第12話 悪意
「ごきげん麗しゅう、聖女様」
そう言って、目を閉じてわずかに膝を曲げた。
一人はオーロラと同じく金色の髪、だがオーロラの透けるような輝く金ではなく、黄金のようなずっと濃い金色だった。
そしてもう一人は翡翠のような髪色をした若い女性だった。
二人は優雅に扇子で仰いでいるが、優雅に見える事を重視しているのか、波打つように手首を動かしている。てか、全然風届いてないけど。
暑くて仰いでいるわけではないらしい。
誰だ?この二人は?
俺は迷子の子供のようにラベンダーに助けを求めた。
ラベンダーは優雅にお辞儀をして「ごきげん麗しゅうマリアン王女、フェリナ様」
マリアン王女?フェリナ?どっちがだ?
ポカンとしている俺にラベンダーが早口で耳打ちする。
「オーロラ様、お二人にご挨拶を」
挨拶だって?
なんて言うんだ。
今日は、元気?調子はどう?景気は?
まさかな。違うだろうな。
「ごきげん麗しゅう、マリアン王女、フェリナ様」
見よう見まねで、膝を曲げて頭を下げた。
「聖女様、お身体はもう宜しいので?」
「とても心配しておりましたのよ」
「えっ、まあお陰様で」
「お急ぎですの?いや、今日はまた随分と大股で力強く歩かれてましたので」
二人はそう言うと扇で口元を隠してくすくすと笑う。
げっ。
見られてた。
力強くなんていちいち言わなくてもいいだろうが。
二人とも親しげな口調だが、どこか棘を感じる。
「オーロラ様、そろそろお祈りのお時間でございます」
さすがラベンダー!
困っている俺に助け舟を出してくれた。
「そうね、では祈りの時間ですので失礼いたします」
「まあ、祈りの時間でしたの。あら、聖女の正装でしたわね。気づきませんでした。ごめんあそばせ」
「こうして私たちが平和に暮らしていけるのも聖女様のおかげでございますわ」
金髪の女の鋭い瞳が俺をとらえた。
しっとりと微笑んでいるが、その奥にある醜い残酷さが俺を射った。
さ、急ぎましょう、ラベンダーに手を引かれ俺たちはその場を離れた。
二人は去り際の俺たちに聞こえよがしに言った。
「全く都合の良い時期にあの事件なんて」
「あの者の祈りなど、何の効果があるんでしょうかね」
都合のいい時期?
なんの話だろうか。
「ラベンダー、さっきの二人は?」
「翡翠色の髪がマリアン王女です。リース王子とは従兄弟同士です。と言ってもマリアン王女の母上は正室ではございませんが」
「で?金髪の娘は?」
「フェリナ様です。お父上は第一騎士団、団長マウク卿です。戦の功績により称号をいただいています」
つまり側室の娘と功臣の娘か。
宮殿で大きな顔をするには十分な肩書きと後ろ盾だ。
だが、なぜ聖女の俺を目の敵にしていたのだ?
わからぬ。
特に金髪の娘、王女より落ち着いた身なりをしていたが、その抜きん出た美しさは隠せない。
だが、その美しさの下にしたたかな野心を感じた。
気をつけた方がいいと、直感でわかった。
「あまり好かれてはなかったようだけど」
「嫉妬なさってるんですよ」
「嫉妬?私の美しさにか?美しさは罪なものだな」
冗談で言ったつもりだったが、ラベンダーは真面目な顔でそうですねと言った。
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