RPG風乙女ゲー世界に転生したら、裏ボスが仲間になった

@NEET0Tk

第1話

「どうしてだろうか、最初はただの平民と思っていた君が、今では宝石よりも輝いて見えるよ」


『恐れ多いお言葉です』

『こんなに嬉しいことはありません』

『fa●k you』


「……」


カチリ


「ーー」

「な!!お、王子である僕になんて言葉を……だが、そんな君だからこそ好きになったのかもな」


『(王子に抱きつく)』

『(王子を突き放す)』

『(ピーーーーーーーーーーーーーーー)』


「……」


カチリ


「そう邪険にしないでくれ。僕は本当に君をーーな、なんだ、急に空が」

「ーー」

「ああ、僕も同じ意見だ。きっとこれは魔王の復活に違いない。一国の王子として、僕は魔王を倒さないと」

「ーー」

「だが君が怪我を負うなんて」

「ーー」

「決意は……硬いんだな。分かった、共に魔王を倒しに行こう」


こうして二人は悪しき魔王を倒しに行くのであった。


「……」


死んだ目をした男は画面の景色を見て一言


「こんのクソゲーがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


叫んだ。


「ふざけやがって!!俺をバカにしているのか?」

『ああ、そうだ』

「死ね!!!!」


マウスを投げ、途端にゲームに本気でキレてる自分が恥ずかしくなる。


「お、落ち着け俺、興奮し過ぎだ。いくらこれがクソゲーだろうと、そこまで本気にーー」

『お前は馬鹿か?』

「誰が馬鹿じゃこんの馬鹿がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


キーボードを叩きつけ、さすがに冷静になる。


壊れないよな?


「大丈夫だ俺。もうすぐでこのゲームともおさらばなんだ。魔王さえ倒せばきっと」


乙女ゲーなのに魔王が登場するのは謎だが、覚醒した主人公の力でコイツに止めを刺せば終了だ。


「ヒャハハハ、死ね魔王!!」


どちらが敵キャラか分からないが、俺は渾身の笑い声と共に主人公の必殺技、『究極アルティメットバースト』をお見舞いする。


そして


「やった」


魔王が崩れ落ちる。


「遂に俺はクリアしたんだ」


感動のあまり涙が溢れる。


「やっとこの呪縛から解放されるんだ」


そもそも何故俺がこのクソゲーをしているかといえば、友達との罰ゲームの末にネットで話題のゲームをクリアするという地獄が与えられたからだ。


「よし証拠写真を送ってと。はぁ〜、やっと解放された」


画面には主人公と攻略対象のその後のエピソードと共に、スタッフロールが流れている。


こいつらが俺に地獄を見せた張本人達か。


「名前だけでも覚えておいてやる」


一旦休息のために、溜まりに溜まったヤバい飲み物に口をつける。



「ストーリーはクソだったが、戦闘は面白かったな」


恋愛対象が女である俺にとってストーリーはあれだが、戦闘面ならRPGとして売り出せばそれなりに売れたかもしれないな。


「いや」


やっぱりストーリーがクソすぎてダメだ。


攻略対象者の殆どが無能のポンコツすぎる。


あいつらが今後の国を支えると思うと、俺は全力で国を逃げ出すな。


「ま、そんなこと考えたところで後のことが分かるわけ……なんだ?」


スタッフロールが終わったかと思えば、突然画面には


『裏ボス戦に突入しますか?』


赤い文字が刻み込まれていた。


「裏ボス?」


……へぇ


「いいじゃん」


一度乗りかかった船だ。


確かにクソみたいなキャラに、クソみたいなストーリーだったが、きっと俺には


「最後まで見届けてやる責任がある」

「では」


それが


「あ?誰だ今の声?」


俺の


「あなただけの物語を」


現世での最後の景色だった。


「見届けてください」


◇◆◇◆


「エル、起きて」

「ん?あ、ウェン、悪いね今日も」


相変わらずイケメンに起こされる。


「もうみんな食堂に集まってるから」

「ん?ご飯?僕は一人暮らしのはずだけど」

「どうしたんだエル。変な夢でも見た?」

「え……あ、そうだ、僕は孤児だから、みんなと暮らしてたね」

「しっかりしろ、今日もシスターが美味しいご飯を作ってくれたよ」

「う、うん、そうだ……な」


なんだ?頭がぼんやりする。


「ねぇウェン、ここって日本じゃないよな」

「ニホン?なにそれ。箸の数なら2本だけどね」

「そういうことじゃ……」

「なぁエル。本当にどうしたんだ?」

「ぼれは一体……」

「ぼれ?」


頭に強烈な痛みが走る。


「僕、あ…いや、俺は……」

「大丈夫か?シスターに少し診てもらおう」


そして


「そういうことか」


思い出す。


「いや、大丈夫だ。悪いけどウェンは先に食堂行っててくれ」

「分かったけど、何かあればすぐに言えよ」

「安心しろ」


ウェンが心配そうにこちらを見ながら走って行った。


「さすが、唯一攻略対象の中で好感が持てたキャラだ」


記憶が鮮明になる。


「まさか本当にあるなんてな」


俺は思い出す。


「転生したのか」


前と今の記憶が合致する。


「あのクソゲー世界に」


俺の名前はエル。


前世が学生のただの一般通過孤児だ。


緑色の髪が特徴だが、この世界からすればみんなカラフルすぎて特徴と呼べないかもしれない。


「顔も普通だな」


前世基準でいえばイケメンだが、この世界の顔面偏差値は前世の30は上であろう。


道端に俳優やモデル、クレオパトラや真珠の耳飾りをした少女が歩いているといえばこの凄さが分かるだろう。


「おはようエルお兄ちゃん!!」

「エル兄今日は俺達と遊んでくれよ!!」


弟と妹達が押し寄せてくる。


「待て待て、まずは飯だ飯」

「エルお兄ちゃん?」

「なんかいつもとちげぇ」


どうやら俺の変化にみんな気付いたようだ。


「イメチェンだイメチェン。こっちの方がカッコいいだろ?」

「エルお兄ちゃんはいつもかっこいいよ!!」

「けどこの前サーニャがエル兄よりウェン兄の方がカッコいいって言ってた」

「ちょっとマイル!!」

「よーし、後でサーニャは俺と楽しくお話しような。その前に飯だ」

「「はーい」」


年長者である俺は大きなテーブルの一番奥に座る。


「遅くなったな」

「それは大丈夫だけど、エルなんか雰囲気変わった?」

「そういう日もあるさ」


すると奥の方から一人の女性が現れる。


「おはよう、エル、ウェン」

「おはようシスター」

「今日も相変わらず美人だな」

「エル?」


俺の言葉にウェンとシスターが目を丸くする。


「どうしたの?」

「シスター、今日のエルは少し変なんだ」

「そんなことないさ、俺はただ本音を言っただけだ。それよりシスター、みんな腹を空かせてるよ」

「そうね」


シスターが皆の方を向き


「今日も、神の祝福があらんことを」

「「「「「「あらんことを」」」」」」


みんながご飯を食べ始めた。


「シスター、食事中で悪いが一つ話を聞かせてくれ」

「何のお話し?」

「魔王について」


一瞬シスターの手が止まる。


「どうして……それを……」

「まぁなんだ。この前図書館に行った時チョロっとな」

「そう……」


シスターは少し躊躇った後


「魔王は、この世界を破壊する者。ダンジョンの奥深くに封印されてるけど、今なおいつか復活されると言われているわ」

「どうして倒さないんだ?」

「それはね、魔王を倒すには聖女様の力が必要だからよ」

「なるほどね」


よかった、ゲーム通りだ。


「もしさ、魔王が復活したらどうする?」


俺の質問にシスターは躊躇わず


「子供達を逃すわ」

「シスター」


その言葉にウェンが反応する。


「僕達はシスターがいなくなったら嫌だから」

「ありがとう、ウェン」

「お熱いなウェン。もしかしてシスターが好きなのか?」

「え!!いや!!これはあくまで親愛であって!!」

「もうエル、ウェンを揶揄っちゃダメでしょ」

「悪い悪い」


重い話をさせてしまった分、これで少し気持ちが軽くなったかな?


「エル兄ご飯食った!!」

「遊ぼー」

「もう少し待て、てかお前らちゃんとよく噛んで食ったんだろうな!!」

「百回噛んだ!!」

「俺は千回!!」

「じゃあ俺は……おい、千の次ってなんだ」


俺は急いで飯を食う。


「自分はよく噛んでないじゃないか」

「俺らはいいんだよ、もうそんな歳じゃないからな」


椅子から立ち


「よーし遊ぶか」


いつも通りの日常を送った。


◇◆◇◆



皆が寝静まり、昼間の光景が嘘のようであった。


「準備はこれだけでいいか」


俺の今の年齢は15歳。


もうすぐで学園へと入学することになる。


それはつまり


「ゲームのストーリーが始まる」


この世界は乙女ゲームとほざいているが、中身はゴリゴリの戦闘ゲームだ。


初見殺しの敵やトラップが多く、セーブを前提としたゲームのため、俺は何度も死んでは同じストーリーを繰り返し見る地獄を味わった。


「やっぱりクソゲーだったな」


そしてこの世界ではおそらくセーブ&ロードなんてものは存在しない。


そしてあるあるパターンだが、このゲームの主人公は最後に聖女として覚醒する。


それまでに死んでしまえば、きっとこの世界は滅んでしまうだろう。


「うっし」


準備を整える。


「あれ?エルお兄ちゃん?」

「あぁ起こしちまったか」

「どこか行くの?」

「ちょっと軽くトイレにな」

「そっか」


寝ぼけていたサーニャは可愛らしい寝息を立てる。


そうだ


お前らは何も知らなくていい。


「任せとけ」


俺は孤児院を後にした。


◇◆◇◆


ダンジョンとは


簡単に言ってしまえば宝の山だ。


中にはオーパーツのような今の技術では再現出来ない物が溢れており、中にはそれ一つで一生遊んで暮らせるような代物もある。


だが簡単にいかないのがこの世の摂理。


ダンジョンには危険なモンスターやトラップがゴロゴロと存在しており、宝を守るように欲に釣られた人間達を笑顔で殺殺する。


ダンジョンはそれぞれ階層があり、下に進めば進む程お宝が豪華になるが、それを守るようにモンスターも強力になる。


「まるで人間の業を形にしたみたいだ」


そんなダンジョンに俺は足を踏み入れた。


もちろん目的はお宝じゃない。


「早速か」


目の前には二匹のモンスター。


見た目はゴブリン、所謂雑魚と呼ばれる部類だが


「多分俺の方が弱いよなぁ」


正直めちゃくちゃ怖い。


もしこいつらが持ってる棍棒がどこかにダイレクトで当たれば、俺は殺されてしまうのだろう。


だけど


「い、いくぞ!!」


俺は護衛用に孤児院にあった鉄の剣で


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


斬りかかる。


「ぶぎゃ!!」


ゴブリンが驚きながら、剣を防ぐ。


結果


「な!!」


剣が棍棒に刺さり、抜けなくなる。


「おい!!離せ!!」


剣を引っ張るが、ゴブリンも棍棒を離さない。


そりゃ離したら死ぬけど、俺だって命懸けなんだぞ?


そして気付く


「クソ!!」


もう一匹のゴブリンが迫ってきてる。


今の俺は武器なし。


リーチ差で俺はまともにダメージを食らうだろう。


そうなれば


「ゲームオーバーだ」


俺は咄嗟に手を離し、ゴブリンは勢いよく後ろに倒れる。


そして倒れたゴブリンの顔面を上から


「きっしょ」


足に感じたことのない気持ち悪さ。


初めて俺は、自身の手で何かを殺した感覚を経験した。


「切り替えろ!!」


俺は剣を引き抜き、襲ってきたもう一匹を


「悪いな」

「グガガ」


剣から血が垂れる。


「……生きてる」


殺し、生きた。


「……行こう」


俺は歩み続けた。


◇◆◇◆


「見つけた」


剣の切れ味がダメになってきた頃、俺はついに目的地についた。


「もう二度とこんな場所こねぇ」


初めてゲームキャラを尊敬できた瞬間であった。


「このスイッチか」


このスイッチはゲームの最初のイベントで、主人公と攻略対象者が二人でダンジョンに潜る。


その時、攻略対象者……長いから今後はバカということにしよう。


そのバカがこのスイッチを押し、即死級の階層まで一気に飛ばされる。


攻略法さえ分かれば簡単に脱出出来るが、初見じゃ絶対に分からない。


だが


「俺なら知ってる」


このトラップは一度作動すれば今後数年は出てこない。


つまり今の内に潰しておけば、主人公が安全に成長することが出来る。


「さて、それじゃあ」


俺はスイッチを押した。


それが


『対象検知、人数1名、脅威度1、階層レベル99、称号魔王を倒せし者を検知』


「おい、ちょっと待て」


不穏な気配。


『コードを確認ーー承認。管理者にアクセスーー承諾。これより、対象を第9999階層に転送します』


「ダメです」


『ご武運を』


「待て待て待て待て待て待て」


ゲームで魔王倒したのが99層だよ?


なんだよ9999って!!


インフレしすぎだろ!!


アホなの?嫌クソゲーだったわ。


「あー死んだー」


体が光を放つ。


『どうかよろしくお願いします』


そして


「地獄って綺麗だな」


壁には数々の黄金で彩られており、そこにはなんか凄そうな像が何体も立っている。


そして、俺の目の前には円形のフィールドがあり、その中心には


「久方ぶりの侵入者ですね」


銀髪の髪、何で出来ているか分からない鎧に、なんかやばそうな槍を持った、白い翼を広げた女性。


「あ、これ」


俺は察した


「裏ボスだ」


しかも


「負けイベだこれ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る