第11話
初めて宮殿をでた。と言っても庭だけど。
この数日はほとんど部屋に篭りっきり。
久しぶりに外で浴びる日の暖かやと眩しさが恋しかった。
さっきの頭突きのせいか、おでこが若干ヒリヒリする。
うふふ・・・と声がする方を見ると若いご婦人が3人、日傘を差し連れ立って散歩をしていた。
この3人だけでなく、庭には同じように連れ立って歩く者や、木に寄りかかり談笑する者。
忙しそうに庭の掃除をする使用人などで賑わっている。
使用人以外は皆、高貴な身分のようで、誰もかれも暇を潰すように着飾った服でのんびりと過ごしている。
奈良の日々とは大違いだ。俺や工房の仲間たちは日々、造仏に忙しかった。
それに民もまた度重なる戦、飢饉と疲弊して末法思想が流行っていた。
苦しい記憶が蘇る。多くの涙と血を見たあの日々。
それに比べてこの世界は・・・。
「皆幸せそうだ・・・」
「ええ、みんな安心して幸せに暮らしております。それもこれも全て聖女様と王様のお陰でです」
「・・・私も?」
「はい、聖女様がいなければこの国を浄化して豊かな実り多い大地は消えてしまいます。わたしたちにとって、聖女様はとても尊い存在なのです」
そうか、聖女の力でこの大地は浄化されていると言っていた。
ラベンダーはテキパキと俺をあの緑の服に着替えさせると、浄化の祈りをするために礼拝堂へと向かうと言った。
聖女の礼拝は数日に一度行われる。その際には聖女の衣装着替えるのが決まりとなっている。
すれ違う人々がみなこちらを見る。
男たちはマルクのような熱を帯びた目で、女たちはおしゃべりをやめうっとりとしたように、忙しそうにしていた庭師でさえ作業の手を休めこちらに見入っていた。
それもそうである。
緑茶のような緑色の服を着た自分を姿見で目にすると思わず「美しい」と呟いてしまった。
上質な光沢のある絹に、透き通るような肌。少女らしい小さな唇。
まさに天女のような美しさで、人々の目を集めてしまう。
「さ、早く参りましょう」
ラベンダーに手を引かれ、俺は礼拝堂を目指す。宮殿の敷地内でも端の方にあり、遠いようだ。
もしお疲れであれば馬車を頼みましょうか、と聞かれたが訛った体を動かしたかった。
風が抜けて心地がいい。
風に乗って緑や土の匂い、わずかに柑橘系の果実の香りもする。
うーん。
イライラ・・・。
いたい。歩きにくい。
細身で踵の高い靴が歩きにくく、足が疲れる。つま先が痛い。
おまけにこの長いドレスと呼ばれる服がひらひらと足元にまとわりつく。
貴族の十二単の姫さま方のように、歩幅が狭く、少ししか進めない。
ええい歩きにくいったら、仕方がない。
ぐばっ。
俺は思っ切り足を広げて、ドスドスと大股で歩く。
靴下と呼ばれる足袋のようなのも履いたが、裸足に草履じゃダメなのか?
足元なんてそうそう誰も見ないだろ。
「ごきげんよう」
ドスドスと威勢よく歩いていると、横から甘い声がした。
ピタッと足を止めると、若いご婦人が二人こちらを見ていた。
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