良い機会だし教えておくべきだろう…… お前さんにとって非常に重要な情報だからだ」‎

 ‎(重要だと言われても困った状況なのにいきなり何の話だろうか……) と思い困惑しながらもとりあえず相槌を打ってみた。 確かにこのまま放置され続けてはたまらないと思っていたからである。 ‎

 ‎「さっきお父さん言っていましたよね僕の体が弱っているみたいだって…… もしかしたらその件について何か知ってるんじゃ…… それだったらもしよかったら聞かせてもらえればと思うのですが……。 あとすみません記憶が無いと言うよりも、思い出せない感じですね…… 自分のことだけでなく周りのことも全然知らないんです……」アルクは驚きを露にしたかのような態度で聞き返してきた。 ‎

 ‎「そんなことがあり得るとは信じられん…… だが嘘を言っているようにも見えぬな…… すまなかった疑ったりして悪かったな許してくれ」といって頭を深く下げ謝罪の言葉を口にしていた。 そして、そんなに大したことでもないような軽い口ぶりで説明を始めてくれたのだ。 そして今度こそ真実を告げられ愕然としてしまうことになる。 …… 実はこの国は人間以外の種族も普通に暮らしているそうだ。 つまりノロの世界でいうファンタジーのような世界なのだ、そしてエルフやドワーフや獣人など様々な人々が共存しているとのこと、他にも竜人や悪魔といった者達がいるらしいのだ、しかも魔物も普通に存在するらしく、この大陸にはそういった危険な生き物が住んでいる地域も多いため、危険地帯と言われているとの事だ、 ちなみに先程の魔人と呼ばれる者達は人間の味方なので安全であるということを付け加えてくれている。 そして自分がここにいる経緯を簡単に説明すると、先日行われたとある式典で突如召喚の儀式が行われたのだという。 その際に大量の魔力を使いこの国始まって以来の規模の魔法陣を描き出したのだ、それにより多数の人々が集まった中で異世界からの勇者が呼び出されたのだというのだ…… そんなことをして大丈夫なのかとも思うも実際に起きた出来事に唖然となるばかりだ。 ‎

 ‎そして召喚された者の容姿を見たとき皆息を飲み込むような感覚に襲われ言葉を失ったのだと…… そう言われてみると自分も髪が銀色という珍しい色をしているようである。 そしてしばらくすると、王城にある大広間に現れた人物がいた。 見た目は美しい女性であったが明らかに周りとは違うオーラのようなものを放っていたようで誰も声を掛けることが躊躇われたのだ。 そして玉座の前までくると挨拶をしていた…… そう先程から話題となっている魔王と名乗る人物がそこに座って待っていた。 ‎

 ‎彼女の言葉を聞くうちに会場全体がざわめきに包まれていき動揺を隠しきれていなかった…… というのも彼女はとても美しく誰もが見惚れてしまうほどであった上に、更に言葉の端々からは只者ではない威厳まで感じることが出来たのであった。 そこで王が彼女を新たな仲間として迎え入れることに決めたのであった。 そうしてこの国の新しき国王になったのであった……。 ‎

 ‎「ちょっと待ってくださいね…… まだ頭整理できていなくて……」‎

 ‎「大丈夫かいノロ君少し落ち着いて深呼吸でもしてみよう。はい吸って~吐いて~またすぅーふっ」‎

 ‎「なんだか子供扱いされている気がするんですが気のせいでしょうか…… まあ少し落ち着きましたありがとうございます。」 と笑顔を見せながら言うものの、先ほどまで聞いた話が衝撃的すぎて心穏やかではなかったりするノロ。 ‎

 ‎「それで僕これからどうすればいいんでしょうね……」‎

 ‎「君はまだ体調が完全に治ってないだろうから、まずはゆっくりと休んで体力回復‎に専念するといいぞ、焦って動いたところで良くなるものじゃないだろうしな……」

 こうして、しばらく療養していたノロは、体力も回復し、旅立つことになった。

「ほら、これだけあれば、ある程度何とかなるだろう」

 アルクは必要な武具や道具、お金をノロに与える。

「ノロ君、いってらっしゃーい!」

「困ったら、またここに寄るといい」

「わかりました」

 こうして、ノロはこの世界を冒険者として生きることになった。

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