第7話 初めての入浴

 日が沈むと突然部屋にあった蝋燭に一斉に火がつく。

 窓の外の松明にも同時に明かりが灯る。

 どういう仕掛けなのだ。随分と文明が進んでいるようだ。

 呆気にとられていると、「あ、もう夜ですね。魔道士が明かりをつけたのでしょう」

「魔道士?」

「毎日夜になると魔道士が宮殿の明かりを全てつけてくれるんですよ」 


 ふーん、なるほど。

 まあ、そこまではよかった。

 だが次に言われた言葉に、思わず聞き返した。


「今なんと?」




 ラベンダーに声をかけられたが、思考が停止した。

 頭真っ白。

 どうしていいのかわからず、ただ扉の前で立ちすくんでしまった。


「ですから入浴のお時間ですわ」


 白い部屋には陶器でできている湯船が置かれ、もくもくと蒸気が立ち上っている。

 ふ、風呂だと?

 風呂と言っても蒸し風呂ではない。この湯船に浸かるということ。

それはつまりーーー。


「裸になるってことかーーー!!!」


 思わず胸を隠すように両手を胸の前で合わせた。


 なんてことだ。この女人の体で裸になるのか?!

 女を知らぬ男がいきなり若い娘の裸を見てしまうなんて。

 動揺が隠せない。

 変に鼻息が荒くなる。


「オーロラ様?」

「なんでもないわ」


 声が上ずった。

 なんでもないわけがない。

 どーしよ、俺。

 女の体など知らぬぞ。


「お医者様からも許可が下りてますし、三日間入浴されてないのでさぞかしご不快かと思います」


 そりゃ、身体がベタッとするし気づかないけど汗臭いかもしれない。

 でも・・・と渋る俺を前にラベンダーが胸を張る。


「もちろんお手伝い致しますのでご安心を」

「手伝い?!」

「はい、お背中を流したり、お体を拭いたり、お召し物のお着替えをしたり・・・」


 体を拭いたり・・・着替えを手伝ったり・・・それもこんな若い娘が・・・。


 湯煙の中、顕になる女体。

 上気させた裸の美女のそばに侍女がぴたりと寄り添い、手ぬぐいで肌を撫でる。その手は腕、背中、そして主の女性と向かい合わせになると、小さく会釈して胸へ手を伸ばす・・・・。


 いかん!!

 頭がくらくらする。心臓だけでなく、頭ん中の血管まで切れてしまいそうだ。

 だめだ、無理だ。


「いえいえ大丈夫、全然平気。お手伝いは不要よ。自分でできちゃうから私。今日はゆっくり一人でお風呂に入りたいっていうか、息抜きしたいっていうか。とにかくちょー余裕だからね。じゃあね!!!」


 そう言い放つとラベンダーも勢いに押されたようで、では扉の前で待っていますと伝えた。

 強気に言ったはいいが、いざ一人で裸になるとは。

 ラベンダーに手伝ってもらい、豪華な服を脱いで今は肌着姿だ。これを脱いで風呂に入るのだ。

 心拍数が上がり、風呂の熱気のせいなのか分からぬが体が暑くなってきた。

 

 どうせ脱ぐなら、一思いにいこう。 

 俺はできる男だ。

 いざっ!!!!


 といいつつ、目を瞑って肌着を脱いだ。風呂場の湿気がぺたりと何も纏わぬ肌にまとわりつく。

 恐る恐る目を開いた。初めて目にした女人の裸体。


 ふるんと揺れる形のいい乳房に、滑らかな雪のような肌、きゅっと細いくびれ。


 ぐほっ。


 一瞬気が遠くなったが、片頬を叩き気合を入れる。


 ふー、だ、大丈夫。

 俺はできる男だ。

 女の体なんてそう、男とちょっと違うだけ。ほとんど同じ。

 男だって乳首はあるし、尻もある。

 湯船に入ろうと体をかがめた時。


 ゆさゆさ。


 胸が揺れた。そして目に入った男とは形の違う下半身。

 ドシュッ。ドシュッ。

 同時に頭と心臓を矢で撃ち抜かれたような刺激だった。

 降参・・・・。

 意識が遠のき、その場で気絶した。


 その後、結局俺は自分の体をまともに目にできなかったので、ラベンダーに入浴を手伝ってもらった。


 

  

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