朝はカラッとしていたい!〈SF短編〉

おみゅりこ。

両親と片想いの人がヤベぇ奴だった私はどう振る舞えばいいんですか!?

 私の名はそねみ! 干拓地出身の離島育ち! 都会に憧れるも諦念が憚り帰国子女を目指すも両親の風土的な問題に晒され再び諦念! よろしくデス!

「やれやれ、今日日そんな一昔前の漫画に出てきそうな感じの外国人キャラクターを演じる輩が居るというのか」

「へぇ、『エビデンス』は?」


 それにコイツ誰だろう? ま、それにしたってこの物語は私の小さな恋物語を主軸にし、その皮をかむりつつも全宇宙に風呂敷をおっぴろげていく、そんな感じの物語!


 彼女は自然愛好家だった。それゆえに自身の出自を呪った。家も、あの公園も、学校すらも。人工的に干上がらせたか埋めたてられたかは定かではないが、事実を知り目眩を覚えたのは随分と昔。色々考えを巡らせたが、純然たる自然とは何か? という疑問にぶつかり再び諦念。畢竟人間基準。が、文明を否定したいわけじゃなし。要するに、どこにでも居る普通の女の子。ごくごく普通(干拓ギャグ)。


 懇願に懇願を重ね合わせ、ついに両親をへし折る。離島への引越し。そして新生活のスタートだ。

 転校初日、彼女は涙で瞼を真っ赤にしながら帰途につく。干拓地出身を揶揄されたのだ!

先生は言った。

「おや君ぃ、あすこののっぺら大地から越してきたんだねぇ……いけんねぇそりゃいけんよ」


 ……?


(冷静に考えたら先生は予め私の出身を知っていたハズ……だのにどうしてあの重要な最初の挨拶の場でわざわざ馬鹿にしてきたのか。理屈も何もない意見だし……あとのっぺら大地ってなんだよ!)


 晩御飯のハンバーグを食べ終わる頃にはどうでもよくなっていた。友達ができたのだ。

キオミは一時間目が終わると即座に話しかけてきた。

「あの先生さぁ……なんかアレよねぇ……」

「はぁ?」

「私は山あいにある小さな道の駅の右斜め上辺りにある集落の左斜め上から二番目の家出身なんだけど、そねちゃんの気持ち、よう解るわぁ……」


バンッ!!(机を激烈に叩く音)


「いきなりそねちゃん呼ばわりかよ」教室が静まりかえる。


「……嬉しい!!」


 教室がざわめき(日常的な)を取り戻す。キオミは図書委員をやってるらしく、休日は山菜採りに明け暮れている奇人だとわざわざ独白してくれた。明日はどんな話をしようか。わらびとゼンマイの違いとかの話題でも提供してやろうかしら。などと考えてる内に眠りについた。


 目が覚めると、こんな離島に道の駅が在る事に対して沸々と疑念。この違和感がやがて何か重要な『ファクター』になるんじゃないかと妄想していたら母に叩き起こされた。

「あっ、そういやさ、お父さん仕事見つかったん?」

「道の駅に決まったわ」「そっかぁ!」

 とにかく学校だ。両親の世帯収入とかナントカとか今はどうでもいい。急いで靴を履いて玄関を出る。

 

「——えっ」


(どこ……ここ……)

 庭先から見える海も、島々も山も、全て平らな地面になっている! 脳が現実を受け入れられず、彼女は激しく嘔吐した挙句胃液までも吐き散らかした。


「そーちゃんどうしたん!?」母が駆け寄ってくる。

(何……コレ……)言葉が出ない。

(考えろ……この地面は自分家の地面の高さを基準にして少なくとも視界いっぱいに伸びている。それに元々家の部分より高い所は埋もれるようになりながらも形跡を残している。もしこの影響が地球全土に及んだ場合、海という海は埋めたてられてしまった。すなわち——)


「めちゃくちゃ簡単に海外に行けるじゃん!!」


「やれやれ、今日日このような状況においてそんな感想しか出ない輩だとは。僕は君に不知の自覚を促しにきた——」

「クラスメイトの曽倉くん。知ってるわ。教室の廊下側の前から三番目の子でしょ」

「ふん、物覚えがいいじゃないか。口周りが汚いからコレを使いたまえ」ハンカチスッ。

「意外と紳士ね……」←ここで恋に落ちる。

「はい、返すわ」ハンカチスッ。

「どういたしまして」ハンカチポケットにスッ。


「「……」」


「恐れていた事が、現実になってしまったわね」

 母が唐突に語り始める。その眼は過去とかに想いを馳せてる様相だった。

「初めは小さな影響だったわ。朝目が覚めると家の周りが土くれに変わっていて、日に日に広がっていったの。ほんの少しづつね。当時小さかった私は怖くって、あなたの様に引越しをせがんだわ。でも、そこでも同じ事が……」

「やべぇ……」

「君の危機感の無さは一体……」

「とにかく、ここまで大事になったのは未聞よ。やっぱ私が風の神でお父さんが土の神なのがいけないのかしら」

「いきなりすごいよお母さん……」

「ちなみに僕は記憶やら創造を司る宇宙から来た、なんかそれっぽい奴だ」

「うへぇ……」

「だからこの世界の人達が現状を受け入れられるように僕が働きかけておいた、ご心配なく。ご入用なら君にも同じ施しを——」


 そねみは駆け出していた。学校は家より高い所にある。そしてキオミの家も。

「だからきっと……無事だよね!? キーちゃん!」

 結果からいうと無事だった。一時間目は歴史の授業だった。曽倉は居ない。開校記念日らしく、学校は昼で終わるらしい。

「君たちぃ、今日はかつて地球にあった『海』という存在についての授業じゃけぇねぇ」

 普通にノートをとる皆の姿を見て、やはりか、と思った。それにクラスメイトも少し減っている。きっと埋まっちゃったんだろう。そねみは給食のおばちゃんが無事かどうか心配していた。そしてチャイムが鳴った。


「そねちゃん、今日昼から『3災獲り』に行かない?」

 ん? 言葉のニュアンスに違和感を覚える。

「山菜?」「3災」

 えっと……

「風と土と記憶の神のことじゃけど」

 わぁ…………行くか!!

(いてもたってもいられない。このふざけた現状をどうこうするには獲るっきゃない!!)

「そねちゃん給食の後ね。まだ一時間目終わったばあよ」

「メンゴリアンシンドローム!」

 ちなみに給食は出たが、メニューにあったほうれん草のゴマ和えが無かったので、物流に影響が出てしまったかとか考えていると、解散となった。


 校門を出ると曽倉がヒラヒラと手を振ってきた。

「ご機嫌様、おサボりマンくん」

 気取り屋には気取りで返す。これが彼女の特に意味もない生きる上でのルールだ。

「宇宙的な力で聴いたよ。僕達を倒すって? それを実行するにはまだレベルが足りないと見受けられますがねぇ」

「レベルだと!?」いつの間にそんな概念が出来上がったのだ。

「ちなみに推奨討伐レベルは9000だよ」

「私のレベルは!?」

「3」

「どうやったらレベルを上げられる!?」

「まず道の駅に行って道具を揃えるんだ。そして土に埋まってしまった文明の痕跡を見つける。それを道の駅歴史博物館に寄贈し、歴史的価値の多寡によって経験値が与えられる。そういう感じかな。」

(なんか地味だな……)

「ご親切にどうも、行こっ!」深々とお辞儀をし、キオミの手を取って道の駅を目指した。気のせいか彼女の足取りは重かった。


「キーちゃんはなんぼなん? レベル」

「58、ハズい」

 どの程度のモノか測りかねる。判断基準がまだまだ足りない。あと大好きな海鮮丼を食べられない事実とかにようやく空おそろしい実感とかが湧いてきたりしてる内に道の駅に到着した。

 そこには『未知の益』と書かれた看板やら旗が掲げられていた。

「いかにも経験値とかくれそうな感じだな!」


 中に入ると父が青果売り場で働いていた。よかった、果物は食べられる……

「よぉ、そねみ! 神的な力で聴いたぞ! 俺達を倒すって!? それにはまず道具を揃えないとな!」

「何が要るん?」

「まずはあっちの神父の所で会員登録を済ませるんだ! そしたらあっちでショベルやら何やらを買うんだ!」

「ありがとう!」

 神父のどうでもいい厳かな言葉を聞き、早速道具売り場に走った。いかにも不機嫌そうな店主の親父が居た。

「はっ! 今時個人で且つ手作業で発掘とはな! 最低限重機を操れないと成果は出んぞ! でも応援してるぞ」

 意外と優しかった。にしても声がデカくないと道の駅の従業員は務まらないのか?

「じゃあ、このガーデンスコップを——」

「ガッハー! こりゃ傑作だ!!」

「うるさい! あそこのクソ親父が大した小遣いくれねぇんだよ!」

「聴こえてるぞ! 神的な力でな!」

「どいつもコイツも盗み聴きしてんじゃねぇ! あとリンゴ頂戴、お父さん」


 きっちり195円払わされた。地味に高い。そんなこんなで道の駅を後にする。

「にしても何っにもないねぇ見渡す限り」リンゴを頬張りながら歩く。

 自分家より高い山や遠くの島間を繋ぐ橋、鉄塔ぐらいしか無い。潮干狩りのノリで発掘に出かける家族等も居た。

「ちょっと遠出する? 思い切って電車で」

「ちょっと待った」キオミを見つめる。

「潮干狩りって知ってる?」

「しおひ……? よくわかんないケド……」

 成程、海に関する情報にテコ入れされてるのか。

(例えばキーちゃんに私が海に居る写真とか見せたらどういう反応するんだろう? 疑問が多すぎるしメンドイ。記憶改竄されるのも何かヤダなぁ……)

 ……

「つーか電車あんの!? 離島なのに!?」

「り……とう?」あーもういいや。よし!


 少し歩くとステーション『益』に着いた。もういいよ。

「やあ、また会ったね」曽倉だ。

「行き先は、A地点B地点C地点……あんた手、抜きすぎじゃない?」「そりゃどうも」何か視点が定まってないなコイツ。よくわからんがK地点の切符を買い電車に乗り込んだ。

 電柱と元々島だった山が流れゆく退屈な景色が続く。


「……仲いいんじゃね。曽倉くんと」さっきまで黙っていたキオミが呟く。

「へっ!? いやぁまあ、普通……じゃない!?」いかん動揺を悟られる。

「私もね、今はあんまだけど、小学校の頃は少しだけ話した事あるんだ。発掘の授業の時、色々手伝ってくれたし、一緒に図書委員もした。う、運動会で手も繋いだし、遠足で山間橋の上でお弁当も食べたし、海や昔あった温泉の事話したり……」


「……」


「中学に上がったらね、急によそよそしくなって。すごく…悲しかった。その頃からかな。山菜採りに夢中になって自分の気持ち誤魔化すようにしたの……」


 ……決めた。


「そしたらね、そねちゃんが転校してきて。さっきだって校門とか益で普通に話してて。なんでかなって……」


 私はアイツをぶっ殺す。


「あはは、ゴメンねなんか。言うつもりじゃなかったんじゃけど言わなきゃって……」キオミはボロボロと涙をこぼし出した。


 こんなメチャクチャな記憶を持ったままキオミは生き続けなければいけないのか。そんなの、あまりに……

「ふざけんなよ」

「……」

「あのさ私はさ、曽倉の事なんか何っにも思ってないから。任せといて。私がレベルを上げて3災のヤツら全部なんとかするから」


 私は私で、自分を誤魔化した(再度諦念)。


 暫くしてK地点益に到着する。中途半端に埋もれたビルやらなんやらがひしめく変な所だ。

「どこここ?」「アメリカ大地だよ」

「やべぇ! 念願の海外じゃん!」

 ウキウキで発掘作業を開始する。一時間ほどチビチビ掘ったが、あのうざい親父が言うように成果が出ない。

「あはは、なんも出ねー」「根気だよ根気っ!」

 キオミも少し元気を取り戻したようだ。それにしても小さいピッケル一つで作業するコイツもやばいな……


 もう30分も掘っていると、そねみの手に硬い感触があった。

「おお!?」「えっ何っ!?」キオミが駆け寄ってくる。

「手伝って!」「うん!」

楽しいな、幼稚園の頃に戻ったみたいで。程なくしてソレは姿を現した。


「剣……?」「みたいじゃね」

「汚いなぁ……ま、記念に持って行こうかな」

「お腹空いたし帰ろっか」キオミはキオミで何か熊のぬいぐるみみたいな物を手にしていた。歴史的価値なさそー。


 小汚い剣を手に持ったまま乗る電車は、思春期の彼女にとってあまりに屈辱だったので、車両の間にある連結部で過ごすことにした。

 昼下がりの惚けた時間。疲れも手伝って気怠さを抱いていると、キオミが口を開いた。


「さっき言ったコト、忘れていいけんね……」

「忘れたよ」

「いつか、いつかね。自分の気持ち伝えられたらなーって、思っとんじゃけどね。」いつか……か。

(——待てよ、待て。3災のヤツらを倒したら、この世界はどうなるんだ? 元々の生活に戻れるのか? キーちゃんに誘われて何となく付き添ってきたけど。あとコイツ自分の恋慕の対象がラスボスだって事どう思ってるんだ!?)

「好きな相手倒すって……どんな気持ち?」もう率直に聞いた。

「うーん、まあこんな世界じゃし、しょうがないかなって……」

「そっかあ」←ここで決意が固まる。


「まあさ! 明日休みじゃん? 山菜採りに行ったりさ! もっと遠くに行ったり色々しようよ! これからもさ!」

 いつまでも明日が来る保証が無いって、こんな気分なのか……揺れも手伝ってまた吐きそうだ。

「そうじゃね! 色んな所に行こうよ。折角その……と、友達になれたし!」

 ……本当に最悪の気分だ。



 なんとなく会話が弾まないまま下車し、薄汚い剣を神父に見せに行った。

「はい、鑑識の方に預けましたので、番号札を持ってそこでお待ち下さいね」役所かここは。

「私もね、あんな感じの武器っぽいヤツ幾つか寄贈したんじゃけど、どれもレベル上がらんようなヤツばっかじゃった」

「ほへ〜。ま、期待せずに待っとくわ」機械アナウンスが響く。


[十二番でオ待ちのお客サマ。奥までオ越し下サイ]

 中途半端に流暢な声に思わず笑みがこぼれる。

「ちょっと行ってくるね!」キオミがカウンターの奥に消えて行った。


 周りを見渡す。神父の所に列ができている。

(みんな金ピカな物体やら高そうな壺やら化石みたいな物まで色々持っている……やばい! 大丈夫か私の剣!? 急に恥ずかしくなってきた!)キオミが奥から出てくる。

「あっ! どうだった? ってアレ?」何故かぬいぐるみを抱えて戻ってきた。

「何か有名なブランドで4レベル分の価値があったんじゃけど、かわいいから返して貰った!」

(へぇ、そんな選択もアリなのか。それにしても4て。こちとら9000目指してんだぞ……)


「はいっ! コレっ!」「へ?」


「い、一番大事な友達じゃけあげるね! はい! 以上恥ずかしいから!」

 キオミはそっぽを向いた。思わず抱擁したくなったが、空気の読まれないアナウンスに阻害された。

「じ、じゃあ行ってくるとするかな!」勢いに任せて奥に入る。


 中には更に厳かで荘厳な感じの神父が居た。

「お客様……正直に申しますと——」

「あーハイハイ! ボロっちでしょ! どうせ大した価値の…」

「いえ、それが……!」

「んだよハッキリしろよ! こちとら9000レベ目指して——」

「ならば申し上げます!! 此れはかの有名な神話の遺物! 須佐之男命が繰りし聖なる剣! 天叢雲剣そのものにございます!!」


 な、なんだ急にこのテンションは!? それに学校で習ったあの剣だと!? じじぃ(神父)は捲し立てる!

「もし寄贈してくださるのなら!! お客様のレベルはゆうに30000を超えるでしょう! ぜひ! 是非に!!」

「何でそんなもんがアメリカに……って今何て?」

「須佐之男命が繰りし聖なる——」

「そこじゃねぇよ!! レベルの部分!!」


 喧騒を聞き一般客やらキオミが雪崩れ込んでくる!

「30000相当のレベルが! 確約されます!!」

「……じゃあ、あげる……」

「ありがとうございます!!」ボタンポチっ。

 馬鹿デカいアナウンスが響き渡る!!


[受理サれました!! 受理サれました!!]


「うおおおおお!!」じじぃが年甲斐もなくガッツポーズを決める!!

「うわああああ!?」そねみが不思議な光に包まれる!!

「そねちゃん!!めっちゃ光っとる!めっちゃ光っとるよ!!」キオミは混乱している!!

「ぼほおおおお!!」一般客は我を忘れる!! 祭りだ!!


「ス、スゴい。今なら何でもできそうな気が、イヤ……これアレだわ——」


『なんでもできるわコレ!!』神を遥かに凌駕する最強の女子中学生が誕生した!!


一同「「「うおおおおおおおぉ!!!」」」


『多分圧政とかに苦しんでいたお前らよ! 今日こそ私が! 苦しみの……なんか鎖とかを断ち切ってやる!』

 気の利いた台詞を言おうとしたがダメだった。頭脳は据え置きらしい。


一同「「「うおおおおおおおぉ!!!」」」

「なんか泣けてきた……!」キオミは物分かりのいいヤツだ。


『さて』そねみは超高速で青果売り場に移動した!

『お父さん!』「そねみ! お父さんは分かってるぞ! お前の成長が見れて——」『ありがとう!!』

 そねみの真空列弾ドロップキックが炸裂する!! 父と売り場は消滅した!!


「そねちゃん!! スゴい! スゴいよ!!」

『荒っぽいけど許してね!』

「ううん! もう全部やっちゃってよ!!」


『それともう……私行くね! どんな結果になっても私達は——』

『——ずっと友達だから!!』そねみは神速で姿を消した! 突風が店内を襲う!


「あっ……」


「ぬいぐるみ! クマちゃんのぬいぐるみ!! ずっと……ずっと大切にしてね!!」



 その頃そねみは、庭先に居た母の背後にワープしていた。

『ただいまー、お母さん』「……来たわね」

『おっ、新しい花植えたんだ。何か不恰好だったもんねーのっぺらぼうみたいで!』「フフ」

『小さい頃さぁ、洗い物とかしてるお母さんの後ろに立ってさ、よくやってたよね』


「そーちゃん」『んー?』


「……またね」瞬間! そねみのギガンティック膝カックンが炸裂する! 母と家は陥没し灰塵と帰す!!

『さぁて』気配を察知したそねみは山へと飛ぶ!



『ふー。アンタさぁ、もうちょい開けた場所に居てくれたら助かるんだけど』

「ここは彼女が……よく山菜を採りに来てた所なんだ」

『ふぅん。でさ、私が何しに来たか分かってるよね?』

「そりゃもう。でも——」

『でも?』


「君の記憶を消す! 僕の勝ちだ!!」『な、何だと!?』そねみの視界が歪む!!


「さて」


「あーあー、質問です。あなたの本名は何ですか?」

『相田そねみ』「!?」

「き、効いていない!?」

『ははぁ、どうやらレベル差がつき過ぎて効かないみたいねぇ。で? 次は——』曽倉は神速で戦線から離脱した!!


(ぐっ……! こうなったら僕も発掘して相応にレベルを上げるしかない! 何て事だ! 自分で作ったルールで不覚を取るなんて……!)

『ヤッホー♪』そねみが超光速で追いついてきた!!

 曽倉を激烈に地面に叩き落とし、そねみは即座にマウントを取った!! 粉塵が晴れゆく!!


『はぁ……手間取らせてくれちゃって』その手は曽倉の首元に置かれる。

『どーせアンタ今から死ぬんだからさ、最後に聞かせてよ』

「な、何を……!?」徐々に手に力が込められる。


『キーちゃんの事どう思ってるか』

「き、君に関係ないだろ……!」


『あるわぁ!!!』おっといけない殺す所だった。


『アンタが!! キーちゃんに冷たくしたせいで!! どれだけあの子が!! 傷ついてたか!! わかってんの!? ねぇ!?』

「いふ! 言ひます……! 手ェ放せよ!!」


「——なんかその……照れ臭くって」


『……?』


「……す、好きだよ! 今だって! ホラこれでいいんだろ!?」


 ……ぷっ。


『ガッハーッハッハ!! こりゃ傑作だ!!』

「!?」

『宇宙から来た、待って……! う、宇宙から来た記憶やら創造の神様ともあろう者が! て、照れ! ダ、駄目だお腹痛い……!』

「わ、笑うなよ人の恋を! だいたい僕は君の——」

『はいレベル30000の攻撃力1億のデコピンどーん』曽倉は消滅した!!


『あー笑った。ほんの一時でもあんなヤツ好きだった自分が恥ずかしいわ』


『……ホント、恥ずかしいわ……』


 ……???


『なんも起きないんだけど!?』

 そねみがそりゃないだろう! と思う一方その頃! 学校の職員室で担任の先生が一人ごちていた。


「相田くぅん、ようやく僕もこの退屈な世界からオサラバできそうだよォ……」突如! 職員室に轟音が舞い降りる!!

『神をも凌駕する聴力で聴いたぞ!! 何が「退屈」だ! 何が「オサラバ」だ! ……ねぇ訳知り顔の先生?』

「……」

『私はねぇ! ついさっき自分の手で親を殺して! 好きだった人も殺して! 親友とも多分もう会えなくて!』

「……」そねみの右手に全ての力が込められる。その眼に浮かんだほんの少しの涙を教師は見た。


「好きに振る舞えばいいと思うよォ……」

 渾身の力が貫いた。



 ——アレ? ——なんだか意識が……

 ……あの先生が……

 ……それって何か……やだなぁ————


————————————————————————


 憂鬱な朝が来た。誰も私を知らない憂鬱な。

まごついた心が微睡みを培う。全くもって——


「そーちゃん! いつまで寝てんの!!」

 母に叩き起こされる。その眼には優しさやらが宿っているが、それにしてもキレすぎだ。怖っ。

「だってさぁ、緊張するじゃん。転校初日なんてさぁ……」

「あんたが引越したいって言い出したんでしょ。ほら、シャキッとして! 顔洗って!」

「うるさいなぁ……」


 こうして私は教室の扉の前に立っている。膝が震える。先生とおぼしきネチっこい声を合図に扉を勢いよく開けた。


(よしっ!)


「私は相田そねみです! 東京出身のアメリカ育ち!あ! 10才までね! えとこの子は向こうからの友達のクマちゃんで——」

 何やら熱心にクマちゃんを見つめる女の子が居る。気に入ったのかな?

「しし自然が大好きで! 私のワガママでこっちに来ました! や、よろしくお願いします!!」

 徐々に拍手が沸き起こる。やった……!


 未だ冷めやらぬ心臓を押さえながら何故か空いていた席に着く。さっきの子の隣だ。


 そのまま授業を受け、一時間目を終えた。即座にその子が話かけてきた。

「そのぬいぐるみさぁ……なんかアレよねぇ……」

「あ、アレっ……て?」

「——メチャクチャかわいいんですけど!!」

 なんだかこの子とは、すぐに打ち解けられそう。それにしても、さっきからチラチラ見てくる男子はなんだろう? 話しかけてみる。


「えと、どこかで会ったり……?」

「やれやれ! いきなりナンパかい? 残念だけど僕はそこの……キ、キオミちゃんと付き合っているんだからな!」早口で何か言ってきた。コイツとは馬が合わなさそう。

「そーくんやめてよいきなりさぁ! 困ってんじゃんホラぁ!」


 バンっ!!(激烈に机を叩く音)

 教室が静まり返る。……なんだか。


「楽しくなりそうっ!!」


 教室がざわめき(日常的な)を取り戻す。2人は色んな事を教えてくれた。馴れ初めとか、山菜の話とか、海の話! なんだか今日は——


(ふふ、どうだい? 君の願望が全て叶った世界は。ま、たった一つ、僕の恋人になれなかったのが残念な所だけど)


「アンタさぁ、何ニヤニヤしてんの! ホラ! 3人で海見に行くよ!」

「おっお前転校生の癖に馴れ馴れしいぞ!」

「あははっ! 置いてくよそーくん!」


 ——なんだか今日は、カラッとしていい気持ち!!


スーパーウルトラインストゥルメンタルハッピーエンド⭐︎

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朝はカラッとしていたい!〈SF短編〉 おみゅりこ。 @yasushi843

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