紐なしバンジージャンプ

大入道雲

エピローグ

 東京タワーの頂上にしがみつく。小さい頃は木登りとかが得意だった。そうじゃなかったら途中で落ちてた筈だ。


 体を支える手には、メンテナンスされていないせいで錆や経年劣化が起こった鉄板が食い込んで血を流している。いつもなら破傷風なんかが怖いところかもしれないが、今日の俺は違った。


 秋の空は寒い。風が吹き付けるたびに感覚がなくなって手を離してしまったみたいに錯覚させられる。

 どうせなら面白いポーズで落下したかった。911のなんとかマンみたいな感じで。そうすれば多少の話題にだってなるかもしれない。ただ頂上まで登ったせいで、下にならほど直径が大きくなるから器用な落ち方はできそうにない。

 ふと、今までの人生を思い出した。俺の人生はいつもこんな感じだった。無駄な頑張りをして結果を損ねる。

 俗に言うドジっ子というやつか。自分を題材にしてヘタウマな漫画を描き上げてTwitterにでも掲載していれば一儲けできたかもしれない。


 雲の隙間から太陽光が俺を射す。眩しすぎて目を瞑る。瞼の血管が透過した。きっと目を開けたら黒い点が視界にずっと浮かんでる。飛び降りてる最中に気になりそうだ。

 治るまで待とうか・・・。いや、あの現象が治る時間を測ったことがない。感覚的に十分程度で治る気がするが。


 ふと、そういう面倒が面倒になったからこんな事をする羽目になっているのを思い出した。やりたい時にやれるのが飛び降りの利点だ。

 あと、準備が少ないのもかなり良い。煉炭とかは馬鹿だから仕組みがわからない。それに楽だと聞くが信用できないがちだ。煙を吸うときの不快感がタバコとか焼畑とかで染み付いているからかもしれない。

 あと首吊りも良いと聞く。ギロチンだって利用者のことを考えて作られているらしいしその論を考慮すると、現在、日本国が実施している計画殺人の手段である首吊りは利用者に優しいとも考えられる。


 だが絵面がエグい。し、かっこよくない。体内からいろんなモンが出るとも聞いたことがあるし。だから、飛び降りが良い。

 ショットガンとかは狙いすぎだ。ロックスターとかならまだしも平均的日本人がそんな死に方したら、丈が合ってないスーツを着てるみたいな間抜けさがありそうだ。


「あ、カラス」


 はるか彼方にカラスが見えた。

 俺はそれめがけて足を踏み切った。カラスが好きだからだ。生まれ変わったらカラスになりたい。そう思ってる。生まれ変わらなけりゃそれが一番良いが。

 万能感にも似た浮遊感覚。

 体は落下を開始する。


「あ、天使」

 天使を見つけた。

 自分でも幻覚だと思うが、サイゼリアとかで書かれてる絵画のアレにそっくりな天使が見える。


「まだ死ぬ時ではありませんよ」

 天使がそんなことを言った気がする。

 俺の体は光に包まれて物理法則を無視した浮遊を開始した。

 俺を先導するように浮遊する天使が時折俺を振り返る。


「ご自宅は?」

「あー、自分田舎から新幹線で来たので結構遠いんですよ」

 おんぶされてるみたいな安心感がある。


「この速度だったら何分くらいかかりますか?」

 天使は手に持った弓を適当に東京の街に打ち落としながら聞いてくる。

 速度に気を向けると、小学生が走らせられキックボードみたいな速さだった。どう考えても複雑な計算が必要になるが、感覚で答えを探る。


「大体、二週間くらいかと」

「あ、じゃあいいです」

 天使が目の前から消えた。

 

 下を見ると白い海みたいな東京の街並みが広がっていた。

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紐なしバンジージャンプ 大入道雲 @harakiri_girl

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