第7話 恋バナ







 早速作業が始まった。



 まず、美優を含めた女子全員で、折り紙を使った飾りを手作業で作る。


(こんなの……1人でできるわけないじゃん。馬鹿じゃないの?)


 美優はそんな風に思いながら作業を進めていた。

 作業と言っても、折り紙を「折って、切って、貼る」ただそれだけなので、同じことの繰り返しだ。そういう時、自然と会話は弾む。その話題は、修学旅行では定番の恋バナになった。「クラスの男子と付き合うなら誰が良いか」という話題だ。


(ちょっと答えにくいな…)


 美優は内心この話題に乗り気ではない。それでも一応会話には混ざっていた。


「恵美は誰がいいの?」


 そう聞いたのは小林春香である。美優たちの親友、とまではいかないが、彼女たちとは最近仲良くなった人物だ。セミロングの黒髪を三つ編みで纏めており、眼鏡をかけている。見た目は地味だが、中身は明るい印象だ。


 恵美は「うーん」と唸りながら、冬夜の方を見て春香の質問に答えた。


「まぁ矢島は無いっしょ。眼鏡で髪の毛長いってダサいし。ってか、話したことないからよくわからないし。何ならさっき初めて声聞いたくらいだから」


「確かにねぇ」


「でしょ?」


 そう言って恵美と春香は笑っている。さっきまでの美優は、彼女たちと全く同じ感想だった。でも、冬夜は意外と話しやすくて優しい。それを知った美優は、その言葉にあまり賛同できずにいた。


 しばらくその話題で盛り上がると、2組の実行委員である雪菜がふとした疑問を呟く。


「実行委員ってこんな仕事あったんだね、知らなかったよ。美優ちゃんは知ってた?」


 雪菜とあまり話したことのない美優は、突然の質問に戸惑ってしまう。

 雪菜は美優と同様、2組では少々目立つ存在だ。長い銀髪とその素肌は、冬に降る雪を連想させる。その見た目がファンタジー世界の妖精を想起させることから、男子生徒は陰で「エルフ」などと呼んでいた。


 実のところ、美優も雪菜と全く同じことを思っていた。「何で矢島が知っているんだろう」とさえ思っていたのだ。


「ううん。矢島に言われて、そんなのやるだって感じ」


「何だお前ら、知らないのか?」


 そう言ったのは葉月だ。冬夜と仲の良い葉月は、その理由を本人から聞いていたのである。


「日村さんは何か知ってるの?」


 春香がそう聞くと、葉月は「まめには口止めされてるんだけどなぁ…でもあいつ、ほっとくと抱え込むからなぁ」などと独り言を呟いていた。少しの沈黙の後、葉月は頭を掻きながら「実はな」と説明を始める。


「学年主任の田中っているだろ? まめ…じゃなくて、冬夜はあいつに嫌がらせを受けてるんだよ」


「え、どういうこと?」


 意味がわからない、と恵美が質問をする。葉月はそれに答えるため、もう少しだけ詳しく話をした。


「冬夜のお姉さんが昔この学校にいたらしいんだが、その時に田中と揉めていたらしい。そのせいで冬夜に嫌がらせをしてるんだと」


「じゃあ、矢島くんだけが実行委員の仕事を知っているのって…」


「さぁな。田中が冬夜だけに伝えて、他には言ってないんじゃ無いか? 他の実行委員の説教だって、この仕事を全部押し付けるためだろ、多分」


「でも、それなら矢島くん…何で相談しなかったのかな?」


 由里香の疑問はもっとものこと。美優もそう思っていた。でも、今までの自分の言動を思い出すと、相談したくてもできなかったのかも知れない。


「まめは頑張りすぎるからな。誰にも迷惑かけたくなくて、何でも1人で抱え込むタイプだし。ふっ、あんなんだと、そのうち倒れるだろうな」


 葉月が冗談めかしてそう言うと、遠くで「やじさん? やじさん‼︎ 大丈夫⁉︎」と言う叫び声が聞こえた。


 全員が一斉にその方向へと視線を送る。


 美優の目にまず映ったのは、冬夜が倒れている姿だ。その冬夜に向かって、裕樹が必死に声をかけている。


「…マジかよ、本当に倒れやがった」


 葉月の小さく呟く声が、美優にははっきりと聞こえていた。





 

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