第9話

「あのね、れな大きくなったら、りと君のお嫁さんになる!」


 デヘヘとだらしなく笑う小さな私。初めて出会ったのは小学校の初登校の通学班で同じだった時。

整った顔立ちに幼さから女の子に見えなくもない。初めて目が合った時のビリビリッとした感覚。大人になった今思えばあれが運命の出会いの知らせなのか。

いや、やっぱり運命だと思う。小中学と高校までずっとクラスが一緒だったし家もほとんどお隣さんと言える。


「あんたのそれは腐れ縁じゃなくて?」


友達に言われた言葉。腐ってても縁があるなら私はそれでも嬉しい。


 小学校の時はお互いに友達の関係で中学に上がると微妙に距離感が難しくなったなぁ〜

やっぱり思春期って難しい。けどね、莉斗は目立たない様にしてたみたいだけど女子からは人気があったんだよ?


「ただの幼馴染だよー」


 なんて事は私は言わない。隙を与えたら誰かに取られちゃうかも。最近の中学生ともなればだいぶおませさんなのだから。

そしてクリスマスの日に思いきって誘ったデートで告白してくれた莉斗。本当は私から告白しようとしたのに…いつもさりげなく気がきくんだから…

あっ、大きくなってもデヘヘとだらしなく笑う私。

人生で一番嬉しかった。この気持ちを越えるのはプロポーズの時だろうか?


 それから同じ高校に進んだ私達。見事にバカップル認定。文化祭で観せた創作劇、アドリブで本当にキスしちゃった私。観客からキャーキャーと黄色い悲鳴、セリフを忘れて呆然としてる莉斗。今となってはいい思い出でしょ?


「あんた達はいつも一緒にいて飽きないの?」


 えっ?飽きるの?好きな人の側って1番落ち着く場所なのに?


 そして大学生。あーあ、同棲してみたかったなぁー。と言っても莉斗の家に入り浸ってた私はほとんど同棲と変わらないか。

莉斗の寝顔を見てる私。やっぱりだらしない私の笑いは変わらない。


 ねぇ莉斗?私はまだあなたから大事な言葉もらってないよ。だから起きてお願い…

病院のベッドで冷たくなったあなたの胸に顔を埋めて泣く私。この時から私のだらしない笑いは無くなった。


 ポッカリと心に開いた大きな穴。それでも私は生きていく。この年になるまで何人かの方に告白された。中にはいい人も真摯な人もいたかもしれない。でもね、運命の人を知ってしまっている私にはとてもお受け出来なかった。



「田口さん、私が亡くなったらこのマフラーと髪留めを棺に入れてくださいませんか?」


老人ホームでお世話になっている介護員の方にお願いをする。


「海月さんはまだまだ元気なんですから、そんな事お願いしなくても大丈夫ですよ」


 そんな事を言いながらも私の願い事を了承してくれた。自分の死期はなんとなく感じる物だと今はわかる。あの時の莉斗もこんな気持ちだったのだろうか?最愛にも私には残していく人が居ないのが救いだけれども。

今までありがとう。あなたの言葉ちゃんと聞こえていたよ。

あの世で逢えるのなら


「どういたしまして」


って答えてあげよう。あの世が亡くなった時の年齢のままの姿なら90歳手前のお婆ちゃんになった私に気づくかな?私の中の莉斗はあの時のままの姿だから私が見つけてあげよう。


 ちょっと今日は疲れたかしら?少しお昼寝しましょう。そのまま私は深い眠りについた。

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