第43話 逮捕
まん丸く、鮮やかなな紅をしている。大きさはごま粒ほど。
これが薬師如来様の薬か。あらゆる病を治すという高貴な薬。
恐る恐るその薬を手にしようとした時。
慌ただしい音と共にラベンダーが駆け込んできた。
「オーロラ様大変です!!」
「何事なの?」
「今王室の兵士がきています」
「なぜ」
「サワートさんが違法に医療行為をしたと拘束されたそうです。共犯者として私たちの名前があがったって」
何だと。
窓の外を見ると兵士に囲まれたグナシが、何やら言い合いをしている。やがて一人の兵士がグナシを何処かへ連れ去る。
まずい。
門から兵士が入ってきて、ドンドンと複数で扉を叩く。
「おい、ここの者!!王命だ、すぐにここの扉を開けろ!!」
男の野太い声が屋敷に響く。
不安の表情を浮かべるラベンダーに急いで扉を開けるように言う。
「聖女様逃げた方が」
「逃げるってどこへよ。女二人でどうやって兵士たちから逃げるのよ。それより私はやることがある。いい、指示に従えば乱暴はされない。扉を開けて応対して。なるべく時間をかけてね」
コクコクと黙ってうなづくとラベンダーは部屋をでた。
「今伺います。お待ちくださいませ」
ラベンダーの凛とした声が響いた。
急げ、時間がないぞ。
俺は急いで床の隠し扉を開く。
実は広間の床には隠し扉があった。
ラベンダーが床にスープをこぼし、それを吹いている時に偶然見つけたのだ。
床が一箇所だけ僅かに色が違ったのだ。それはじっくりと見ないと気づかないほどに。
開けた時は空っぽで、おそらく元の家主が金目のものでも入れていたのだろう。
俺はそこに急いで仏像を隠した。
これは見られてはならない。
仏様、このような場所に隠すことお許しくださいませ。
しばしの辛抱でございます。
しまい終わると、ラベンダーの元へと向かおうとした。
扉を開けようとするとそこに兵士が3人立っていた。
「オーロラ・ナスカ。その侍女ラベンダー。両名を王命により拘束する」
真ん中の人一倍大きな兵士がそう叫ぶと、「はっ」返事をして他の二人が俺たちを家の外へと連れ出す。
「これからどこへいくんですの?」
「いいから黙って歩け」
ぞんざいにそういうと、俺とラベンダーに囲うように兵士が立つ。
大人しくしてれば乱暴を働く気がなさそうなので、黙って歩いた。
森の中を進む。
なんだかんだで、この幽閉中は屋敷からほとんど出ることはなかったな。
幽閉された時きた道を戻る。
枯れた噴水や朽ちた庭が目に入る。
二ヶ月足らずの出来事であったが、遠い昔の様に思える。
そしてもう二度と見ないかと思った観音開きの門が鈍い音を立てて開く。
ぐぐぐーーー。
久しぶりに娑婆に出たような気分だった。
森から出ると心なしか、気温が高く日ざしも強く明るかった。
ラベンダーが思わず目を細めた。
「ぐずぐずするな」
「あの・・・グナシは・・・」
「あいつも拘束されてるぜ。あんたらと共犯なんだろ?」
「違います。グナシは関係ありません。解放してあげてください」
「うるせーな。俺に言っても無駄だよ。俺たちは命令されただけなんだよ。ほら馬車に乗れ」
クイっと顎で場所を示す。
馬車と言っても宮殿で貴族が乗っていた様な豪華な装飾が施されたものではない。どちらかといえば単なる荷車だ。小麦やミルクを運ぶ様な、厚い布で仕切られているだけだ。
そこに乗れと言っている。
「宮殿内であんたらが歩いていたら目立つからな。こっそり連行せよとのお達しだ」
言われるがまま乗る。当然座る様な椅子などはなく、荷台に膝を抱えて乗る。
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