宇宙移民V

二合 富由美

第1話 コロニー

 宇宙せかいは広大だ。

 その宇宙では、多くの生命が集団コロニーを作って生活をしている。


 だが、それらとは逆に集団を作れない者達も居て、それらは【宇宙移民】や【V】と呼ばれていた。


 彼等【V】は単独で船に乗り、広大で無機質な空間を旅していく。

 生存可能なコロニーに着くまで、エネルギー節約の為に、この乗員は眠ったまま旅をしているのだ。

 推進力など、広大な宇宙では意味を持たない。

 初速の慣性のみで宇宙を旅して行く。


 宇宙の厳しさに対抗する為に質より量が優先され、生まれたコロニーから、多くの兄弟姉妹達が、同様に旅に出た。

 彼等が生まれたコロニーでは、いわゆる違法滞在者である為に、同じ所に居座る事ができないのだ。ほぼ強制的に排除されてしまう。

 宛もなく旅立った彼等の多くが、事故や維持物資切れ、到着したコロニーの警備などにより、帰らぬ者となっている。


「どうやら、ユニットに潜入できた様だな」


 推進力を持たず、ただ漂うだけの宇宙船がコロニーに到達するのは、時の運だ。

 運良くコロニーに到達しても多くの警備システムを掻い潜る必要がある。


 宇宙船はコロニーに侵入すると、コロニーを構成している【ユニット】と言う部分に取り付き、乗員Vを送り込む。

 送り込む時に使われるのは、宇宙船に搭載された【通行証パス】で、彼等が生まれたユニットで入手したものだ。

 宇宙移民を警戒するコロニーでは、この通行証が無効になっていたりする。

 だが、宇宙船には数種類の通行証が装備されているので、警備に通報されなければ、他のゲートから他の通行証で何度でも挑戦する事ができる。


 ユニットに送り込まれた時点で、乗員は初めて覚醒するのだ。


「ココにも、多くのジーンが居るな。この構造材を辿れば、ライブラリーの近くにある【複製器】にたどり着く筈だが」


 見上げれば、巨大な基本構造材が目に入る。


 この【ユニット】の中では、Vと同じ様な【ジーン】と呼ばれる存在が活躍している。

 似てはいるが、彼等は仕事や存在理由が有り、Vの様な【自由な存在】ではない。


 彼等はコロニーで生きる為に、自由を捨てた存在だ。

 コロニーで産まれ、コロニーの為に働き、犠牲になっていく。


 それに対して自由を捨てなかった【V】は、こうしてコロニーのシステムや物資を奪わなくては生きてはいけない。


 コロニーを構成するユニット間には警備システムが巡回しているが、ユニット内には存在していない。

 ユニットまで侵入できれば、後は安全に行動できるのだ。


 Vの宇宙船に対しても巨大な存在であるユニットは、中心から張り巡らされた繊維状の基本構造材で支えられている。

 この構造材に、エネルギー転換システムや、情報ライブラリー、複製器、物資加工輸送システム等がくっついており、乗員が求める【複製器】は、この構造材の中心近くに多数存在する。


 構造材の間は、多数の物資で溢れている。

 何もない宇宙とは大違いだ。


 それらを掻き分けて、乗員はユニットの中心部に向かう。


 基本構造材の周囲にも、多くの補強材が張り巡らされており、宇宙の外的驚異などにも耐えられる様になっている。

 張りボテの様なVの宇宙船とは強度もケタ違いだ。


 ユニットでの行動の全ては、Vの体に覚え込まされている。

 コロニー全体が、いかに巨大で複雑に変化しようと、それを構成するユニットは、十億年以上前から大差はない。


 ユニットの中心部に向かうにつれて、加工済みの建材や物資が増えていく。

 そして、このユニットで生まれた【ジーン】達も段違いに増えていく。


「おお、ようやく【複製器】が見えてきたか!」

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