第4章
第101話 役割決め②
長かった夏休みも、過ぎればあっという間だったような気がする。いろんな出来事があり、とても濃密な夏休みだった。
俺は久しぶりに制服に袖を通し、蒸し暑さに耐えながら、二学期の学校へ向かう。
電車に乗って、久しぶりに学校の最寄り駅で降りる。人混みに揉まれながら移動するのは、気温も相まってとても暑苦しかった。しかし、およそ一ヶ月半ぶりということもあって、この状況にどこか懐かしさも感じていた。
「おはよう、ほまれ」
「あ、おはよう、みなと」
後ろから声をかけられる。振り返ると、そこにはみなとがいた。
彼女と会うのは、イベント以来三日ぶりだ。しかし、イベントでは直接話さなかったので、会話をするのは夏祭り以来となる。
いつもの調子で話しかけてきたみなとだが、以前見た時とは見た目が違っていた。
「髪型変えたんだ」
「ええ。……どうかしら」
「似合ってるよ」
「そう? ありがとう」
今まではサイドテールにしていたのだが、今日はハーフアップだ。
「髪、伸ばすの?」
「そのつもり。ところで、ほまれは髪型は変えないの?」
「んー……」
そういえば考えたこともなかった。俺は自分のツインテールを触る。
初めてこの体で目覚めた時、ツインテールだったからツインテールにしているだけで、この髪型自体に特に深い意味はない。変えようと思えばいつでも変えられると思う。
もし変えるとしたらどんな髪型に変えようか? ツインテール以外にしたことがある髪型はポニーテールくらいしかない。だけど、みなとみたいにハーフアップにしてもいいだろうし、お団子とかでもいいだろう。それに結ばずそのまま流すのもありだ。
できない髪型といえば、髪がとても長い、あるいはとても短くないとできないものくらいだ。俺には発毛機能なんてないはずだから、一度髪を切ってしまったら元には戻らない……はずだ。発毛機能があったとしたら、それはそれでちょっと怖い。実際のところは、みやびに聞いてみないとわからないけど。
「まあ、しばらくは変えないかな」
「そう」
この髪型に飽きたら、そのうち変えようかな、なんて思うのであった。
「ところで、この前の腕相撲大会、優勝おめでとう!」
「ああ、ありがとう」
「ほまれなら優勝すると信じていたわ!」
「あはは……」
みなとは目を輝かせながら、なぜかちょっと得意げに言った。
個人的にはかなり危なかった。もしみやびと電話が繋がらなかったら、間違いなく棄権になっていただろう。
ちなみに、あの後みやびには、声を出さなくても脳内電話をかけられるように改造してもらった。これで、どんな状況でも周囲に怪しまれることなく助けを求めることができるぞ!
最終的に、この大会で優勝したことで、俺は有名遊園地の一日パスをゲットした。そして、その使い道はすでに決めている。
「みなと」
「どうしたの?」
「この前のイベントで、優勝商品として遊園地の一日パスをいくつかもらったんだけど……今度一緒に行かない?」
「いいの?」
「うん」
みなとはちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑った。
「ありがとうほまれ……楽しみにしてるわ」
……俺は、この笑顔を見るために生まれてきたのかもしれない。そんな思考が一瞬脳裏を掠め、その直後に自分ののろけ具合に顔が熱くなった……ような気がした。
※
二学期初日ということで、今日は授業らしい授業はない。
さらに、午前しか授業がないのだが、始業式自体は三十分もかからずに終わってしまった。
では、残りの時間は何に費やされるのか?
「えー、では、LHRを始める」
その答えは教壇に上がった担任の斎藤先生が言った。
「さて、あと文化祭まで一ヶ月となったわけだが、この時間はその準備に充ててもらう。では、文化祭実行委員、後はよろしく」
斎藤先生は、そう言って教室のドア横の椅子に腰掛けた。
先生からバトンタッチされた文化祭実行委員は、入れ替わるように教壇に上がる。男女一人ずつで、そのうちの女子の方は越智だった。
彼女が早速話し始める。
「それでは、今日はそれぞれの当日の役割について決めたいと思います」
男子が紙を見ながら黒板に文字を書く音をバックに、越智は滔々と話し続ける。
「以前決めたとおり、わたしたち二年C組は、『たこ焼き』を出店することに決めました。そして、当日店を回すために必要な役割は、黒板に書いたとおりです」
黒板を見ると、そこには役割一覧が書かれていた。接客担当、会計担当、誘導担当……それ以外にもいくつかの役割が書き出されていた。その下には数字も書かれている。
「下の数字は、その役割に必要最低限の人数です。まずは、自分の名前を希望する役割の下に書きにきてください。人数は多少オーバーしても構いませんが、これに満たないところへ移動してもらうかもしれません。決めるにあたって、席を移動して友達と話し合っても構いませんよ」
越智がそう言うと、クラスが騒がしくなる。何人かはすでに何をするのか決めていたようで、早速黒板に名前を書きにいっていた。
ぶっちゃけ、俺はなんでもいい。なんでもいい、というのは、黒板に示された役割に好き嫌いはないし、どれにあてがわれてもそれなりにこなせる自信があるからだ。
ただ、やるなら、他の人よりもうまくできる役割をしたい。せっかくアンドロイドになったのだから、それを活かせるような役割を担って、クラスに貢献するのが一番いいだろう。
それを考えると、俺の特性が一番活かせそうな役割は……。
数分間思案した後、俺は席を立つと、黒板の方へ向かった。
「お、ほまれも決めたのか?」
「うん」
順番を待っていると、佐田が声をかけてきた。佐田も何をやりたいのか決めたようだ。
「どれにするんだ?」
「それは……」
すると、ちょうどチョークが回ってきた。俺は答える代わりに、チョークで黒板に自分の名前を書き込んだ。
「……調理担当か」
「うん。これにするよ」
「へぇ……チャレンジャーだな。たこ焼きの調理って、結構コツがいると思うぞ。ひっくり返すの、結構難しそうな気がするが」
「そうかもしれないけど、だからこそ、かな」
俺は佐田にチョークを渡しながら続ける。
「たこ焼きに限った話じゃないけど、料理って結構定量的なものだと思うんだ。決まった量を使って、決まった手順を使えば、それなりにいいものができる。もちろん、最高のものではないかもしれないけど、一定の基準は満たせると思う。そういう作業って、俺に向いていると思うんだ。慣れれば高速化できるし、習得する速度も、実際に料理する速度も他の人より速くできる。そういう点で、俺はクラスに貢献できると思うんだ」
「なるほどなぁ……立派だな、ほまれ」
「……それに、もともと料理することは得意だから」
「そっか。まあ、頑張れよ」
ちなみに、佐田は誘導担当のところに名前を書いていた。
しばらくすると、全員が名前を書き終わったようで、越智が話を再開する。
「全員名前を書きましたね。人数の足りない役割はないみたいなので、これで決定とします。いいですか?」
クラスから無言の肯定。越智は話を続ける。
「文化祭は二日間ありますが、全員少なくとも一日一回はシフトに入ってもらいます。ただ、時間帯ついては同じ役割の人と話し合って調整してください。その話し合いの時間は次回のLHRでも設けますが、それまでに各自でSNSでグループを作って、そこで決めても構いません。むしろ、そうしてもらえるとありがたいです」
ここでチャイムが鳴り、文化祭についてのLHRは終わった。
本番まであと一ヶ月。俺はたこ焼きマスターになるために、家で練習しようと心に決めるのだった。
そういえば、たこ焼きプレート、台所のどこにあったかなぁ……。
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