風船とナマケモノは一緒に浮かんでいる

ソノハナルーナ(お休み中)

第1話

風船は、浮かぶことも割れることも自らの力で操作することができないことを知っていた。

ナマケモノは、怠けているのではないこと、そして働き者になっていた自分をいつも鼓舞していた。ナマケモノは、ふれあいの森<ブルージュの祝い>で未経験、無資格で介護職として、3月からバイトとして働いていた。会社でバイトから正社員へと変わっても働いていた。4月に一度パラハラにあっても、めげずに働いた。それは、周りの上司や先輩である複数のクマさんが助けてくれたからだった。

5月の終わりに近づいた時、転機はまた訪れた。

上司のクマサトさんから「6月の目標は、見守りが1人で出来るようになることだよ。そのために、どうしても教えてもらう人がドーベルマンさんになるんだけどいいかな?」と言われた。

ナマケモノは、正直なことを言えなかった。本当は、嫌だ。でも、自分の気持ちに蓋をした。

そして、「わかりました。大丈夫です」と言った。

その一言が、後になってナマケモノの心に膜を張ることになった。

6月の勤務表が5月25日に自分のフォルダに入っていた。確認した瞬間、何度も本当のことなのかと確認したが、本当のことだった。

ほとんどの日、ドーベルマンさんとかぶっていた。

ああ、絶望だった。

ナマケモノには、不安なことが複数個発生してた。

①分からないことを、忙しそうで聞けないことが、毎日重なってどうすればいいのか、不安になっていたということ。

②ドーベルマンさんは、1回目は優しく教えてくれる。だけど同じことになると、顔が険しくなる。だから、ドーベルマンさんから教わる時は、1回で覚えるようにしている。

それがもう、耐えられなかったのかもしれない。

③ドーベルマンさん関係だが、人を褒めるようなことを言って、最終的には、平気で人のことをけなしている。それは、その人の態度を見るとよく分かる。

①〜③のことが、ナマケモノ自身に重くのしかかっていた。

精神的な疲れは、身体の体調をも崩すものになった。

5月27日から29日まで、体調不良で休んだ。そのうちの5月27日は、駅から、歩いて会社に向かう途中の遊歩道でもう足が進まなかった。そして、風邪を理由に休んだ。本当は、風邪なんて引いていなかった。

5月30日、3日間休んで体調が良くなって、ナマケモノは会社に行った。

制服に着替えて、職場のフロアに行った。何事もなく過ごした記憶がある。だけど午後になり、気持ちが悪い。心と体がバラバラになっている気がした。

ふれあいの森<ブルージュの祝い>で暮らしているご高齢の動物方の話を聞いていても、涙が出そうになる。

注意力が散漫になっていて、自分が何をしているのか分からなくなっていた。ナマケモノは直感的に感じた。「今は、働いてはいけない。」と。

先輩でもあり、上司でもある、カンガルーさんにナマケモノは自分の悩みを相談した。カンガルーさんは、自分より1年先輩で、どうしたらこの1年を越えられたのか、尋ねた。

答えは、悪口。それだけだった。

ナマケモノには、もうその答えに順応する力は残っていなかった。

カンガルーさんは、言葉を続けた。

相談する相手がいないなら悩みでも、愚痴でも何でも聞いてあげるよ。

その一言に、ナマケモノは救われた。

だけど、その日がナマケモノにとって、最後の出勤日になった。

6月1日、ナマケモノは布団から起きれなくなった。会社に行きたくても行けなくなった。

心の中で、カンガルーさんにごめんなさい。ごめんなさい。と泣きながら謝っていた記憶がある。

6月2日、父と共にチータークリニックに行った。

ナマケモノは、チーター先生に何もかも話した。話の後半で涙が止まらなかった。すべてを話し終わった後、チーター先生は、「診断書を出してもいい?」と言った。

ナマケモノは言葉に詰まったが、「はい」と返事をした。チーター先生は、うつ状態だと言っていた。

父には、抑うつ、双極性障害に近いと言っていた。

 ナマケモノは、2ヶ月休職することになった。

眠れないことも、ご飯が食べれないことも、気分が優れないことも全部病気だった。

もう頑張らなくて良いんだ。業務上、怒られている理由、注意を受けている理由の、あの、その、それの指示語の意味が分からず、先輩、上司のあの、その、それの指示語に当たる業務をその場で見て覚え、家に帰りその業務をノートに書いて、インプットとアウトプットをしなくても良いことに気づいたのは、休職して2週間後でした。

その職場に慣れようと頑張って、頑張って来た。スピード違反もいっぱいした。止まれという文字も何度も気づいたはずなのに、いつのまにか自分のクルマ(心)で、自分を轢いて事故を起こしてしまった。

これからは、轢いた自分を治すこと、大破した自分のクルマ(心)を直すこと。

どれくらいかかるかわからない。だけど、ちょっとずつでいい。急がなくても、焦らなくてもいいんだ。頑張ることももう必要ないんだ、もう十分頑張りすぎたから。

 これからは、風船と共に浮かびながらゆっくりと進みながら歩いていくと、ナマケモノは決めた。

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